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イリーナ拉致事件から一週間後。その日の5時間目は体育の時間だったので、4時間目終了と同時に体操着へと着替え、昼は女子でピクニックをした。その時に、ふと陽奈乃が烏間先生の戦闘能力の高さについて話し出した。私は最初から見てはいなかったのだが、どうやら人間とは思えない方法でトラップをやり過ごして行ったらしい。最後の肉弾戦に関しては直接見たので、まぁ楽しめそうではあるなとその話を聞いていたのだが。
ふと烏間の本気を見たくなった。
だからその日の体育は仕掛けてみようかなと思って、斬魄刀をいつも対先生用の刀を包んでいる袋で包んで携えて来た。偶に持ち歩いているのでクラスメイトからは不審に思われていない。ちなみに対先生用の刀も鬼道で隠して一応校庭の隅に立て掛けてある。コロせんせーがちょっかいを出してきたら迷わずそれを取って、標的を変えるつもりだ。

「今日は一昨日教えた技術をより身に付けて貰う為に二人一組で組手を行って貰う」

出席を取り終えて今日の授業目的を言った烏間先生は、まず見本をと磯貝と杉野を名指しして2対1で実演し始めた。なんだ自慢か。確かに四月始めよりは格段に戦闘の腕が上がっているとは言え、烏間もプロだ。2分近く粘ったが、最後順番に背負い投げをされて二人はあえなく負けていた。
その直後、烏間の頭上から踵を叩き込んだ。
彼にだけ分かるように少し殺気を出してたとは言え、咄嗟に両腕を交差させて防いだのはさすがである。見上げた彼と目が合って、その目は驚いた様に見開かれた。そのまま後ろに一回転して、着地と同時に地面を蹴って右手を烏間の左頚動脈へと突き出す。それもギリギリのところで止められて、僅かに遅れるようにして反射的に出ていた彼の右手は袋に入ったままの斬魄刀で受け止めた。

「……な、ちょ、何してんの浦原さん!?」

唖然とした空気が流れる中、我を取り戻した渚が的確なツッコミを入れた。それを聞いて力を緩めたのが分かったのか、烏間先生も両手を離して絶妙に距離をとった。私がすぐに攻撃してもギリギリ反応出来て、子供達からは不自然に思われない距離だ。賢明な判断である。

「いや、どの程度で死ぬのかちょっと気になって」
「なにとんでもないことちょっとお遣い的な感じで言ってんの!?」

思わず笑った。前から思ってたのだが、割とこのクラスのツッコミスキルは高い。しかも全員出来るところが素晴らしいと思う。今のも渚が一番最初に声を発したから拾い易いというだけで、他の子も色々ごちゃごちゃと言っている。そこに私が烏間に仕掛けていた時の殺伐とした空気は感じられない。ただ、烏間を除いて。
彼は私が渚と喋り始めた時からずっとその視線を私から外していない。私の真意を図りかねているのか、一番最初に会った時のことを思い出しているのか。何にしろ、彼にとってファーストインプレッションは最悪だったろうから、攻撃に対応出来る準備をしておくのは当然か。

「…浦原」
「はい」
「さっきのお前の行動は、その'袋に入れている物'といつの間にか俺の腰に差さっている'コレ'と何か関係があるのか」

そう言うとさっきの掛け合いの時に差しておいたナイフを鞘にいれたまま振って見せる烏間。それに気付いていたのも驚いたが、真剣を持っていることに気付いた方が驚いた。

「驚いている様だが僅かに聞こえた金属音に間違いはないはずだ。ヤツを殺す為に渡した方をあえて置いてきたのを見ると、理解し難いが、俺の実力を図りたいのだと伺える」
「いやーご名答ですよ烏間先生」
「……なめるな」

その瞬間鞘からナイフを抜いて迷わず私の心臓を狙いに来た先生。まさかこんな簡単に'乗って'くれるとも思ってなかったので驚いたが、袋から斬魄刀を引き抜くとそれを防ぐ。聞きなれない金属音に生徒達が困惑し始めたのが分かる。数人が息を飲んでいるのが聞こえた。

「え、マジでやってくれるの」
「お前の望みだろう。今更やめようなんてことは」

考えるなよ。
その目はまるで獲物を見つけた様な目で。いつ火を付けてしまったのだろうかと、けしかけたこちら側が逆に冷静になりつつある。お互い殺気は飛ばしまくっていたので、イリーナが何事かと校庭に降りてきたのが視界の隅に映った。

「ルールは」
「そりゃあどちらかが死ぬまででしょう」
「分かった」
「……え?」

私としては、ふざけるなが予想した返答だった。なのに即答で肯定を示されて思わず間抜けに聞き返してしまったが、彼はもうやる気満々である。合わせていた刃物をそのままに私の死角から足を入れて来たのでそれを上に飛んで避ける。烏間の頭を越えた時についでに斬魄刀を抜いて袋と鞘は渚へ放った。

