「恭弥ちゃん、だいぶ季節はずれなの焚いてるね。」
「秋だからこそ桜。」
「季節正反対じゃん!あれ、くらくらしちゃわないの?」
「あれはもう治ったよ。」
「そ―なんだ?」
「そう。」

けむりが舞い上がって、ふわふわと部屋をつつむ。
あたしは恭弥ちゃんがこうやってキャラに似合わずも、お香を焚いたりアロマオイルをあっためたりしてるのが本当にすきだ。
ギャップがたまらない。
小さいころからのお隣さんだけど、それでも成長していくにつれて変わっていく趣味などは予測がつかないから、あたしの心に新しい刺激を与えてくれる。

(はじめて知ったときは、恭弥ちゃんアロマ好きなんだぁ、なんて、思ったな。)

本当に、いちいちなにかしらかわいい恭弥ちゃん。
いや、こんなこと言ったら絶対怒られるから言わないけどね、うん。

(ほんとに、すきだなぁ。)

まだ伝えられない言葉を、桜のほのかに甘い香りに紛らせて、今日もあたしは恭弥ちゃんのお部屋でまったりと音楽をきく。
昔からすきなより子って歌手のアルバムをこないだ恭弥ちゃんが手に入れたから、スピーカーを通して聴いてみたりして。

(きいたことない曲をはじめて聴くときに、隣にいて同じ音楽に浸る相手がね、他の誰でもなく、恭弥ちゃんだってことだけで嬉しくなるんだよ。)

リンゴ製の白いキーボードをかたかたと打つ指先は骨ばっていて、男の子を感じさせる。
鼓膜をやわらかくノックするように流れ込むメロディーは、あたしだけじゃなく、恭弥ちゃんにも届いている。
キーをたたくリズムが音に乗ってやさしく響く。
あぁ、桜のかおりに包まれて、あたし、いま恭弥ちゃんの隣にいる。
恭弥ちゃんが、あたしの隣にいる。

(すき、だなぁ。)

眠ってしまいそうなあたたかい空気の中で、椅子に座った恭弥ちゃんがソファーに沈み込むあたしのことを見て、微笑った気がした。


(桜色の秋)





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