×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




ほさ


「ナマエ、刀は?」
「色んな仕舞う箱とか鬱陶しいからコレ一本で」
「……それで、出来るの?」
「大丈夫。出来るのは実証済みだから」

ペトラとそのお友達らしき女の子が物凄く不安そうな顔をして見てくる。それが生命の保持に対してなのか、リヴァイに怒られないかに対してなのかは五分五分だ。どちらにせよカッターナイフとその装備は私の動きを遮る物でしかなく、最悪死に直結するので外させて貰った。正直、立体機動装置もいらないのだが死神の性質を知るのは団長と兵長と変態だけ。団員に説明はしておらず、恐らく彼ら三人の許可を取らず外せば兵長のお怒りを買うだけで。嫌々ながらつけてきた。

「実証済みって…あの人形と実物とでは全く違うわよ?」
「いや。実物で」
「……え?」
「ん?」

そう言えば私がどうやってこの人達と出会って、どういう経緯で入って来たかを全く話していなかった。というかエルヴィンもそこには一切触れていない。恐らく質問してくる輩がいるとは踏んではいたのだろうが、それを技術面での突出を見せることで強制的に黙らせた形だろう。だけど、これではその場凌ぎとしかならず、彼にしては詰めが甘い。多分何かしらの機会に突拍子もない頃合いに何とも無しにぶっこんでくるのであろうが、ペトラの様にそれより前に気付いてしまうリスクもある。
さてどう答えようかと考えている間にも彼女は立て続けに言葉を繰り出した。

「ちょ、ちょっと待って!どういうこと?貴女、調査兵団に入る前にどうやって試したの?立体機動装置は?まさかリヴァイ兵長の様に…」
「ペトラ」

なんとも面白いものを見た。ジブリのキャラが驚いた時に全ての毛が逆立つ様子と言えば伝わるだろうか。突如として降ってきたリヴァイの声にそうなったペトラは笑ってはいけないが、おかしい。恐々後ろを振り返る彼女の勇気を讃えたいと思う。

「お喋りはそこまでだ。整列しろ」
「は、はい!!申し訳ありません!」

急いで駆けて行く彼女とその友達を見れば整列する場所があるのが分かる。だが軍隊へ入って僅か二日という短い私にとっては場所はない。慌てて並ぶ隊士達を眺めていると、唐突に後ろ襟を掴まれた。ちなみに私は今きちんと調査兵団の隊服を着ている。どうやらジャケットの中は自由らしく、そうは言われても真選組の隊服しか持っていない私はそのままそのシャツを着ているのだが、これがまたなんとも言えず。兵長殿と同じような感じになってしまうのだ。それを隠しもせずに大声で指摘し、殴り飛ばされたハンジさんを私は忘れない。彼女は勇敢だった。将来語り継がれよう。

「テメェはこっちだ」
「私一応全体紹介はされましたよね」
「どういう扱いかはまだ言ってねェ」
「ああ。班分け」
「それと、役職だ」

役職?と問いただす前に整列をする隊士達の前に連れてこられてしまった。恐らく班毎に並んでいるのだろう。ハンジが手を振ってきたので返すと、殺気を感じたので素直に下ろした。なんだよ。そんなに羨ましいのか。といじるのは後にすることにして、表情を無にして前を見据えた。

「昨日、君たちに紹介したナマエ・シホーインだが、彼女の立ち位置を決めていなかったのでな。今日の演習に合わせて考えてきた」

夕飯の付け合わせに冷奴持ってきたの。そんなお母さん感満載で言われようとは私も団員も思うまい。普通ならどこかの班員の一隊士として入るに決まっていよう。だが私の境遇が特殊すぎるのか、そうはいかなかったらしい。まぁ私も弱々しい班長の所へと入れられて死にたくもないので好都合と言えばそうだが。
怪訝そうな団員の顔が順調に増える中、エルヴィンは躊躇いもなく言い放った。

