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「ジャスティン・フィンチ-フレッチリーです」

 グループに加わってきたハッフルパフの男の子が、ハリーに手を差し出してきた。

 それに応じながら、ハリーはそっと彼を見た。彼には見覚えがある……リン・ヨシノを取り巻いている生徒の一人だ。

「君のことは知っていますよ、もちろん。有名なハリー・ポッターだもの……。それに君はハーマイオニー・グレンジャーでしょう ――― 何をやっても、グリフィンドール一番の」

 ハーマイオニーは、彼の言葉を素直に褒め言葉として受け取らなかったらしい。わずかに頬を引き攣らせ、曖昧に笑いながら握手に応じていた。

「それから、ロン・ウィーズリー。あの空飛ぶ車、君のものじゃなかった?」

 ロンはニコリともしなかった。「吼えメール」のことがまだ引っかかっていたらしい。とはいえ、ハーマイオニーよりひどい態度だ。

 しかし、ロンの無愛想さと不機嫌さとは反対に、ジャスティンは愛想も機嫌もよかった。

「リンって、素晴らしい人ですよね?」

 四人がそれぞれの鉢にドラゴンの糞の堆肥を詰め込んでいるとき、ジャスティンが朗らかに、そして恍惚とした様子で言った。

「ものすごく素晴らしい人です。さっきの、もちろん見ましたよね? 先生の突然の質問にサッと答えて……優秀さが垣間見えた瞬間だと思います。いや、彼女が優秀であることなんてもはや周知の事実ですが。なにせ、彼女の右に出る人なんてほとんどいないんですから……リンは、いつだって何をしたって、誰よりも優れている。彼女は、何と言うか……そう、輝いている」

 ハリーはロンと目を見交わした。ロンは「まったく呆れちゃうよな」という顔で肩を竦めていた。次にハーマイオニーを見ると、不機嫌そうに顔をしかめていた。

「彼女は僕らハッフルパフ生の誇りだ……そうでしょう? あんな人、僕、今まで会ったことがありません。あんなに有能で、それでいて気取らず驕〔おご〕らず謙虚で、才能をひけらかさず、優しく、気高くて……傍にいたくなる。彼女はとても魅力的だ……」

 ジャスティンは夢見るような目で、少し離れたところで作業をしているリンを見つめた。

 ハリーはもう一度ロンを見た。ロンはポカンと口を開けて「おったまげー」という顔をしていた。次にハーマイオニーを見ると、驚くぐらいに無表情だった。

「 ――― 僕、ほら、あのイートン校に行くことが決まってましたけど、こっちの学校に来れて本当に嬉しい。リンに出会えましたからね。もちろん母はちょっぴりがっかりしてましたが……」

 それからは、四人とも(といっても、話していたのはほとんどジャスティンだけだったが)あまり話すチャンスがなくなった。耳当てをつけたので互いの声が聞こえなくなったのもあるし、マンドレイクに集中しなければならなかったからだ。

 たっぷりマンドレイクと格闘し、授業が終わるころには、みんな汗まみれの泥だらけだった。

 ベルが鳴るとすぐ、ジャスティンはハリーたちへの挨拶もそこそこに、リンと他の生徒数人のところへ駆けていった。

 ハリーたちは彼の背中を見送ったあと、温室を出て城へ帰り、簡単に汚れを洗い落とし、次の授業へ急いだ。

 廊下を歩きながら、ロンが呟いた。

「リン・ヨシノって、よっぽどすごい奴なんだな。あんなに言われるなんて」

「あら、たった一人の話を聞いただけで人を判断するって言うの? 馬鹿げてるわ」

 ハーマイオニーがピシャリと言った。

「しかも彼、明らかに誇張してたわ。主観も入りすぎてたし」

「でも、たしかに先生たちも、よくリンのこと褒めてるよ」

 ハリーが言うと、ハーマイオニーはキッとハリーを睨んだ。ハリーはハーマイオニーが口を開く前に慌てて付け加えた。

「もちろん、君のことだって、いつも褒めてるよ。先生たちは生徒のことをよく見てるんだから」

 しかし、ハリーが変えかけた流れをロンがぶち壊した。

「でも、リンはスネイプからも点をもらってるんだろ?」

 恐ろしい沈黙が流れた。ハリーがハーマイオニーを見ると、さっきと同じように完全に無表情だった。

 ハリーはロンを肘で小突いた。ロンは「何だよ」と不機嫌そうに振り返ったが、ハリーがハーマイオニーを顎でしゃくって示すと、口を噤〔つぐ〕み、ハーマイオニーの様子を窺いながら、そろそろと謝った。

「あー……あの、ごめん、ハーマイオニー。えーと僕、言い過ぎた」

「あら、別に、気にしてないわ」

 ハーマイオニーが素っ気なく言った。

「でも一つだけ言っておくわ。――― スネイプは、グリフィンドール生には絶対に点を与えません」

 凄むように言ったあと、ハーマイオニーは早足で教室へと歩いていき、二人に見向きもせずに中へ入っていった。

 残されたハリーとロンは顔を見合わせた。ロンが肩を竦めて、教室を親指でしゃくった。

「今のは絶対言い訳だったよな」

「僕もそう思う」

 ハリーはハーマイオニーを見ながら頷いて、歩を進めた。

 ハーマイオニーはラベンダー・ブラウンとパーバティ・パチルと一緒の机に座っていた。どうやらハリーたちと授業を受ける気はないらしかった。ロンはちょっとだけ顔をしかめた。

「でもあいつ、本当は悔しいんだ。自分が一番になるのを邪魔されてるから」

 まったく、本当パーシーそっくりな奴だよ。そう言って、ロンはハーマイオニーから離れた席に座り、つぎはぎだらけの杖を取り出した。


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