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「さて! みんなよく食べ、よく飲んだことじゃろう」
夕食のあと、ダンブルドアが立ち上がり、いくつかの注意事項を述べ出した。城内持ち込み禁止品の追加。森への立ち入り禁止令。一、二年生および許可なしの生徒に対する、ホグズミード村への外出禁止令。
「今年は、リン、君も行けるのかい?」
「うん、行けるよ。今年は伯父上からサインをもらえたからね」
アーニーの質問に答えると、ハンナとジャスティンが喜んだ。その声に被せて、ダンブルドアが爆弾発言を落とした。
「それから今年は、寮対抗クィディッチ試合は取りやめじゃ」
「なんだって?!」
エドガーが愕然とした表情で叫んだ。ほかのテーブルからも似たような声が上がった。ダンブルドアが続ける。
「これは、十月に始まり今学年の終わりまで続くイベントのためじゃ。先生方も、ほとんどの時間とエネルギーをこの行事のために費やすこととなる ――― しかし、わしは、みながこの行事を大いに楽しむであろうと確信しておる」
ダンブルドアはニコリと微笑んだ。スイがリンの膝の上から肩の上へと移動する。
「ここに大いなる喜びをもって発表しよう。今年、ホグワーツで ――― 」
ちょうどそのとき、耳をつんざく雷鳴と共に、大広間の扉がバタンと開いた。その一瞬前に、リンは目を向けていたが。
戸口には一人の男が立っていた。長いステッキに寄りかかり、黒い旅行用マントを纏っている。男はフードを脱ぎ、長い暗灰色まだらの髪を振るって、教員テーブルへと歩き出した。
コツッ、コツッ、鈍い足音がする。男の足を見て、義足かと納得した。ふと視線を感じて目を上げると、明るいブルーの目と目が合った。これがよく分からない目で、普通の目とは違う動きをしていた。
リンと目が合ったかと思うと、すぐ動き出し、上下、左右、前後、まるで全方位を監視する自動カメラのように絶え間なく動いている。もう片方の目は小さくて黒く、普通の動きをしていた。
義足に加えて義眼なのか。ぼんやり思いながら、リンは、肩の上で硬直しているスイを撫でてやった。
隙間なく傷に覆われた顔の皮膚とか、ななめに切り裂かれた傷口のような口とか、大きく削がれた鼻とか、そういった点には特に感想を抱かなかった。
「ここで、『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生をご紹介しようかの」
男がテーブルに着き、警戒しながらソーセージを食べ始めたところで、ダンブルドアが明るく言った。
「ムーディ先生じゃ」
ダンブルドアとハグリッド、それからヨシノの四人以外、誰も拍手をしなかった。職員すら沈黙していた。これは意外だとリンは思った。
六人分の拍手が静寂の中で寂しく鳴り響いた。それが止んだあと、ダンブルドアが咳払いをした。
「先ほど言いかけたのじゃが」
身じろぎもせずマッド‐アイ・ムーディを見つめ続ける生徒たちに向かって、ダンブルドアはにこやかに語りかけた。
「これから数か月にわたり、我が校は、まことに心おどるイベントを主催するという光栄にあずかる ――― 今年、ホグワーツで、トライウィザード・トーナメントを行う」
「ご冗談でしょう!」
フレッド・ウィーズリーが絶妙のかけ声をあげた。大広間に張りつめていた緊張が解ける。スイも疲れたように、リンの膝へと滑り落ちてきた。
相棒を労わり撫でながら、リンはダンブルドアの説明を聞いた。
七百年前に創始された、三大魔法学校対抗試合。三つの学校とは、ボーバトン、ダームストラング、ホグワーツのこと。それぞれの学校から一人ずつ代表者が選ばれ、三人が三つの競技を争う。
おびただしい死者が出たために競技そのものが中止されて幾世紀。幾度もの試みが失敗したが、ようやく今年、それが再開されることとなったらしい。
「今回は選手の一人たりとも死の危険にさらされぬよう、我々はこのひと夏かけて一意専心取り組んだ」
ダンブルドアは今回の試合について詳しく説明し始めた。
ボーバトンとダームストラングの校長が、代表選手の最終候補生を連れて、十月にホグワーツに来校する。そして、ハロウィーンの日に、学校代表選手三人の選考が行われる。
優勝杯、学校の栄誉、賞金一千ガリオン ――― それらに対する期待が、あちこちで膨れ上がる。しかしダンブルドアは年齢制限があるとつけ加えた。
選考のとき、つまりハロウィーンの時点で十七歳に満たない者は、エントリーが不可となるらしい。これを受けて生徒の間からブーイングが出たが、ダンブルドアは一蹴した。
「試合の種目は困難と危険に満ちておる。六年生、七年生より年少の者が課題をこなせるとは考えにくいのじゃ」
年少の者が選考の審査員を出し抜かないよう目を光らせると、ダンブルドアは宣言した。それから、ボーバトンとダームストラングの生徒がほとんどずっと滞在することを告げ、礼儀と厚情を尽くすようにと締めくくった。
「さてと、夜も更けた。明日からの授業に備えて、ゆっくりおやすみ。はっきりした頭で臨むことが大切じゃからの。ほれ、就寝!」
ダンブルドアの言葉を合図に、生徒たちが立ち上がった。群れをなして扉へと向かう人の波を眺めながら、リンはケイとヒロトの姿を探した ――― いた。グリフィンドールの監督生を、なにやら質問責めにしている。リンは相手に同情した。
「三大魔法学校対抗試合か……」
アーニーが呟いた。スーザンが、自分たちは四年生だからエントリーはできないと一応の釘を刺す。アーニーは首を振った。
「そんなこと、もちろん理解しているよ! ただ、選手はどんな気分になるだろうって考えただけさ!」
「バカね。選手になったって、勝たなきゃ意味ないでしょーが」
「ホグワーツからは、誰がエントリーするのかしら?」
妙にワタワタするアーニーを、ベティが軽く鼻で笑う。その向かい、リンの横で、ハンナが首を傾げた。アーニーの隣にいたジャスティンが肩を竦める。
「さあ……有力候補は、レイブンクローのジン・ヨシノじゃないか?」
「ジン兄さんの誕生日は冬だよ。十七歳未満だから、エントリーはできない」
「じゃあ、エドガー・ウォルターズとか、セドリック・ディゴリーとか!」
「誰でもいいよ。それより、人が少なくなったから、そろそろ帰ろう」
笑顔で数え上げるベティに、ジャスティンが何か言いたげな様子だったので、リンは急いで立ち上がり、会話の流れを切った。
4-23. 入学式と、軽い発表
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