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かったーないふ


……恨むぞ、退。


本当だったら花見へと行く筈であった私達は退からの一本の電話によって現実へと引き戻された。ターミナルを占拠したらしい奴らの真の目的は私の殺害。彼らテロ集団が恐らく天人の技術を見よう見まねで作ったらしい拳銃型の装置は私を殺害するだけには留まらずとんでもない事を引き起こした。単なる拳銃ではないと察した時にはもう遅く、兎に角被害は最小限にと私とテロ集団だけを囲むように空間結界を張り、真選組の方へは私から斬魄刀を受け取った副長を最前として断空を何とか張ったと安堵した時には途轍もない光が辺りを覆った。こいつらどんだけ私が邪魔なんだと呆れながら笑ったのも束の間、次の瞬間に広がった光景に目を疑った。


「…オイオイ…何処だよ、ここ…」


視界に広がった光景はまるで何処か異国の様な街並み。石畳やログハウス風の家、白い壁に赤いレンガの屋根、洒落た煙突付きの家なんてのもある。江戸どころか日本国内ではまず見ない光景だ。あの拳銃型装置の効能は空間移動だったのかと結構感心していたのだが、これは後で誤りだと分かる。そんな近いモノではなかった。私はとてもじゃないが自力では帰れない様な場所に飛ばされていたのだ。まぁそれは後で説明するとして、この時私はとてもじゃないが、今目の前で起きている惨状の理解に苦しんでいた。

「う、うわぁ!!」
「助け、助けてくれェエ!」
「な、何なんだ!コイツらはァア!!」

私はこっちに来る時、テロ集団も同じ空間内の結界に括った。十人弱だったと思うのだが、そいつらがことごとく"食べられている"。姿形は全裸の人間だが、大きさが尋常じゃない。低く見積もっても15mはある。そして、私達が此処に現れた瞬間には一体しかいなかったのだが、今は五体に増え、更に何体かが近寄って来ている。ちなみに私は着地点が屋根の上だったので呑気に実況中継出来ているが、他の奴らは地面が着地点であったり動揺もあったのか屋根から転げ落ちて見事に巨大人間の口に収まったのもいた。
それを全て私は呆然と見ていた。
助けに行こうと思えば行けるだろう。霊子を感じないこともないから恐らく鬼道も瞬歩も出来る。だが、動けなかった。理解出来ないのだ。人間の様子をしているヤツが人間を食べているという状況を。虚もデカ物であるし霊圧が高い人間を襲うことはあるが、というか死神を敵と認識して襲って来るが、奴らは仮面を付けている。それに身体も人間からはかけ離れているので、外観的にヒトがヒトを喰うという状況にはならない。それにこの巨大人間の生態がイマイチ良く分からない。言葉を発せずにただひたすら人間を食することしか頭にない様にしか見えない。いや。そもそも思考は出来るのか?
だけど。そうやって考え、最後にヤケクソ気味に何を食べたらそんなにデカくなれるんだよ、と思わず呟いた時、人間でしょ、と何故か無機質な信女の声が頭でこだまして、瞬間、身体が急に動いた。

「【破道の三十三 蒼火墜】!」

右手を向けた先は自らの目の前。どうやら私が動けたのは信女の幻聴ではなく、生命の危機からの自己防御らしい。だが、その鬼道が良かったのか、身体が完全に戦闘態勢へと入った。
今打ったのは然程効き目がないようで、若干よろめいただけに終わった。ちなみに一緒にこっちへと来た浪士共は全滅。そこそこ戦闘技術に定評が良い組織であったのだが、この異形の理解と恐怖心が拭えなかったのだろう。助けてあげられなかったとは思わない。江戸で捕まったら死んだ方がマシだという様な拷問を受けるだろうから、むしろ助けてあげたようなモノだ。ターミナル占拠はそれ程罪が重い。つまり、何が言いたいかって、六体ぐらいの巨大人間が全て私に群がって来ているということだ。しかも中級の詠唱破棄では擦り傷程度。私は此処から全力で鬼道を撃って、彼らの弱点を探し出して斬らなければならない。
大変面倒そうだが、出来ないことはないだろう。副長に氷雨の斬魄刀を預けて来ているので取り敢えず死ぬ訳にはいかないのだ。

