| 二張りのテントの出来はまあまあだった。リンがイメージしていた通りのものではないが、初心者軍団にしては上出来といったところだろう。むしろ、このメンバーの手でよくこれだけのものが出来上がったと驚く。
大雑把で不真面目なウィーズリー家の男子三人、分からないくせに無駄にこだわるハーマイオニー、興奮しすぎて邪魔としか言いようがない大人。この濃いメンバーを(ハリーやらジニーやらを使いこなして)纏め上げたリンの手腕に脱帽する。
みんなが満足そうに一息つく中、一人地面に座って傍観していたスイは、軽く尻尾を振り下ろした。そんな彼女をリンが背後から抱き上げる。
「スイも少しは手伝ってくれてもよかったんじゃない?」
「…………」
無言でブラブラと尻尾を左右に振るスイに、リンは溜め息をついた。そこに、ハーマイオニーがおずおずと近寄ってくる。
「ねえ、リン? ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「……? どうかした?」
チラチラとテントの方を見るハーマイオニーに、リンは首を傾げる。何か問題でも発生しただろうか……同じようにテントに目をやって注意深く観察するリンに、ハーマイオニーが小声で言った。
「私たち、全部で十一人よね? どうやってテントを使うのかしら」
「……ああ、うん、なるほどね」
一瞬きょとんとしたリンだったが、すぐに合点がいった。クスクス笑って、ハーマイオニーと、その後ろで不安そうにこちらを窺っているハリーに、柔らかく(悪戯っぽく、とスイは思った)目を細める。
「問題ないよ。アレはマグル式のテントじゃないから ――― そうだね、百聞は一見に如かず。入って、中を見てごらんよ」
二人はわけが分からなさそうにしていたが、リンの笑顔をちょっと眺めたあと、身をかがめてテントの中に入っていった。リンとスイもあとに続く。
そこは、マグル風に表現すると古風なアパートだった。寝室とバスルーム、キッチンの三部屋で構成されている。不揃いな椅子には鉤針編みがかけられており、なぜか猫の臭いがしていた。
「ちょっと窮屈かもしれないが……まあ、みんななんとか入れるだろう。あまり長いことじゃないし」
ウィーズリー氏が、ハンカチで頭の禿げたところをゴシゴシ擦りながら言った。余計に頭皮にダメージが……と内心で心配するリンの前を通り過ぎ、ウィーズリー氏は寝室を覗き込む。二段ベッドが四個置かれていた。
「同僚のパーキンズから借りたのだがね。奴さん、気の毒にもうキャンプはやらないらしいんだ。腰痛でね」
「その方、猫がお好きなんですか?」
リンが尋ねると、ウィーズリー氏は「え?」と目を瞬かせた。パシッとスイが尻尾でリンの背中を叩いてきたが、リンは無視する。
「だって、このテント ――― 痛っ」
空気読めとスイが再び尻尾を振り上げたとき、リンが声を上げた。はてとスイは瞬く。自分はまだリンに攻撃をしていないが……と疑問に思うスイの視線の先で、リンが斜め後ろに立つ友人を睨んだ。
「ハーマイオニー、足癖悪い」
「おじさま、何かやることはありませんか?」
リンの言葉をガッツリ無視して、ハーマイオニーはウィーズリー氏に向かって微笑んだ。その足元をスイが見ると、ハーマイオニーのスニーカーがリンの足をグリグリと踏みにじっている。ただし椅子の影になっているため、ウィーズリー氏が気づくことはない。
なかなかいい性格してるよ、とリンが(敢えての日本語で)呟く。いやいまのは君が悪いだろが、とスイは思わず尻尾でリンの背を叩いた。バシンッと音が響く。
「………」
リンが眉を寄せてスイを横目で見たので、スイはハーマイオニーの肩へと避難した。豊かな栗色の髪を盾にする形で、不穏なリンから逃げる。
微妙にピリッとした空気に微塵も気づかないウィーズリー氏は、キッチンを見渡した。埃だらけのヤカンを取り上げて、中を覗き込む。
「ふーむ……そうだな。水がいるね」
「マグルがくれた地図に、水道の印があるよ。キャンプ場の向こう端だってさ」
リンたちのあとにテントに入ってきていたロンが言った。父親に似て鈍い人間である。ハリーは心中で、父親の方へ(つまり、必然的にハーマイオニーたちの傍に)歩いていく親友を称賛した。
「よーし、それじゃあロン、おまえはハリーとハーマイオニーとリンの四人で、水を汲みに行ってくれ」
ウィーズリー氏はヤカンとソース鍋を二つ三つ寄越した。リンは取っ手がいまにも取れそうな鍋をもらった。ハーマイオニーはちゃっかりヤカンを確保している。
→ (2)
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