「いやほんと、いらない、いらない。」

「いらなくないでしょ!あれ?それともホントにいらないの?」

「え、あぁ、いや、いるけどさ」

「いるんじゃない。」


10月の半ばに訪れる年に1回きりの行事を、彼は照れて「いらない」なんて言うんだ。
あたしにとってもすごく大事な日なのに。素直じゃないなぁ。

そんなことを思ってくすりと笑うと、電話ごしに「なんだよ」って怒られた。
家のドアをそろりと開けると夜風が頬を冷たくかすめて、あぁ、もう秋なんだって実感できる。でも、心がなんとなくあったかいのは電話ごしの声が妙に甘いからだ。

「あ。ほら、あと1分!」

「あれ、ほんとだ。」

とぼけたような声で笑う彼は、きっと今ごろ家をでる間際だ。
あたしもいま、半分開いたドアに寄りかかってスニーカーに足をつっこんだ。
あとは少しだけ歩いて、そう、おとなりのお家に目配せして。


「ねぇ綱吉くん、」

「ん?」

「綱吉くんが、あたしの一番なんだよ。
だいすき、綱吉くん!」

「…オレも、好きだよ。」


「えへへ、誕生日おめでとう!」

「…ありがと」


ケータイをぱしんと閉じて、白い息を右手で払った。
そのまま手を振って駆け寄って、そうして笑いながら声をかけるの。


「新しい綱吉くんに最初に会えたんだよ、あたし、すごいよねぇ。」

「いきなりなんだよ。毎年そうだろ。」

「だって特別なんだもん。」


くすりと笑うと、綱吉くんは半分上げたままのあたしの右手をそっと握った。


「ありがと、な。」

「…どういたしまして!」



秋の風はやっぱりどこかしら冷たいものがあるけれど、それでもとなりに彼がいるだけであったかく感じるのは、愛おしい気持ちがとっても強いからだと思うな。


happybirthday!





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