×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -






ビッチ先生が攫われた。
ああ見えてとんでもない場数を踏んでいるし、僕らとは比べ物にならないぐらいの暗殺技術を持っている。そんな人が銃の所持も認められていない平和な日本で、どうやって拉致されたのか。驚いたが、それ以上にその犯人が堂々と且つごく自然に教室へ乗り込んで来たのも衝撃的過ぎて、俺たちは酷く焦った。更に烏間先生へ協力を仰ぐことは禁止され、何より今日は運悪く欠席していた。
浦原さんが。
烏間先生がダメとなると、生徒として身を置いているがマフィアである浦原さんが一番場数を踏んでいるし、何よりその実力は僕らを遥かに上回る。と思われるので、いざ生徒だけとなったら助けを求めようと誰の頭にも無意識にあった。未だに'思われる'と推測の域を出ないのは中々その実力の全貌を見る機会がないからだ。この間、暗殺者が潜り込んで浦原さんが撃たれた時、その目的がコロせんせーじゃなかったことに衝撃を受けたのも記憶に新しい。どうやらマフィアとしての彼女の立ち位置に対しての攻撃だったと説明されたが、それの本当の意味を理解出来たのはきっと先生陣だけだろう。俺らも驚いたが、それは標的がコロせんせーじゃなかったことに対してだった。

「………あれ、浦原さんだよな」
「…うん。スーツ着てるけど多分」

その浦原さんが、突然現れた。
死神の圧倒的力の前にあっさりと捕まって檻へと放り込まれた俺ら。暫くしてコロせんせーと烏間先生が助けに来てくれたけど、そのコロせんせーが本当にアッという間に俺らと同じ檻に入れられてしまった。残りは烏間先生だけ。死神は俺ら諸共水攻めで殺そうとしているみたいで、烏間先生はそれを阻止しに行った。そして、その道のりにいくつもあるトラップをモノともせずに進む烏間先生にそろそろ恐ろしくなっていた時に突然、先生が動きを止めた。檻からは映像が見えるので、みんなで不審に思っていたら唐突に黒い物体が画面に映り込んだ。
浦原さんだった。

〔…烏間先生私が来るの分かって避けなかったんですか?〕
〔いや、直前まで分からなかった〕
〔それ結局分かってるって言うんだと思うんだよね私〕

そんな会話が聞こえて来たが、何が起こったかなんて何も分からなかった。本当だったらあったはずのトラップは何処へ消えてしまったのだろうか。爆発どころか塵も見えなかった。コロせんせーが唖然としながら今のは、と呟いているのが聞こえる。俺らの目で追えなくてもマッハ20の怪物なら見えたのだろうか。解説して欲しくて、先生の名前を呼んだのだが、少し困った様な表情が返ってきた。

「以前お見せしたと思うのですが」
「えぇ。ですが、私もイマイチよく分かっていません」

先生が見ても分からないってどういうことなんだろう。
という疑問は目に飛び込んできた光景で一気に吹き飛んだ。一番檻の縁に近かった先生。その先生の前、檻を挟んだ向こう側に浦原さんがいたのだ。服装はやっぱり黒スーツで、さっき見た彼女は間違っていなかったと分かる。そしてさっきはよく見えなかったが腰に下がっているのは明らかに日本刀だ。銃刀法違反という言葉が頭をチラつく。ちなみに鍔と柄の装飾の所々に淡い翡翠色が使われていて、とても綺麗だなど場違いに思ってしまった。

「…じゃないよ!!浦原さん!?なんでいるの!?」
「ヒーローは遅れて登場するもんでしょ」
「この状況見てそれ言える!?」
「ところで渚」
「無理ない様に見える話題転換!!接続詞って素晴らしいな!!」
「"何を見た"」
「………え、?」
「言い方を変えようか。"何が見えるようになった"」

な ん で 。
確かに死神と直接対峙した時に本物の猫騙しをやられて俺の中の何かが目覚めた。人の波長と言うのだろうか、感情の起伏が目に見える様に分かるようになったのだ。それを受け入れるまで少し時間かかって何度かカルマくんに不審な目を向けられたけど、今は段々と落ち着いてきている。
という経過を何も見ていない浦原さんが何故分かるんだ。ピンポイントで突かれすぎて目を見開いて彼女を凝視して口をあんぐりと開けてしまった。そんな俺の様子に彼女はおかしそうに笑った。

「先に言っとくけど見えてるソレは本物のだよ。明らかにアンタの霊圧だけ洗練されてる」
「れいあつ?」
「うん、まぁ置いといて、渚。私を'その目'でよく見てご覧」

自分でふっといて説明は一切なし。だけど何で俺は素直に従ってんだと思いつつ、じっと彼女を見て驚いた。

「…え、?」
「'それ'が君の言った答えの最大の要因だ」

人間は必ず一人一人波長を持っている。感情や環境など様々なことで変化するだろうが、波長という限り波打っていることに変わりはない。それが見える様になった俺は怪物とも言われるコロせんせーでさえその波長があるのを知った。きっと生きているモノなら必ず持つべきものなのだろう。

だが。
浦原さんにはなかった。ずっと一本の平らな線だけ。それが何を意味しているのか分からない。だけど普通じゃないのは分かった。思わず彼女を凝視してしまうが返って来たのはどこか不思議な微笑みだけ。しかもそれもほんの少しの間で。さてどうやって'死神'を欺こうかーと言って呼び掛ける彼女は何の変哲もない中学生にしか見えなかった。

[ 7/8 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]