「大事な物!持ってて!」
「え、わ、分かった!!」

着地点を確実に読んでいる彼は既にそこに合わせて踏み込んでいる。空中で踏み止まるのはワケないが、出来ることは知られていないので素直にその地点に着地する。直ぐに向かってきた左手に同じ左手で受け止めると、斬魄刀を振り下ろす。それをナイフで受け止める烏間は少し驚いたような顔をしている。女にしては、と思っているんだろうけど、なめてもらっては困る。先程のお返しと倍の速さで脚を出せば、一瞬気付くのが遅れた彼はそれでも勢いを殺す為に素直に同じ方向へと吹っ飛んで行った。ちなみにナイフは対斬魄刀用に喜助に作ってもらったモノなので、解放でもしない限り壊れない。
地面に転がっている彼の上から飛びかかると、斬魄刀を喉元へと向ける。手元から溢れていたナイフを慌てて掴むとそれを防御した烏間を見て笑みが浮かんだ。

「…っ何笑ってやがる」
「いやァ。よう間に合ったなぁって」

トラップを強行突破したり瓦礫を持ち上げたりと前歴の通り、腕力は流石に彼の方があるらしい。思いっきり下から弾かれて両手が挙がってしまった。その瞬間に上体起こしの要領で腹へ彼の拳が入ったが、咄嗟に地面を蹴って後ろへ跳ぶ。勢いを殺す為に地面に斬魄刀を立てて数メートル滑って着地すると、ナイフが飛んできた。
それを斬魄刀で弾くと、結構いい距離に烏間が迫っていた。きっとナイフを投げたと同時に走りこんで来たんだろうが、こいつどんだけ人間離れしてんだと彼の踵落としを左手で受け止める。同時に彼の脇腹を狙って斬魄刀を横に薙いだ。


と、思わせた。


瞬間、斬魄刀から手を離し、代わりにイリーナから投げられた対せんせー用刀の柄を掴んで一気に引き抜くと、左手の指を自分の後ろに向ける。

「【六杖光牢】」

縛道をかけるのとほぼ同時に、しゃがんだ烏間の上を通過する様にして一回転し、私の真後ろにいる"ころせんせー"の首を目掛けて薙いだ。

「ニュ、ニュヤッ…」
「……覗きは楽しかったですか。センセ」

こうやって私と烏間が本気でお遊びをしていれば、いよいよ殺されそうだとなった時に間に割って入ることは想定済みだった。烏間にそれを話したことはなかったが、彼もきっと分かっているだろうし、イリーナも私達の意図を汲んでくれると思っていたのでワザと殺気を飛ばして外に来させた。後はワザとらしく置いてある対せんせー用刀に掛けた鬼道を解いて、彼女に持たせて、私達の殺気の向かう方向が変わった瞬間に投げてくれる方に賭けた。結果、その通りにイリーナはやってくれたので私としては非常に嬉しい。
首を飛ばすまでには至らなかったが、1/3程食い込んでそれを自分の洋服で止めたまま固まっているころせんせーが今、目の前に出来上がった。
首から溶け落ちる黄色い液体にチラリと目を落とすと、再び彼を見上げる。

「貴方がこの程度で死ぬとは思っていませんが、縛道がかかるとは少し驚きました」
「ど、どういう…」
「ご冗談も程々に。貴方なら私ごときの話す内容ぐらい予測が付くでしょう。それともまさか、こんな状況になると予想出来ずに焦っておられますか。

…ー《貴方は元、人間であったというお話になるのですが》」

最後、フランス語にして尋ねれば明らかに彼の雰囲気が変わった。
ころせんせーという謎の生物に関しては、E組に入って少し経ってから沙月に調べてもらった。あまりにも暗殺のノウハウを持ちすぎていて少し不審に思ったからだ。

『苦労したよー。労って』
『ハイハイ』

そう言って抱きついて来た彼女の頭を撫でながら資料を読み、それでE組の教師に執着したのかと理解したのは三ヶ月ほど前だ。別に良くあるストーリーだ。人体実験ならもっと胸糞悪いモノを知っているし、恨みもそっちの方が遥かに強いし大きい。月を破壊するとはなるほど恐れ入った力をお持ちであるが、私にはそれ程強い感情を持てるモノかと疑問に思えてしまった。
今迄に見たことのない表情を見せる彼は今何を思っているのだろうか。首に食い込んだ対せんせー物質などどうでも良くなってしまったのか、ぼたぼたと現在進行形で溶ける身体に逆に私が心配になってきた。

《烏間、斬魄刀を手にちょうだい》

だが、こんな好機を逃してたまるか。私は早く9代目の待つイタリアへ帰りたい。素早く動いて左手に握らせてくれたのを握り締めるとネクタイの下目掛けて突き出した。
そこはちょうど鎖穴と一致している。
どうやら生命維持器官があるらしいのはそれ故なのかと考えているそこに突き刺したつもりだったのだが、予想に反して手応えはなかった。いつの間にか目の前からせんせーは消えていて。霊圧を追って、目を走らせれば少し空中で浮き上がっていた。

《…やはり完全には効きませんか》
《貴女は一体……何者なんですか》

もう少し高位の縛道を選べば良かったかなと思っていれば、呆然としながらもちゃんとフランス語を使って尋ねてきた。漸く私の存在に脅威を覚える様になったかと、半ば呆れながら笑うと対せんせー用刀の鞘を拾いつつ答えた。

《死神、ですよ》

かつての彼が呼ばれていた'名前'、を。

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