PDoC0009




 春海、嫌じゃなかった。小さな頃から、みんなに変だって言われたって構わなかった。でも、本当は違ったの。春海は誰でもないよ。みんなだって誰でもないのに、どうして一人ぼっちなんだろう。
「春海ちゃん?」
高遠先生は春海のこと、どう思ってるんだろう。いつもニコニコしてて、でも、泣いてるような、悲しい顔もしてる。今だって地面にしゃがんで、目をちゃんと見てくれているけれど、もっと遠くを見ているような、そんな感じがする。あの力を使ったら見えるのかな。でも、見たくない。先生は、春海の大切な先生だから。
「どうしたの、春海ちゃん?もう暗くなるわよ。先生と帰ろっか」
「うん・・・」
先生には、なんでもいえる。なみちゃんの目で見えるの、って言った時も、先生は変だなんて一回も言わなかった。みんなが変だって言うの、って言った時も、先生は優しく頭を撫でてくれた。だから春海、先生が大好き。手をつないで、ゆらゆら揺らして。先生はゆっくり歩いてくれる。
「そろそろ星が見えるね、春海ちゃん」
「先生、私ね・・・」
今日も、誰にも言えないわがままを、先生に打ち明けた。そしたら、先生は優しく笑って、何度も頷くの。

 でも、先生。春海、言えないことがあるの。怖くて怖くて仕方がないのに、誰にも秘密にしてること。たまに目を閉じたら、知らない女の人が、真っ赤っかな世界の中を、走っているの。その人が下を向いたら、全部血だらけで・・・。それで、ずっと謝っているの。倒れた沢山の人たちを見て。求道師さまが持っている、あのマナ字架。手の中に握り締めて。飛び出たところが刺さって、爪まで、真っ赤で。
「うぅ・・・」
涙が、止まらない。先生、助けて。でも、でも・・・先生が悲しい顔をするのは嫌だから。力いっぱい手で拭って、眠れるまで、春海我慢するね。






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