ぽつり。



薄く色づいた教室、じゅうだいめがあいつの肩に手をおいて今にも合わさってしまいそうな距離のなか、小さくくすりと笑った。気がついたらふたりの間に距離はなくて、合わさってしまっていたソレから言葉はでない。いつもならはつらつとうるさいくらいにしゃべって笑うあいつがいまはもうしゃべらない。

音もなく走った。走って、夏のあつい日差しの真下まで走って、かけおりた階段では足がもつれた。グラウンドからはボールをバットで打つ音がする。
熱に照らされる蛇口をためらいもなくひねって、ぬるい水がざばざばと出るのをただ見つめた。見つめるだけで何もできない。目を閉じて、ただただ水の流れる音に耳をすます。
甘ったるい空気の中、熱にうかされたように染まるあいつの頬がまぶたの裏にちらついた。

(じゅうだいめ)

尊敬してる。器のでかい人だ。気がきくし優しいしなによりあいつが好きになった、

「え、あ、」

ざばざば
ざばざば
音が耳を占領するのに、心臓の音が頭に直接ひびいて気持ちが悪い。閉じたはずの目元があつくて、なんだかしっかり閉じれない。ゆるゆるとあついものが伝って、下を向いた俺の鼻筋を通ってぱたりと落ちた。泣いてる。おれ、泣いてる。

(じゅうだいめ)

あの人が好きになったあいつはあの人が好きだ。おれはあの人を尊敬しているし、あいつならあの人のそばに居ていい。

(じゅうだいめならあいつのそばに居て、いい、から)

違う、俺は、じゅうだいめを尊敬していて、

(あいつが好きだった)

頬を伝う冷たいものはきっとぬるい水に隠れて見えなくなるけど、痛み出したこの心臓は、たぶん隠すことなんてできない。じゅうだいめ、おれの好きなあいつをしあわせにしてください。だから死なないで。死なないでください。

(きっとそれはゆめなんかじゃなくて、)






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