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団子足りないな。





『真選組副長土方歳三だ』


もうすぐ三月下旬になろうかという日の昼下がり。桜咲く屯所の中庭、正確には副長室の前の中庭にその一言が浮かんでいた。言葉を発したのは名前の目の前で刀を合わせている黒髪ポニーテールで、少し十四郎より落ち着いた感じの男。その彼が“真選組”だと名乗り、しかもその口調からどうも嘘を言っていないらしいことも分かる。だが残念ながら真選組はこの世に一つだけだし、真選組なんていう攘夷グループの名前も聞いたことがない。
どちらを信じ、どちらを嘘だと言うか。
十四郎の頭の中で二三秒の葛藤が繰り広げられた後、彼は口を開いた。


「……ふざけてんのか?」

「…どういう意味だ」

「そのまんまの意味だよ。この世に真選組は一つだ。で、副長もこの世に一人だ。俺ァ生き別れの双子なんていねェぞ」


今度は土方歳三の方が怪訝な顔をした。そんなこと俺だってそうだと言いたそうな感じである。


「大体てめェこそなんなんだよ。人に聞いといて真面目に答えてみりゃふざけてんのかって、馬鹿にするのもいい加減にしやがれ!!」


まぁ当然の反応だろう。
此方の事情があればこその十四郎の返答であって、なにも此方の事情を知らない歳三からすればただ自己紹介をしただけでふざけてると言われたのだ。…そりゃあキレる。


「いい加減にすんのはてめェの方だ!!大体此処に入った時に門の立て札見なかったのかよ!!」

「だからさっきから言ってんだろ!?俺達は縁日に行く最中だったんだって。歩いて迷ってたら此処にいたんだよ!!」

「はァ!?じゃあバッチリ正門通ってんじゃねェか!!」

「門なんて通ってねェ!!歩いてただけだ!!」

「嘘つくんじゃねェ!この屯所の塀にはでっけェ穴でも開いてるってのかァ!?オイ四楓院!ちょっと山崎呼んで来い!一発殴る」

「退の使用方法を完璧に間違ってますよ、多串さん。ていうかお二人共、人の頭越しに会話するのやめてもらえますか?」


十四郎の前に名前。歳三はその彼女に斬りかかったのだから、十四郎と会話を始めれば当然頭ごしになる。それを指摘されて気付いた二人は意外にも口を引いた。
だがなんとなく歳三の表情がおかしい。


「歳三さん」

「…なんだ」

「刀をお牽き下さい」

「…断ると言ったら」

「懸命な判断とは言えません、とだけお答えしましょう」


総司に勝る剣術。刀を簪で止めた現実。目の前で余裕そうな顔をする女に勝てないとは言わないが、絶対負けないかと聞かれれば肯定は出来ない。それに総司達を残して自分が死ぬという最悪な状況は避けたい。しかも後ろ二人の実力は未知数だ。とすると、今この状況において最善な手段は女の言う通り刀を下げること。そう思った歳三がゆっくりと刀を牽くと、名前は軽く息を吐いて簪を下ろした。


「十四郎さん」

「…あ、ああ。なんだ?」

「離れがありますよね?3ヶ月前に松平様が私専用にお造りになった」

「あるっちゃあるが…まさか、お前…」

「そこで話を聞きましょう」


簪を差し直し、後ろを向きながら十四郎に淡々と述べる名前。最初は名前で呼ばれたことに驚いていた十四郎も彼女の言わんとすることが分かると別の意味で驚き目を見開いた。


「こんな怪しい奴ら屯所内に入れろってか。ふざけんな。ゴリラだっていんだぞ」

「落ち着いて下さい、十四郎さん。先程から見ていて分かったのですが、恐らく歳三さん達の方が私達より状況を掴めていない…いえ、彼らは全く掴めていないと思います」

「どういう…意味だ」


名前の言葉に引っ掛かったのか、瞳孔ガン開きだった十四郎は少し冷静さを取り戻しながら尋ねた。一方の歳三は名前の言葉に目を見開いていた。ちなみに歳三以外の八人は、総司を中心として両サイドに女の子と幼さの残る少年、その三人の側に穏やかそうな雰囲気が漂う人が立ち、それより前に残りの四人が立っているという配置。その中の、壁に寄りかかって座っている総司を一瞬チラリと見てから名前は答えようとしたが、先に口を開いたのは銀時だった。


「多串君はさ、隊服で外歩いていて多串君自身だと認識されなかったことってある?」

「ねェな。ちなみに多串でもねェよ」

「このイケメントッシーも同じらしいよー?さっきの自己紹介前のアイツらの反応見た?」

「……そういやァ、嘘だろとかなんとか…」


そう呟く十四郎を見ながら銀時は後はヨロシクと名前の肩を叩いた。少し無責任とも言える彼のバトン渡しに名前は呆れたような顔になるも、言葉を繋げた。


「いいですか?つまり、お互いは世間的にも有名であり顔はよく知られている。しかし、私達は歳三さんを知りませんし、歳三さん達は十四郎さんを知りません。何か変だと思いませんか?」

「…そう、だな……だが知られているってこと自体が嘘ってことは…」

「それを確かめる為にお話を聞きましょう、と言ったんです。こんな開けた場所では刀を抜き易いですからね。話合いにもなりません。その上でも浪士の疑惑が拭えないようでしたら私が斬り捨てましょう。どうなさいますか?それとも今、問答無用で斬り捨てますか?遠い山奥に住んでいた廃刀令を知らない田舎人かもしれないのに」


まぁ尸魂界からやってきた廃刀令を知らない死神っていう線もありますが。悪戯っぽくそう最後に付け加えて笑うと、漸く十四郎も厳しい顔を崩しんな奴いるかと諦めたように苦笑した。


「分かった分かった。お前がそこまで言うなら話を聞こうじゃねェか。俺ァ総悟と山崎を呼んでくる。お前はコイツらを離れに連れてけ」

「分かりました」


そう言って十四郎の背中が見えなくなるまで頭を下げた後、名前は歳三に向き合った。


「さてと、“副長”さん。ご案内しますのでお連れの方々に声をかけて頂けますか?」














―団子足りないな―



(は!?アイツらと茶菓子食いながら話そうってか!?)
(そう思ったんだけど…団子は十本しか買ってきてないし…)
(よし。じゃあ俺がその団子を貰おう。お前らは煎餅でいいだろ。万事解決だ)
(いや、なんの解決にもなってないから)

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