PDoC-001




 出会いが間違いであるのならば、私はどこから人生をやりなおせばよいのだろうか。あの人は、いつだってすれ違っていた。どんなに近くにいても、傍にいても。目線は合っているのに、空に向かって話をしているような。言葉を拾い上げるだけで、適切な返しを得られていないような気がして。だから、私は確かめたかったのかもしれない。そんな闇に覆われたあの男に興味を持って近づいて、逆にとらわれてしまったのだ。どんなに縋っても救ってくれない魅力というものに。何も話さなくてもいい、何も聞かなくていい。ただ、二人よりそっていれば、心が通じ合うような気がした。黒い雲がかかる空は、いつにもましてこんな私を蔑んでいるように見えた。そんなことわかっているのに。同じような色をしたあの男にかかる影は、触れてはいけないものだとわかっているのに。

 感慨に耽っているのも、少しの時間だけだった。なにせ、明日からはやっと連休に入る。久々の帰省に胸が躍るのも仕方がない。両親と連絡を取ることをすっかり忘れていたから、怒られるだろうか。
「お父さん・・・」
本当に、久しぶりだ。胸には泥のように重く暗い気持ちも沢山あるのだが、あくまでも楽天家でいよう。未来にも過去にも、必ず不安という感情は付き纏うのだから。あの男も、今頃家に帰っているのだろうか。どんな家族に育てられたのだろう。一家団欒が果たしてあるのだろうか。あんなに冷徹な子に育て上げる教育というのも、気になる案件ではある。

 ああ、またくだらないことを考えた。今はただ、優しい笑みを湛えたお母さんの顔を思い出すことに限る。ちょっとくらい怒ったって、愛嬌のある母ならちっとも怖いなんて感情はでてこない。だからこそ、父は・・・躾をするのだ。愛を持って。



純朴な愛を持って







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