一つ息を吐くと、霊圧を高めた。

「【散財する獣の骨 尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪 動けば風 止まれば空 槍打つ音色が虚城に満ちる "破道の六十三 雷吼炮"】!!」

狙いは少し離れた場所にいた一体の延髄だ。生物であれば、というか様相が人間ならば弱点も同じだろう。心臓を狙うという選択もあったが少々デカすぎるので延髄にした。詠唱を唱えながら飛び上がり、そいつの背後へ逆さになりながら狙いを定めると、結構霊圧を込めて撃った。
なんていうか、どう言えば良いのだろうか。攻撃をしても彼らは反撃というものをして来ない。否、攻撃をされたということが分かっていないのだろう。そもそも思考がないと言った方が正しいか。あるのはただ、人間を感じ取る嗅覚と視覚のみ。それだけでも結構存在理由を見出すのに苦しむ生物であるが、今の鬼道で更に謎が深まった。
どうやら彼らは延髄攻撃で一発KOらしい。そして、そこが損傷した時が死を意味するようで、しかもその死に方が常軌を逸している。白い蒸気が上がると同時に身体がまるで溶けるかの様に皮、骨格筋となくなって行き、骨となって、最終的にはその骨すらなくなる。一言で表すなら蒸発、だ。

「…斬魄刀で斬り込んだ方が霊圧の消費が少ないか」

案外早くに見つかって拍子抜けしたが、弱点は分かった。詠唱ありの中の上級鬼道では少し強いが、その辺の威力で突けることも分かった。後は残り五体の延髄を的確に斬り落として行けば良い。早く終わらせてちょっと状況を整理したい。
今いる場所は奴らの手がギリギリ届かないぐらいの空中。わらわらと私に手を伸ばし群がる奴らの中の通るルートを大体決め、刀を握ると足元を蹴った。
時間にして約五秒。
弱、ぐらいだったか。全ての彼らの延髄を抉り、最後のヤツは円形にくり抜くという大サービスを成し遂げると、側の屋根に降り立った。瞬歩の連用数は恐らく百強。大前提として義骸であり、加えて前に全力投球の鬼道も放ってることを考えても隠密機動としての前線から退いて七年の身体には流石に応えた。肩で息をしながら首だけ振り返ると数だけの蒸気が上がっていることが確認出来たので、一先ず安心かと刀をしまいながら前に顔を戻して思わず体が固まった。

巨大な目玉と目が合っていた。

その目はいただきますと言ってる以外に見えなかった。巨大人間との距離はほぼゼロ。だが、ヤツが手を伸ばそうとした瞬間には詠唱破棄で撃てる中で一番に強い鬼道をありったけの霊圧を込めて叫んでいた。

「【破道の八十九 飛竜撃賊震天雷砲】!!」

黒棺が恐らく足止めに一番良いのだろうが、あれは残念ながら詠唱ありでないと出せない。狙いは兎も角、ヤツから離れることを最優先と出した鬼道の勢いで後ろへと飛び退いたのだが、気持ちを落ち着ける間も無く、その先には待ってましたとばかりに口をぱっくりと開けた別の巨大人間がいて。だが先程よりは距離があったので、手を合わせると発動させた。

「【鉄砂の壁 僧形の塔 灼鉄 湛然として終に音無し "縛道の七十五 五柱鉄貫"】!!」

しかし、縛道で縛ったと思ったらその影からもう一体現れて。本当にキリがないぞ、一体彼らはどんだけ鼻が良いんだとうんざりしながらも、飛び退いて移った向かいの屋根で膝を着き、その一体と対峙する。こいつの延髄を抉って、下で五柱鉄貫で伸びてるヤツにトドメを刺そう、と刀の柄に手を掛けた。
…時だった。

