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りったいきどう


立体機動装置、というらしい。
巨人を倒す為に必要な機動力のことだがこれまた良く出来ていて、仕組みを教わり演習の様子を見て思わず感心してしまった。ガスを噴出させる勢いとワイヤーを巻き取る力を利用し進んで行く、という言葉で聞くには簡単に思えるが、実際あんな狭い中を良くぞワイヤーを絡ませずに大勢移動が出来るものだ。屋根に登ることぐらいは真選組の隊士でも可能だが、落下の恐怖がある分、地上と比べると力は劣る。これを使えば浪士の捕縛率は格段に上がるのだろうなと考えるが、総悟と局長に与えた場合を想像し、首を振った。恐らく、総悟はワザと副長のワイヤーと絡ませ殉職を目論むだろうし、局長に至っては言わずもがな妙のストーカーに磨きがかかることは間違いない。監察組にだけ渡すのもありかなと思ったところで隣に人が着地した。

「出来そうか」

それらを私は木の枝に座って上から眺めていた。調査兵団入ってやりますよ宣言の後、ついて来いと言われて来た場所は何処かの森だった。その数分後に一体いつ集めたのかという程に揃った調査兵団の方達。彼らに俺の推薦で今日から調査兵団に入ったナマエ・シホーインだと何ともツッコミどころ満載の自己紹介をされ、全員に疑心暗鬼の目で見られるという最高の歓迎をされた。そして立体機動なしに動けるが、一応使えた方がいいだろうということで簡単に講義をされ、実践を見させて頂いているという状況で今に至る。
ちなみに私の隣に立ったのはエルヴィンで、相も変わらずの威圧感に少々うんざりしながら未だ続く中国雑技団の動きを眺めた。

「貴方は、普通に歩くことが出来るのに歩行器の類を渡されて、上手く使いこなせる自信がおありですか」
「それは、少し難しいだろうな」
「同じことです」

そう言って立ち上がると先程ハンジとペトラとかいう女の人に付けて貰った立体機動装置の具合を確かめつつアンカーに手を伸ばした。

「でも、物理法則に逆らわず落ちて行くのも少し楽しそうですね」
「……それは、出来ると捉えていいのか」

隣を見ると本当に少し不安げなエルヴィンの目があり、内心笑ってしまった。よく知りもしない他人を何故そこまで心配出来る。まぁ私が巨人を倒すのに一つの鍵となると彼は考えているのだから、当然でもあるか。ここで私に死なれたらどうしようもない。
そんな彼にふと微笑むと、体重を前へと倒して自由落下の世界へと飛び込んだ。























「なんで完璧なんだよ」
「……申し訳ございませんが、質問の意図を図り兼ねます。差し支えなければその真意を教えて頂いても」

その夜。戦うことを主としている軍の食事にしてはやたらと質素な夕食を摂り、与えられた部屋の備え付けシャワーを浴びて、寝る前にこの世界の星座を確認しようと屋上へと出て数分経った時だった。そもそもエルヴィンかリヴァイの命かは知らないが尾けられていたことは分かっていたので声を掛けられても全く驚かなかったのだが、それも彼は気に入らなかったらしい。月明かりに照らされた苛立たしげな表情を更に歪めて滲み寄ってきた。確か、名前はオルオとか言ったか。

「いつから気付いてた」
「気配がダダ漏れでしたので、どれが尾行なのか正直判別し辛いです」

私が女だと言うのが僅かに残った彼の理性を引き留めているようだ。胸倉を掴もうと伸ばした手を直前で止めて、下ろした。

「っ、…お前なんなんだよ!?急に団長が連れて来たと思ったら、あっさりと立体機動使いこなしやがって!適正試験もやって普通は数年かかるんだぞ!?それに組手もリヴァイ兵長に引けを取らないとかお前おかしいだろ!?」
「私は普通ではないので」
「答えになってねぇよ……」

ひとしきり怒鳴ったかと思ったら両手で顔を覆って俯いてしまった。旗から見ればなんとも私がいじめている様に見えなくもないこの構図を頭で思い描いて、眉を潜める。やめてくれないか。私は短気な男の相談に乗る程心は広くない。

「……なんで今迄調査兵団どころか軍にも入ってなかったんだよ」
「私の生まれた所ではそういう概念がありませんでしたから」
「だからって、あの三年前のことを見たら少しは自分の力が役に立つとか考えなかったのかよ!?」

