声がすき。
仕草がすき。
瞳がすき。
微笑みがすき。
ぜんぶ
ぜんぶすき。



「…綱吉、くん、」


遠くに旅立ってしまった後ろ姿が鮮明に瞼の裏にはえてはすぐに消えていった。
一度だけ振り返った彼の微笑みはなんとなく泣きそうで、思い出すと不安定な心がまたざわりと凪いだ。

(つなよしくん、)

目を閉じたままうっすらと笑う顔が思い出される。やけに綺麗だったことを、あたしは知ってる。
甘い声が電話を通じて照れるかわいさだって知ってる。たしかあの時あたしたちは、

窓をあけて秋の風を感じて、満月を見つめながら電話ごしに「綺麗だね」と呟きあった。やたらとロマンチックに過ごした月見の夜も、あたしは知ってる。知ってる。

知ってるよ。


(だから余計に寂しくて、)



月を見上げると少し雲がかかっていた。この月を何時間も前に君は見たのだろうか。満月が綺麗だということを知ってるだろうか。月を見てあたしを思い出しただろうか。そして今は寝ているだろうか。それとも起きただろうか。紅茶がすきな君はきっと、執務に追われながらダージリンを飲み干そうとしている。違いない。

そうして1日をすごして、月を見て寝るといいな。
あたしを思い出してくれてるなら、なおさら、


(すき。すき。すき。)

(あたしのすきな君は)

(同じ時間に月を見ることも)

(できない場所にいますね)






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