「ハリー! ありがとう! 本当に、感謝します!」

 第一試合の翌朝のことだった。無事に課題をクリアし、かつロンとの仲が元に戻った満足感に身を包み、朝食のために大広間に降りていったハリーは、ジャスティン・フィンチ-フレッチリーから突撃を食らった。といっても、敵対的な突撃ではなく、好意的なものだった。

「な、なにが? なにに対しての感謝?」

 腕を掴まれブンブン振られる状態で、ハリーが聞いた。満面の笑みで勢いのよい握手をされ、もうバッチリ目が覚めた。ほかの生徒の注目まで集めている。ジャスティンは、何がなんだか状態のハリーを見て首を傾げた。

「なにがって、リンの代わりに代表選手として選ばれたことですよ?」

「は?」

 意味が分からない。呆然とするハリー、ロン、ハーマイオニーの前で、ジャスティンは上機嫌につらつら語り出す。

「リンを差し置いて立候補して当選するなんておこがましいにも程があると思って気に食わなかったのですが、昨日、考えを改めました……あんな競技に出たら、リンが怪我をしてしまう可能性があるじゃないですか? ああ、いえ、リンが失敗するなんて露ほども心配する必要がないわけですが。しかしあんな巨大な生物が相手となると、いくらリンといえど、やはり心配でしょう? それに、代表選手になった場合、課題やその準備で忙しくなって、僕らと過ごす時間が減ってしまう……そんなこと耐えられません。ですから、君に感謝しています、ハリー。君が年少の代表選手となってくれたおかげで、リンが無事に僕らの傍にいてくれるわけですからね。この数週間、ひどい態度を取って申し訳ありませんでした。心から謝罪をします。これからは君のことも応援しようと思っているので、どうか僕の非礼を許して、また友好的な交流関係を築かせてくれませんか?」

 立て板に水……を通り越して、もはや滝。そのくらいの勢いで発言を終えたジャスティンに、ハリーは呆然と「ウン、分かった。オッケー」と返した。

 ジャスティンは表情を明るくし、再び礼を言って、すでにテーブルに着いているリンの元へと駆けていった。その後ろ姿を見送り、ハリーは、冷静に分析できているであろうハーマイオニーを振り返った。

「えっと、つまりどういう展開?」

「もう冷たい態度は取らないから、これから仲良くしましょうってことよ」

 かなり大雑把にまとめたハーマイオニーは、リンの隣に腰かけたジャスティンを見やって、ふうと溜め息をついた。

「彼の思考って、呆れるくらいにリンが中心なのね」

「いまさらよ」

 背後からベティ・アイビスが現れた。まだ眠いのか欠伸をしている。横にはハンナ・アボットとアーニー・マクミランがいた。ハリーとアーニーの目が合う。

「ハリー、僕は、この数週間君に対して失礼な態度を取ったことを恥じています」

 すーっと息を吸い込んだあと、アーニーは背筋を伸ばし、丁寧に言った。二年生のころ似たようなことがあったと、ふとハリーは思った。

「君は過酷な運命にある。とても大きな困難に立ち向かっていかなければならない。そんな友人を個人的で不公平な感情で恨んでしまい、本当に申し訳ありません。心からお詫びします」

「私も、ごめんなさい」

「どーもすみませんでしたー」

「まじめに謝りなさい」

「誠に申し訳ありませんでした!」

 ハンナとベティが続いた。渋々といった調子で不真面目に呟いたベティは、いきなり現れたスーザン・ボーンズ(実は最初からベティの後ろにいた)に笑顔で圧力をかけられ、真っ青になって頭を下げた。

 まったく……という顔でベティを見たあと、スーザンはハリーを見た。

「ハリー、私も謝罪するわね。あなたが被害者だと分かってたのに、あまり話しかけられなくて、ごめんなさい」

「そんなに謝らなくていいよ……君たちが怒るのも当然だったし」

 スーザンからの謝罪まで受け、ハリーが言った。アーニーたちが目を丸くする。

「でも、ハリー、僕たち、」

「いいんだ。また仲良くしてくれれば、それで十分だから」

 きっぱり言うハリーに、ハーマイオニーが「まったく、お人好しなんだから」とぶつくさ言う。スーザンも「本当……ちょっと心配ね」と口元に手を当てた。

「遠慮せず、もっと怒鳴りつけて当たり散らしてもいいのよ? アーニー相手になら殴りかかってもかまわないし」

「えっ?!」

 首を傾げて平然と言うスーザンに、アーニーが目を剥いた。ハリーたちも思わずスーザンを見る。ショックを受けているアーニーに、彼女は「あら、アーニーは男だから、問題ないでしょう?」と微笑んでいた。

「言っておくけど、私だってイライラしてたのよ? スリザリン生に乗せられて品のないバッジをつけたり、ハリーに話しかけるリンに文句を言ったり、私を拘束したりと、あんまりバカなことをあなたたちがするものだから」

 ふうと溜め息をつくスーザンに、ベティたちが縮こまった。口々に「あれは……」とゴニョゴニョし出すが、スーザンに「言い訳なら聞きたくないわ」と突っぱねられる。

 その様子を見てハリーは、このグループではスーザンが二番目に強いのかと思った。一番はもちろんリンである。

「あなたたちは寛大なハリーにもっと感謝すべきよ。とくにベティ、あなたの言動が一番ひどかったけど、その自覚はあるの? さっきもふざけた謝罪をして……いつもそう。誠実さに欠けてるのよ。私が何度言っても態度を改めないんだから」

「こ、今回はほんとに悪かったって思ってるわよ」

「だったらどうして、」

「そろそろ食べ始めたら? 遅刻するよ」

 くどくど説教するスーザンにベティがたじろいだとき、突然、通りがかりのリンが割って入った。全員が固まる。

「私は先に行くよ。図書館に寄りたいから」

 ハンナたちに言い置いて、リンは歩き去る。彼女の肩の上に乗っているスイが「やれやれ」と言わんばかりに首を振って尻尾を揺らし、ジャスティンが「リン、僕もご一緒します!」と追いかけていく。

 その少しあとに「あ! リン姉さん!」「おはようございますー」という声が聞こえ、「え! だれですか、この人!」「リン姉さんの恋人さんですかぁ」などと続き、なんとなく騒がしくなる。

「……空気読めよ!」

 数秒の沈黙のあと、ロンがツッコミを入れ、みんなが同意した。

4-38. 敵意が解ける

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なんとなく収拾つかなくなったので、空気ぶち壊してもらいました。無理やりで申し訳ない。

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