「彼女は今日から兵長補佐に付いて貰う」



































補佐という言葉に縁があるのか、長い人生の中の単なる偶然と思えばいいのか。下らないことをぼんやりと考えていると、声が飛んできた。

「ナマエ!ボサッとするな!行ったぞ!」

兵長補佐宣言に恐らく団員達は怒り狂うであろうと予想したのはいい意味で外れた。聞けばリヴァイは謂わばスラム街的な所から引っ張ってきたこともありもっと歪で反感を買うような入団の仕方だったらしい。そして加えてあの性格だ。それは私がまだ可愛く見えるだろう。というか団員に変な耐性が出来ているとみて間違いない。だって考えてもみろ。人類最強と言われ、調査兵団の中で絶対的エースの補佐に得体の知れない同程度の実力者がつこうとしている。しかも欧米系の中に唯一のアジア系の顔。天人がいるせいでそういう観念を忘れていたが、異様に映るだろうに彼らは一瞬顔を顰めただけで後は難なく演習をこなしている。今のだって、ミケとかいう人からの撃だ。よく知りもしないのに、名前で呼ばれるとは恐れ入った。
適当にワイヤーを出しながら動く巨大人形のうなじの教えられた範囲を斬魄刀で狩り、うっかり空中ではなく側の木に降り立ちながら、そんなことを思う。

「流石に団長兵長の連名推薦だけあるな。恐れ入ったよ」
「お褒めに預かり光栄です。ミケ班長」
「呼び捨てで構わない」

全ての班と一度連携を取って来いと偉そうに仰ったリヴァイ兵長にダラけた返事を返してから三時間。最後にこのミケがいる所へと飛び込んだワケだが、結果、結構疲れた。ハンジの熱烈ぶりに疲れたのも三割ぐらいあるが、やっぱりこの立体機動装置が鬱陶しくてたまらない。実際壁の外には常に木があるとも限らないのに何故木があることを前提としてしか演習を行わないのか。木から降りながらミケに質問をすれば、丁寧に説明をしてくれた。

「我々は基本的に巨人から逃げることを大前提としている」
「……なるほど。平地で遭遇したならば、森へ連れ込む。もし周りにそんなモノがなく、また時間的余裕がない場合は、」
「仕方がない。巨人にアンカーを刺したりしながらうなじへ近付き、絶命させる。だが、その場合の生存率は著しく下がる」

だろうな。空中でも飛べない限り、あんな巨大なものと平地で争うなど自殺行為も甚だしい。だが、明らかに歩幅が異なる巨人からどうやって距離をとったり適切な場所へ連れ込んだりするのだろう。

「お前、馬に乗ったことはあるのか」
「……ないですね」

ミケと話しながら集合場所へと行くと、既に他の団員は集まっていて。私達が戻って来たのを見たエルヴィンが整列を呼び掛け、今日の全体的な反省を当たり障りのない言葉で話していた。その後、すぐに解散となり宿舎へと帰ろうとした時にまた後ろ襟を掴まれた。貴方は人を呼び止める時に他のやり方を知らないのか。むちうちになったらどうしてくれるんだ。そんな恨めしいことも含めて睨もうと思ったらそんなことを聞かれた。
先程の私の疑問は解消された訳だが、問題が一つ生じた。馬なんて、尸魂界でも現世でも乗ったことはない。それどころか直に見たこともないんじゃないかレベルだ。

「俺らの移動手段は馬だ。壁の外で地面を歩くのは自殺行為以外なんでもない」
「でしょうね。私もそこは疑問に思っていたところでしたから」
「触れたことは」
「それどころか見たこともないです」

そんなに眉間にシワを寄せて貰っても困る。既に自動車電車飛行機宇宙船などの移動手段がある中で馬なんて誰が使うか。それに尸魂界では基本、自分の足が移動手段だ。他は貴族が乗る神輿ぐらいだろう。それですら馬じゃなくて人が担ぐ。

「このまま馬舎へ行くぞ」

Yes or はい、を見事に体現して見事に従った私に鼻を鳴らしたリヴァイは知らない。

私は動物に好かれない、という事を。

[ 5/8 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]