(つい先日、10年バズーカにうたれてしまうような夢をみた。あぁ、そろそろあの時期なんだ。俺にも終わりが近いかもしれない。過去の俺があとをうまくやってくれていたら生きていられるかもしれないけれど、そんなのは神にもわからない結末というものであって、確かなものでは、決して、ない。それでも俺はなんの支障もないような顔でリボーンのいない穴を早々と埋めなければならないのだ。悲しみや恐怖にくれてやる時間など、俺にはないのだから。)






「誰も知らないよ」


そう弱々しく、それなのにどこか凛とした声色で呟いた。
一瞬ちらりと彼女を見やり、そのもろそうなほうけた横顔に気がついて、軽く眉をしかめた。
彼女は俺の表情には気がつかない。
星空を窓越しに眺めて、またなにかを呟いた。
小さく息を吐いてネクタイをゆるめた後、指先で襟を正し、書類に目を戻す。
誰も知らない、とは、どういった意味なのだろうか。
誰も、何を知らないのだろうか。
書類にサインをしてぱさりと机の端に置いた。
椅子から立ち上がると、彼女は少しだけこちらを見て微笑んだ。
すぅ、と、ゆっくり息を吸い込んで、彼女は窓から離れて口を開いた。

「綱吉くん、君はね、もう一度よく考えたほうがいいの。」
なにかがふつりとやわらかく切り分けられるように、違和感は徐々に彼女の体から出てきてしまって、彼女が何に対してそんなに悲しい顔をするのかが、直感としてわかってしまう。
こんな時、ボンゴレの血が憎いと思う。
それよりも彼女はなぜ気がついたのだろうな。俺はそんな素振りをみせたつもりはチリほどもなかったというのに。

「誰も知らない。結末は誰も知らない。だから、だからね、」

眉を寄せて、口元を笑みに歪めて、彼女は透明なしずくを目の端からこぼして、あぁ、彼女がこんなにも悲しい顔をしているのに、俺は何をしているんだ。
何に怯えているんだ。
何で握った左手の指先に血が通っていないんだ。
そんなに力を込める必要なんてどこにもないというのに。

「綱吉くん、」
「やめて……やめて。」
「綱吉くん、聞いて」
「やめろよ。もういいんだ。もう終わった。」
「違う、綱吉くん、終わってなんかない、まだ綱吉くんは」
「やめろよ。違くなんかない。」
「違うの!君はまだ死んで、」
「やめろ!!」


気がつくとそう叫んでいた。
目の前で赤い目をして唇を噛みしめる彼女の顔を、見たくなくて後ろをむいた。

「…あのさ。誰も知らない。確かに先のことは誰も知らないよ。それでも俺は確実に、いつかは、」
自分自身にこんなことを思い知らせなければならない。
それがどんな絶望を意味するかは、よくわかっている。
乾いた唇を舌で湿らせて、じくりと痛む体を、心を、涙をこらえて、はっきりと告げた。


「死ぬんだ。」



さくりと、心になにか鋭利なものが差し込まれた感覚に陥った。
それでも、俺は後ろを振り向かなければならない。
彼女は大切な人だし、どうにかして彼女だけでも明るい未来に逃がしてやらなければならないのだ、俺は。

そう思って、重たい靴をじり、と、彼女に向けようとしたというのに、背中にふれるぬくもりと腹に回された細い腕は、一体なんのつもりなんだ。

「綱吉くん、死なないで。消えないで。そばにいて。強い心をもって。お願い。」

しゃくりあげる声は確かに震えていて、そして確かに愛を含んでいた。

「死ぬ、だなんて、いうなよ…!!」



じくりと、また腹が痛んだ。
愛しい気持ちがどことなく、死を宣告する死神の顔を持ち合わせている気がして、思わず目のあたりが熱くなった。
すべてに恐怖して残りを過ごさなくてはならないと確信していた。
それなのに、彼女はその気持ちをことごとく打ち壊してしまって、かけらを残らず包んで、俺のすべてを愛してくれていた。
今も、今ですら、彼女は。


(そんなことを言われたら、本当に死にたくなくなってしまう。)








|


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -