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かべ


大体百年ぐらい前、人類は巨人という存在によってほぼ滅亡状態となった。残った人類は巨人の身長を遥かに超える三段階の壁の中へと逃げ込み、見かけ上平穏な生活を営んでいた。しかし、二年前。その平穏を築いていた壁が崩れ、最外の壁を放棄。二つ目の壁まで人類の行動範囲は狭まり、再び巨人の脅威を身に感じる様になった。

時間にして約五分。この国、この世界の歴史は今ので全てだと括られた瞬間に思わず固まった。

「…え、それだけ?」
「ああ」

いやいや、ちょっと待て。短過ぎるだろ。私の年齢の五分の一だぞ。なんか文句あるかみたいな目で睨まれてもこっちが困るわ。そもそも得体の知れないモノを国の護衛団的な所に入れようとした奴に世の中の常識を求める方が無駄だったのか。だが他の二人に無言の疑問を投げかけても同じように首を縦に動かすだけで。それが正しいのだとより思い知らされただけだった。
だがしかし、何故こいつらは歴史の少なさに疑問を覚えない。そもそも壁はどうやって作られたのか。巨人とはどういう生態なんだ。大体この世界の生態ピラミッドはどうなってんだ。

「その巨人に対抗する為に集ったのが我々兵士達だ」

その兵士は国全体から募集を募り、特質によって三つに分かれている。主に壁の補強と街の警備にあたる駐屯兵団、壁の一番内側にある王の城とその城下町の警備にあたる憲兵団、そして壁の外に行き巨人の生態調査をする調査兵団。一番最後のだけやたらと異色な団体に聞こえる。自分達を捕食する生物がいる危険のある場所に何故態々出向くのか。それで生態をきちんと調べられているならば私だってこんな疑問はない。だがこいつらは調査兵団が設立してから恐らく二十年程は経っているだろうに何も分かっていない。大した情報も取れずにただ死にに行ってるだけだ。

「その調査兵団に入れ、と仰るんですか」
「ああ」

即答か。何故この人は私のことをそうまでして入れたがる。兵力の補充ならばより国の事情を知り、国に対して忠誠を誓えるヤツの方が良いんじゃないのか。エルヴィンは私がそんなこと出来ないのは百も承知だろう。

「得体の知れないモノを抱え込む危険を貴方はご存知か」
「無論だ」
「ならば。何故」
「人類の為だ。この世界で人類が生き延びる手段があるのなら、それを護る我々に多少の危険が降りかかかろうともそれに頼る。君も、そうじゃないのか」

予想だにしない問い掛けだった。思わず眉根を寄せてエルヴィンを見てしまった。

「何を仰って、」
「ナマエ。君は…いや。君の世界で君は誰かを護る為に剣を振っていたのではないか」

私は数時間前、此処を自分のいた世界と違うモノだと直感的に理解した。一応平行世界という概念を理由としているので直感的にというのは言い過ぎかもしれないが、取り敢えずは異世界と認識した。エルヴィンも私が何処か別の'モノ'だ、と認識しているのも分かっていた。だって、自分の国の常識も何もかも知りませんなどという人間が急に現れて、何も詰問もせずに丁寧に教える奴がいるか?私ならそんなことはしない。首に刀の鋒を突き付け、鬼道も使いながら徹底的に調べる吐かせる。それでも、そいつの言葉に偽りがないと分かったならばその時初めて、教えようと思うだろう。副長や総悟を始めとする真選組の隊士達に危害が及ぶ恐れのある者をそう易々と信じるなんて出来ない。
少し話を戻すと、私がここを異世界だと認識したのは元々平行世界と言う概念があったからだ。だから、彼らの認識の根拠がよく分からない。平行世界を渡るだけのエネルギーは相当な量と技術がいる。しかしこの世界は圧倒的に様々な分野の技術に劣る為、そういう概念すらない筈だし、それを理解するのも不可能だろう。なのに何故、エルヴィンは君の世界と言った。不自然にも程があるが、残念ながら彼は物事を安易に考えるような愚か者ではない。何かしらの根拠と自身の意志を以って言葉とする。

「……私と'同種'に会ったのは、壁の外ですか」
「…流石に理解が早いな」

感心した様に言って紅茶に手を伸ばす。まだ湯気が立つそれは暖かいのだろう。

「半年程前の事だ。我々が出発して三日経ったその日、巨人が現れた。数は四。少し多いとは思ったは何のことはない。奇行種もいなかったので配置に着き、全て狩った。君も見たとは思うが、巨人は消滅する時蒸気を上げる。それが収まるか収まらないかぐらいで、ふと気付いたんだ。
人がいるってね。
しかも彼らがいたのは地面で、巨人を相手どる我々からしたら常識外れにも程がある。それ故いくら人間と同じ大きさだからと言っても警戒は解かないでそこに向かった」

カップを受け皿に戻して両手を膝の上で組む。その様子は優雅に流れるようで、ここの世界観に合わない。

「結論から言えば人間だった。だけど、我々とは違った」
「服装、でご判断なされましたか」
「ああ。見たこともなかった。'にほん''えど''しょーぐん'…挙げたらキリが無いが耳にしたことも無い言葉を並べ、腰に刺す剣は古い文献でも見たことがないもの。それに彼らの所持品は想像を遥かに超えるモノだった」

その言葉に真選組のジャケットから携帯を出すと、エルヴィンの目が見開かれた。

「これですか」
「やはり君も持っているのか…我々はそれを知らない。彼らが突然取り出した時は思わず刃を向けてしまった」
「当然です。私でもそうするでしょう。貴方の考えは正しい」

携帯を出した時に椅子から身を乗り出すようにしているハンジさんが目に入っていたので、見ますかと問えば目を輝かせて食いついた。下手に触られて壊されても困るのでロックはかけてある。写真機能と計算機、ストップウォッチでも使えれば十分だろう。その手順を簡単に説明すればまるでおもちゃを与えられた子供の様に興味津々で聞いていた。

「それで。彼らはどうなったんですか」
「……得体の知れない者であろうと、巨人に捕食されかけていたことから証明するように彼らは人間だ。だから保護しようと思い、我々と来るよう言ったんだ。
だが、それは叶わなかった。
彼らは猛烈に我々を拒否した。助けようとしているのになんて無礼な奴らだと言う人もいたが、その前に我々は見慣れぬ道具を理由に刃を向けている。拒絶されて然るべきだと、しかしそのまま置いて行く訳には行かぬと説得を試みた。その最中に再び巨人が来て…」

無表情で淡々と語る彼に本当に彼らを救いたかったという気持ちはあったのだろうか。最後に余韻を持たせながらも再び紅茶のカップに伸ばされた手を見て、ふとそんな考えが頭に浮かぶ。

「貴方方の方に被害は」
「不幸中の幸いと言って良いのか、我々に被害はなかった」
「それならば良かったです。貴方方がお会いになった者達は、私の世界では攘夷浪士と呼ばれる言ってしまえば犯罪者。何らかの理由で此方の世界に来る様になってしまった不幸は兎も角、過去に犯した罪だと思いましょう」

攘夷浪士と断定した理由は刀だ。廃刀令の最中、堂々と持ち歩く輩なんて幕臣以外いない。お偉いさん方が消えたという情報を貰っていなかったことから、エルヴィン達が会ったという人間は此方の世界の人間で正解だろう。だがしかし、消えた浪士の数は結構なもので、下手したら十人単位で彼の口から聞くと思っていたのだが、今の所それ以上話が進みそうもない。

「それ以降そういう異端な者に会ったということは」
「ない。あくまで表ではあるが、報告にも上がっていない」
「……そうですか」

とすると、運悪く全ての浪士は壁の外に着地したか、或いはここ以外の世界へも'飛べる'のか。ちなみに何で私が真選組という組織で護衛をしているのを彼らが知っていたのかというと、その死んだ浪士達が混乱しながらエルヴィン達調査兵団に向かって叫んだらしい。

『天人と組むとは真選組もついに落ちたか!!どうせお前らあの四楓院の組織した部隊かなんかだろ!?』
『あまんととは何を指すのか理解し兼ねるが…しほーいん?とは誰のことだろうか』
『しらばっくれんなよ!?副長絶対死守の護衛を知らないワケねぇだろ!!』
『…副長、護衛』
『そうだ!!あいつが来てからどんなことをしたって土方暗殺は成功率ゼロになったんだ!』
『……それは、しほーいんがひじかたを護ろうという思いが強いのではないか』
『思いだけどうこうなるもんじゃねぇだろ!?アレは異常だ!!俺らだって幕府を潰そうという思いは何よりも強い!!』
『よく話は見えないが、そのしほーいんの思いは君らより何倍も強いのは分かる』
『……は、?』
『それを掲げるだけで満足し声高々に宣言するだけの君らとそれを何が何でも実行すると命をかけるしほーいん。どちらが強いかなんて誰が見ても明白だろう。現に結果は現れている』

「……お褒めの言葉有難く受け取っておきます」
「全面的に君を褒めている」

巨人を天人と推測し、空中を自由に舞うその様子を私と繋げたのか。混乱の最中、中々良い発想をしたが全く違う。だがその浪士達の身元には興味がある。行方不明となった時期と照らし合わせて、私の世界との時間軸のズレを確認したい。それにそいつらが消えた座軸との関連も知りたい。何か遺品がないかと尋ねると、エルヴィンは頷いた。

「それを見せて頂くことは可能ですか」
「可能だ」
「ならば、是非拝見した、」
「だがそれも。調査兵団員ならば、の話だが」

見れる、と思って気を緩めた時だった。思わず露骨に手を止めてエルヴィンを凝視してしまったし、彼の目が今迄で一番確信めいたものを映していて、内心大きく舌打ちをした。私が今一番欲しい情報だということは一連の動作でバレただろう。しかもパソコン類なら兎も角、完全に紙の類で管理されているそれを入手することはまず場所を知り得ない限り不可能に近い。関係者にならなければ手に入らない。そして私はその為なら組織に組み込まれることを厭わない。だって、普通に空中浮遊が可能な私は死ぬ心配がどこにもないから。
全て、この男の思う壺だろうが。
気に食わない。たかが半世紀も生きていない餓鬼に見事に先手を打たれたことは本当に気に食わないが、帰る方法を見つける迄の暇つぶしには持ってこいだろう。それに本来の自分の仕事もうまく行けば進展が掴めそうだ。

「……良いでしょう。調査兵団推挙の件、真選組副長護衛兼補佐ナマエ・シホーイン、謹んでお受け致します」

この国の為ではない。自分の利益の為に、だ。

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