ああ、そうか。この人は失ったモノがあったのだ。おそらく自分や周りの力不足で。だから力あるものに対して嫉妬する。もし自分があれだけ力があれば全てを救う、と豪語する。そして過信する。こんなもの実際持ってみなければなんとも言えないし、更に言えばその力を他人に還元しなければならない義務なんて全くない。
つまり、オルオ青年に責められる理由など何一つとしてない。
食い入るように見つめる彼の視線を瞬きで遮り一つため息を吐くと、空を見上げる。幸か不幸か、夜空には見たこともない星が広がっていた。

「ちょっと!何やってんのよオルオ!」

今度こそ彼の手が私の胸倉を掴んだ瞬間、そんな声が飛んで来た。オルオの影に隠れているので良く見えないが足音から急いで走って来るのは分かる。そして直後、彼は横に吹っ飛んだ。

「っ痛ェなペトラ!何すんだよ!?」
「女の子に手あげてあんた恥ずかしくないの!?」
「こんなのもう女でも人間でもねぇよ!!」
「オルオ!!」

強ち間違っちゃいないが、一応女ではある。ごめんねこいつバカだからと私の両手を取って謝る彼女の顔は本当に申し訳なさそうだ。それにしてもペトラはどうして私を無条件に受け入れられるのだろうか。いくら分隊長であるエルヴィンが、敬愛するリヴァイが話しかけていても自分の中の不信感まで完全に拭い去ることは出来ないだろう。それは信頼ではなく盲信と言う。

「何してんだお前ら」

ほら、噂をすれば何とやら。
私から手を放して本格的に喧嘩を始めてしまったペトラとオルオにどうしようかと困っていると聞きたくもない声がした。流石戦闘狂と言えば過ぎているだろうが、完全に気配を消して上がって来たのはリヴァイだ。一応、彼の霊圧には注意を払っていたつもりではあったが、いつの間にか疎かにしてしまったらしい。リヴァイの登場に慌ててこの軍隊特有の敬礼をした二人に自分も倣うべきかと考えが至ったことに密かに自身を褒めた。

「こいつが、」
「ナマエをオルオが謂れのない理由で責め立てていたので、庇いました」

ありがとうペトラ。何故貴女が私に肩入れしてるか未だに分からないけど、オルオがめっちゃ怒ってるけど、兎に角私にとって面倒ではなさそうな方向でことが収まりそうだ。
そんな二人を無表情に見つめ、リヴァイは小さく一つ息を吐いた。

「…今日はこいつの我儘に付き合ったということにしといてやる。戻って寝ろ。明日に支障が出る」

とても意外だという表情を見せたが、それも一瞬のことで。恐らくとても仲が良いのだろう二人は、お休みなさいと声を揃えて足早に屋上を飛び出して行った。が、私にとっては聞き捨てならないセリフが一つ。それを問い詰めようとリヴァイに目線を向けると拳が一つ飛んできた。

「ぅわ」
「…オイ。余り勝手な行動をすんじゃねぇ。厄介事が起きるのは承知だっただろ」
「その前に予告もなく殴りかかったことの理由を頂戴致したいですね」
「気分だ」
「……ではその調子でもう一つ。明日、とは何のことで」

すると案外普通な顔をされてから一つ割と確りめの溜息。怪訝に思いながら眉を潜めると、拳が降ろされた。

「明日、来月に控えた壁外調査の為に実戦式の演習を行う」
「…え。聞いてな、」
「それを伝えようとお前を探してみればこの騒ぎだ」
「それは誠に申し訳ございません」
「クソみてぇな棒読みやめろ」

明日の訓練にもし初めから参加させる気があったのなら、恐らく今日の演習後に言われたはずだ。だが、今のタイミングで伝えてきたということは、ついさっきまで私を入れるか否かの議論がなされていた証拠だ。今日の具合を見て、使えると判断されたのかそれともリヴァイが渋ったのか。詳しい理由は分からないが、兎に角私が軍の一員として戦闘を行う許可は下りたらしい。
調査兵団に興味はないが、この世界の巨人とやらには多少の興味を魅かれる。彼らが人間しか襲わない理由、厳密には人間とは言い難い私を迷いなく捕食しようとした理由など調べたいことは色々ある。ひょっとしたら帰る手立ても見つかるかもしれない。こんな文明の発展を'ワザと止めている'壁の中で得られる情報などたかが知れている。

「使いモノにならないようなら削ぐ」
「痛くないようにお願い致します、'兵長殿'」

にっこりと笑って敬礼をすると、リヴァイの顔は今日一で顰められた。

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