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ふたたび

『…来週、ですか?私は一ヶ月後ということをお聞きしておりましたし、先程団長から一ヶ月後に控えたという発言を確かに伺いましたが』
『ああ。嘘だ』
『また随分と開き直りますねぇ』
『お前の訓練に精神的余裕を与えて到達度を上げるためだ』
『……過分な心遣い痛み入るばかりですねぇ』

エルヴィンに呼ばれて急いでリヴァイの部屋へ行ってみれば、とんでもない嘘が発覚した。しかも組織ぐるみの。壁外調査というらしいこの巨人の生態調査を目的とした遠征は確かに演習はやって然るべきものだろう。一歩間違えれば文字通り死を招くし、それこそ訓練から死ぬ気でやらなければと本番に正しく動けない。だが、少し時期が早いと思っていた。その上、内容一つに掛ける時間が何となく短い様な気もしていた。だけどそれはこのサイクルを何回か繰り返す故のものだろうと、この時は納得しかけた。
そんな時にドッキリ大成功をされた。
しかもまるで悪気はなくむしろお前の為を思ってやったんだ感謝しろ口撃をされて一瞬、殺意を覚えた私は絶対に間違っていない。

『……ナマエ?大丈夫?』
『ああ、ペトラ。別に大丈夫です』
『無理しなくてもいいのよ。初めての遠征だし、その、前に巨人に会っているなら尚更恐怖はあるだろうし、…?どうしたの?』
『いえ。今私がこんな表情をしているのは、ここ一週間続くリヴァイへの殺意をどう抑えるかを模索しているが故です。巨人に対する恐怖は、それ程持ち合わせておりませんので大丈夫です』

ドッキリをやられてから一週間の今朝。壁外調査の為に朝早く集められ、眠いなと思っている時にした会話だ。大方、眠気で感情に乏しい顔を見て、緊張していると思ったのだろう。事実、リヴァイへの殺意と言った時には引きつっていた顔が、恐怖心はないと言い切った瞬間に一気に驚きへと変わっていた。ペトラはこんな感じで表情豊かにしている時をよく見る様な気がする。内心可愛いなと思って笑っていた。
それから三十分程後の今、調査兵団は街中を馬に乗って闊歩している。それを街の人間が寄ってたかって見に来ているのが奇妙極まりない。まるで殿様の行列の様になっているが、大多数の顔が調査兵団への不平不満を湛えていると分かって何となく納得する。だが蔑む様な目線とは裏腹に子供達の目は英雄を崇めるかのごとく輝いている。この世の事情をまだ知らぬ幸せな頃だ。

「…何を見てる」
「んー。人間の目、ですかねぇ」
「……何が見えた」
「暗澹と期待」

まさか会話が続くと思っていなかったのでちょっと意外だなと思いながら答えれば、一瞬チラリと私の方を見た。ちなみに今日もリヴァイの後ろに座っているが、つい三日前にハンジモブリットミケとの二人乗りでも可能になったので、愛想が尽きたらそっちに移ろうと思う。

「フン。俺らに期待を持つ輩がどこにいたのか知りたいモンだな」
「そういう期待を抱き、自らの手で未来を切り開こうと夢見た方達なのでは」

再び私の方を見たリヴァイの顔には何も映っておらず。

「……少なくとも俺にはそんな大層な志とやらはねェな」

前に首を戻して暫く走っていたリヴァイが呟く様にそう言ったのは、壁の外に出る直前のことだった。





















何を以って成功なのか失敗なのか基準は全く分からないが、中々上場だったのではないかと思う。壁外にある拠点への補給が今回の最大の目的だったが、途中で出くわした巨人にも奇跡的に被害はゼロで、意気揚々とさぁ帰ろうか今日は宴だと騒いでいる人達が多かった。
来るとしたら、そんな時だろう。
不吉な考えをよぎらせていれば、見回りをしていた隊から発煙筒が上がり、急いで全員が帰路へと走った。
その途中に見舞われた急激な豪雨が最悪の展開を引き起こした。まるでその時を狙っていたかの様な巨人の猛攻。しかも割合的に奇行種が多く、視界の悪い中、とんでもなく翻弄された。どのぐらい被害があったかも分からない。とにかく、中継地点へ急げと馬を走らせていた時、突如前から巨人が現れた。
数は2。気持ち悪い姿勢で走りながら迫ってきているのが分かる。奇行種じゃないのも分かったが、今この状況下で'普通の'戦い方をしたら確実に何人か喰われるだろう。臆する様子もなく冷静に戦闘態勢へと移ろうとしている彼らは、流石に死地を潜り抜けて来た隊士達だと感心するが、状況は極めて厳しいだろう。
そう思って、今にも指示を出して飛びつかんとアンカーを出そうとしている前のリヴァイの腕を強く掴んだ。

「何してんだ。今更怖いとでも言うつもりか」
「アホなこと言わんといて下さい。このままだと確実に四五人は喰われますよ」

何分かりきったこと言ってんだアホなのはお前だろと目線で射殺されかけたが、いくら私もそこまで呑気ではないと分かったのか無言で先を促された。

「全員巨人から距離を取るよう指示を出して頂けますか」

そう言っても絶対に反論されると思っていた。だから、何か言われる前に瞬歩で向かう準備をしていたのだが。

「……生存率は」

そう言われて思わず彼の後頭部を凝視してしまった。だけど、彼の意図を聴く時間も余裕も今はない。掴んだままの腕を更に強く握った。

「100%です」
「…髪の毛の一本でも持ってかれたら、削ぐぞ」
「どうぞお好きに」

いつの間にか馬の脚が止まっている。後ろを向いて私を凝視してから僅かに2秒後。

「……お前ら!!
今すぐに全力で巨人から距離を取れ!振り向くな!!」

私の目が揺るがなかったのが分かったのか、思い切りリヴァイは声を張り上げた。本当に命の瀬戸際を常に走っているヤツはこういう判断が非常に素早い上に、それが可能かどうかの見極めも的確だ。そしてその部下も上司に全幅の信頼を寄せているので、疑いもなく直ぐに従う。
全員が揃って了解の意を示したと同時に潔い程に巨人へと背を向けて距離を取っていく。反してその場に留まった私達の方をチラリとペトラが振り返るのが見えたので、大丈夫だと笑顔で手を振った。

「馬は」
「申し訳ありませんがこのままで。ですが、万一の時はエルヴィン団長に転移する印を付けておきましたのでご安心を」
「…は?ちょっと待ちやがれ。お前何を、」

そう文句を垂れようとしているリヴァイを無視して飛び降りると、目の前に迫る巨人を見た。もう既に見上げる程に距離が迫っているのを見れば、リヴァイの素早い判断に感謝すべきだろう。流石に色々飛び回りながら巨大で強力な鬼道は難しい。そうやって伝えるつもりのない感謝を密かにしつつも、目を爛々と輝かせながらこちらに手を伸ばそうとしている巨人は飛んで火に入る状態にしか見えなくて思わず嘲笑が漏れた。だけど。

逆に、あまりにも。

知性がなさすぎる。彼らが向かうのは人間のみ。他の生物には一切興味を見せない。消化器官もなく後に全てを吐き出しているので、食欲を満たすためではないことも予想が付く。
だったら一体どんな存在意義を持って在るのか。
まだまだ退屈はしなさそうだなと密かにほくそ笑みながらも、取り敢えずは現状打破かと詠唱を唱えた。

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