「…はっ、はァ……やっぱりいるんじゃん。…コレに、対抗出来る戦力…」

急に対峙していた奴が崩れ落ちる様に倒れたなと思ったら私の前に人が降り立った。左右の手に何やらカッターナイフを巨大化したような刀の様なモノを持ち、左右の腰からは直方体の箱をぶら下げている。そして腰迄の長さのマントを羽織り、それには何らかの集団を表すのだろうか、紋章が描かれている。カッターナイフから血が滴っているのを見れば恐らくこの人物が倒したのだろうと予測がついた。それにしても何処からどうやってこいつは現れたんだ、と刀の柄にある手はそのままに考えていると、そいつはくるりと此方を向いた。

「…お前……何だ」

何だ。
何て的を得た発言なのだろうか。確かに私は人間ではなく、どちらかというと幽霊の類だ。宙に浮けるし、手からはカメハメ波が出る。そしてこいつは今現れたのではなく、私が攻撃している所を見ていたのだろう。今のタイミングで助けに入ったということから見殺しにはしないタイプで、浪士共が喰われていた時は見ていなかったと分かる。更に何だ、と聞かれたことから鬼道を撃つ所は見ていた筈だ。
肩で息をしていたのを何とか収めると、口を開いた。

「人、ですよ」

彼の神経を逆撫でするには充分だったのだろう。ただでさえ恐ろしい眼光が更に鋭くなり、カッターナイフを握る手に力が入ったなと思ったら、彼はそのまま私に斬りかかって来た。私はしゃがんでいる状態だったので流石に不利になるかと立ち上がりながら刀を抜いて難なく止めたが、恐らくそれがいけなかったのか視界が揺らいだ。瞬歩の乱用に全力鬼道の乱用。そして、未知の生物が起こしている理解し難い状況に私の精神と肉体の状態は結構なダメージを受けていたらしい。カッターナイフの力を止める方向から受け流す方向へと変えて、斬魄刀をするりと抜くと、若干よろめきながら彼と距離を取った。

「正直に答えれば危害は加えない」
「ご冗談を。今し方攻撃されたように感じましたが」
「それはお前がバカな返答をするからだ」
「他に答えようがない」
「ふざけるな。普通の人間は手から砲撃が出たり宙に浮いたり出来ねぇ」
「意地悪な方ですねぇ…見ていたならば最初から手伝って下されば良かったのに。危うく途中で死ぬ所でしたよ」
「話を逸らすな。俺が聞いているのは、お前が何なのか、ということだ」
「いや、貴方が知りたいのはそんなことじゃない筈だ」
「…何だと?」
「私が、敵か否か。これだけでしょう」

言ってしまってから、やってしまったなと思った。もう少し遠回りに詰めれば良かった。いきなり核心を突いたことで彼を刺激してしまったらしい。
再び向けられたカッターに込められた力は尋常じゃなかった。咄嗟に解放をして受け止めたが、その刀の変化に顔色ひとつ変えずに迷わず叩き込んで来る彼に感心するしかなかった。最早私にそれを薙ぎ払う体力はない。無様にもそのまま倒されて首筋にカッターが添えられた時には思わず苦笑いが零れた。

「…分かってるじゃねぇか。俺はお前が敵か否かを知りてぇ」
「愚問ですね」
「味方だ、と言いたいのか」
「敵ではない、と申し上げたい」

巨大人間は私に襲い掛かって来たから私の敵だ。実際に何体か消している。そしてこの男の集団が何を目標として動いているかは私の目の前の巨大人間を倒していたことから明白で。彼らの敵だろう。つまり、同じモノを敵として見ているならば争う必要はない。だけれども味方とは言い切れない。
そういった意味を込めて言ったら何故かカッターナイフが首から離れた。

「来い。異論はねぇな」

同時に手を引かれて立たされて箱にカッターを仕舞う彼を見ながら思わず目を瞬かせてしまった。
だが、私の記憶はそこまでで。
彼から殺気が消えたのと、新たに現れた人間が「リヴァイ、終わったけどどうする…って、貴女!フラフラじゃないか!どうしたの!?」と言ったのを聞いて一気に緊張の糸が切れたらしい。ハンジと呼ばれた女の人の手を掴もうと一歩踏み出した瞬間、崩れ落ちる様に倒れた。

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