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死神の時間。

死神、と奴は名乗った。
通り名でも何でもない。自分は死神だと言った。何を言ってるのかと思った。お伽話の中ならまだしも実際にそんなものがいる訳がない。もしくは比喩表現か。兎に角そんなモノの存在を急に認めろと言われて受け入れられる筈もなく、思い切り眉を潜めて相手を凝視してしまった。
いくら、相手があのボンゴレの幹部だとしても関係ない。怪物を暗殺する最適の環境を整えようとしているのにこんな訳の分からない話で滞りたくなどない。隣にいる部下へ目をやると、同じ様に訝しんで資料に目を落としていた。

『困ったな。本当の事なんだけど』
『困惑しているのはこちらです。ボンゴレファミリーは世界最強のマフィアだ。しかもその幹部で日本語に堪能な方を寄越して頂いたのは我々としても大変有難いが、唐突にそんなことを言われても、』
『理解出来ない受け入れ難い』
『失礼ながら』

どうすれば良いかなぁと呟きながらデスクに腰を下ろした奴がふと思い出した様に手を叩いた。

『ちなみに、死神の主な仕事は現世で彷徨っている魂を死後の世界へ葬ること。あと彷徨いすぎて怨念が膨れ上がって怪物となってしまった魂を浄化すること』
『………』
『だからなんだって顔してるねぇ、烏間さん。そうだなぁ、ひとつ'見せようか'』

そう言って流れる様にごく自然に人差し指を向けられたと同時にまずいと思った時には既に遅かった。

『!』
『…烏間さん?』

身体が全く動かない。指を向けられたところで害はないだろう。第一殺気など何も感じなかった。だから俺は何もせずにその先を見ていたのだが、奴の口が動いた時に後悔した。

『っ、何をした』
『それが'死神'の力です。言霊を乗せる事で金縛りの様な事を掛けることが出来ます。ちなみに貴方方にも分かり易く申し上げればかめはめ波も撃てます』
『巫山戯るのもいい加減にしろ!!貴女の戯言に付き合っている暇など我々にはない!!』
『……分からない人だなぁ。



………ー貴方の命を潰すも生かすも、私の自由ということだよ。烏間惟臣』



死んだ、と思った。いや本当に一度死んだのかもしれない。瞬き一つの間に背後に回られ、いつの間に抜いたのか日本刀を首筋に当てられていた。息がまともに出来ない。冷汗がとめどなく流れ、部下は何をされた訳でもないのに尻餅をついてガタガタと震えていた。
とんでもないモノを招き入れてしまったか。
この時ボンゴレにダメ元で要請を入れてしまった事を後悔しかけた。だが。これだけ人間離れしていれば或いは。

『……ご無礼をお許し下さい。私共の理解力の無さで貴女に不快な思いをさせてしまいました。…ですが。私は地球を護りたいその一心のみで動いています。貴方のその力量ならばあの怪物の首も確実に仕留められる筈です。今回の一件、もう一度お願いを申し上げます』
『……条件が三つある』
『何なりと』
『まず、敬語はいらん。そもそも私はそんなに敬って貰うほど偉くはない。それと、対怪物用のナイフに関してだが、形状を刀にしたモノも用意して貰えると助かる。最後に名字だ。四楓院ではなく浦原にして頂きたい』
『分かりました』
『烏間』
『……分かった、浦原』
『ありがとう。では、'人間'でこの'霊圧'に耐えたことにも免じて、全てを忘れましょう』

そう言って浮かべた笑みは、先程のことがまるで嘘の様に恐ろしく無邪気なモノだった。






























《…殺し屋殺し。私の子飼いや提携関係の殺し屋達が次々とある者にやられている。その鮮やかな手口、凄腕達を仕留める技量…殺し屋"死神"だ》

死神、か。
あまり聞きたくない単語にロヴロからの電話でふと前のことを思い出した。いい加減次の殺し屋を雇おうと手応えのない面接をして、その帰り。世界最高の殺し屋と言われているらしいが俺にはどうも恐れる事が出来ない。きっと四楓院のせいだと思う。そしてその後二三言葉を交わして電話を切ってからが大変だった。

『か、烏間先生!!!』

涙だか鼻水だか汚い液体を顔中に貼り付けて急に現れたタコ。生徒の誰一人として電話が繋がらないことに不審を覚え、ブラジルから帰ってきたらしい。仕方なく彼らの居場所を探ってみれば、なんと噂の死神とやらに捕まっていて。呆れながらも向かえば、イリーナが裏切っていたりと面倒な状況が出来上がっていた。まさか生徒を死なせるワケにも行かないので、仕方なしに死神を追っていた。
そんな最中である。

「…烏間先生私が来るの分かって避けなかったんですか?」
「いや、直前まで分からなかった」
「それ結局分かってるって言うんだと思うんだよね私」

今日はボンゴレ関連の仕事があるとかで学校を休んでいた四楓院が、突如現れたのだ。扉を開ける毎にトラップという状況に少しうんざりし始めた頃。ふと何か覚えのある感覚がして動かないでいると、'それ'がトラップを消し去っていた。
呆れた様にこちらを見上げる彼女は、制服は着ていない。どうやら本当に仕事だったらしく、黒のスーツ姿だ。だが腰に提げている刀で普通の業務ではないことが明らかに分かる。

「さて。ころせんせーが簡単に檻に入っているのをみるとどうやら今回の敵は中々にやり手だと見ていいんですかね。それに貴方もジャケットを脱いで中々に気合いが入ってらっしゃる」
「…そうだな。ヤツは凄腕の暗殺者達を次々と殺している殺し屋殺しのプロだ。ちなみに通り名は……'死神'だ」
「………へぇ。」

この映像は生徒達も見ているということを伝えた方が良かったのだろうか。その顔に浮かべた挑発的な笑みに思わず寒気がした。
が、彼女の口から出たのは意外にもその真逆を行った。

「じゃあ私はみんなの所へ行きます」
「…は、?」
「烏間先生一人で事足りるでしょう。イリーナもお任せします。私情を挟んで行動している時点でもう貴方の敵ではない筈」
「そう、だが…」
「何を意外そうな顔をなさってるのですか。死神と自ら名乗る身の程知らずは顔も見たくありません。それも貴方にお任せしますよ。それに、ご存知でしょう?」

本当の"死神"の恐ろしさは。
そう言って妖艶に微笑んだ四楓院に今度は思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまった。年齢は裕に200を超えると聞いている。まともな戦闘は見たことはないが、たまに浮かべる表情や雰囲気が人間の出せるものではないことは分かっていた。だが、ここまではっきりと感じたのは今が初めてで。正直ニセモノなんかよりも本物の死神と相対したいと欲求が湧き出てきた。
しかし、結構危機的な状況下でこんなことを考えているなんて生徒達に知られたら示しがつかない。監視カメラに鮮明に撮られていないことを願いながら、雑念を振り払う様に踵を返すと死神のもとへ足を進めた。

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