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ごめんなさい。


山崎丞に課せられた仕事は一つ。今年の春に入った新入隊士である山田太郎に四六時中張り付くことだった。
丞は気配の消し方は忍とまではいかなくともまぁまぁの出来。入隊試験においての山田太郎の実力は隊内平均からみれば中の上。特別気配に敏感という感じもなく、かといって鈍感でもない。こちらがボロを出せば確信を持った疑念を覚える程には力があるだろう。そこらを入念に踏まえて貰って、無線と携帯電話の使い方を十分にレクチャーして、彼が確り理解したかをこちらが安心出来るまでに確認して、送り出した。

『…頼めるか、丞』

夜に銀時が来た日の翌朝。山崎丞を副長室に呼び出し、今回の事の顛末の私らの推測の概要を伝え、密偵の説明をすること三十分弱。ずっと無表情で聞いていた彼に尋ねれば、迷いもなく頷いてくれた。あまりの快諾ぶりに思わず副長と二人、揃って『え?』とか間抜けな声を出してしまった。

『副長に…歳三さんに、貴方達への協力は惜しまないように、と仰せつかっておりますので。俺に出来ることであれば何なりと』

成る程な。と思ったのは私だけではないはずだ。副長も、自室で盗聴器越しに聞いている総悟も特別監察組も、負い目を感じている歳三さんの心情を察しているだろう。あの人は全てを悟っている。ズバ抜けた頭を持っているが、近しい部下は残念な頭が多い。途轍もない苦労人の筈だ。同情さえ覚えるレベルだ。
ここで話を山田太郎に戻そう。
彼は入隊試験の技術テストにおいて総悟が相手をした男だった。当然総悟には及ばないものであったが、剣を交えた後の彼の表情が気になった。

『何か引っかかる』

その日の入隊試験が一通り終わり、後片付けをしている時に尋ねてみればそう言った。右手にある竹刀をぼんやりと眺めるその目は恐らく数時間前の打ち合いを思い出しているのだろう。

『…実力はないわけではなかった。なんて言うかもっと、』
『出来ても良かった』
『ああ』

傍にいた副長も話に参加して来たので退と目を合わせた。彼は頷き、持っていた資料の束から山田太郎のものを引き出すと、私に差し出した。

『総悟。あんた筆記試験の監督してなかった?』
『しやした。涼が実技の準備かなんかで急遽変わって欲しいって』
『山田が筆を持っていた手はどっち?』
『筆?……利き腕…そうか』

山田太郎は筆記は右手に筆を持ち、実技の時は左手に竹刀を持っていた。私の様に両利きというパターンもありだが、総悟の様子を見る限り利き手は右だ。随分と舐めた真似してくれてるじゃねぇかと副長が吐き捨てた。素直に非常に残念だと思った。筆記はほぼ満点近く、実技のデキも悪くない。久々に期待出来そうな新人と見ていただけに落胆が大きい。だが半面、やられたとも思っていた。
真選組は職業柄、度々攘夷側からのスパイが潜り込んで来ようとする。退が前にやろうとして、見事に桂にバレたやつの逆である。というかアレは最初から分かっていたらしい。ただ小太郎が遊びたかったと言っていたので一発殴っておいたのが懐かしい。そしてそのスパイに関して小太郎は私に情報をくれる。勿論私も彼に特に危ないなと思った検問などの情報を渡しているので等価交換である。ちなみに敵側の情報を流すことに抵抗はないのかと聞いたら、

『そういうことをする奴らは大抵が過激派。俺の信念に反する』
『ま、そういうことにしといてあげるよ』
『故に、穏健頭脳派の場合は忠告しないのでそのつもりでな』
『…………』
『じょ、冗談だ。だからその斬魄刀を収めろ』

ないようなので、交渉成立だ。
小太郎の情報網は結構信用出来る。喜助は最早どこからどうやってとってきてるか分からないので無視するが、彼は懇意にしている情報屋が何人かいるらしく、それらの情報をまとめた上で教えてくれる。実に真面目な彼らしい方法だと感心した覚えがある。

その二重のラインを突破された。

本来なら疑問を持った時点で不合格にすればいい。だが、これをこのまま世に放っておく方が危ないんじゃないかと思って、入隊させることに決めた。手元に置いて監視することにしたのである。


「これで。一気に片付くと思いたいが」


そう言ってため息を吐いた副長にお茶を渡した。監察任務を言い渡し、その翌日の今朝無線を付けて送り出した。と言っても監察対象は同じ真選組内。何かあれば直ぐに対応出来るので、こちらとしても安心ではある。
ちなみに建物の構造を教え、どこから屋根裏に入れるとか下に抜けられるとか、いざとなったらここに隠れればいいとか色々書いた便利地図を渡して、困ったら私の部屋に来なさいと伝えた。その地図を見た副長が酷く驚いた様子で私に文句を言おうとしたのは無視した。総悟に渡してあるのも秘密にしておいた。


「そう言えば。歳三さん達を送り返す手立ては整いましたが、如何なさいますか」

「っ、ゥあっチ!…、ハァ!?」


今は副長の部屋で書類三昧だったのだが、休憩がてらお茶を淹れて団子を出したついでに切り出せば、見事に熱いお茶にやられていた。ちなみに拳西一押しのゴマ団子である。


「そんなに驚くことですか」

「驚くだろ!?え、なんだ。世界渡れちゃう装置でも作ったワケか?」

「当たらずとも遠からず、ですね」


世界を渡る為に必要な莫大なエネルギー。これは、マムシZを基盤として作れば簡単である。問題は帰る道だった。空間を歪めたとしてもその先が新選組が来た世界とは限らない。説明した様に並行世界はごまんとある。こちらから送り出す以上、そんなヘマをやらかすワケにはいかないので、世界を特定する為に喜助はある方法を考えた。


「その構造の説明ですけど…本当にお聞きになりたいですか」

「ああ、話せ」

「分かりやすく言えば、断界を通ります。穿界門を開いて拘流を固定し、その拘流の壁に歳三さん達から採取した'世界'の霊圧を、一致した物があると光反応が起きる物質を混ぜ込んで、張り巡らせます。それを一昨日から試みていたんですが、今朝、わかったと連絡を受けました。霊圧変換機能もちゃんと組み込んで人間も安全に通れる穿界門と断界も既に完成しています」

「……久々に聞いたこと後悔したわ」

「だから最初に確認したじゃないですか」


一息に説明して副長の方を向くと、ため息をついて団子に手を伸ばしていた。一応、穿界門も断界も説明はしてあるのだが、やはり完全に理解はしていないので難しい話になると、早々にギブアップしてしまう。笑って私も団子を取ると、一つ口に入れた。


「ん?ちょっと待てよ。断界で行けるなら、莫大なエネルギーいらなくねぇか?」

「副長。断界はどことどこを繋ぐ道だとお教えしましたっけ」

「現世と、……ああ、そうか」

「最初に空間を歪めてそれを'固定'して、そこから穿界門を開けたんです」


それなりに大変だったが。そう言って軽く話していたが、彼がそれなりにと言うことは結構大変だったんだと思う。大喧嘩したのを少し後悔した。


















―ごめんなさい―

(浦原にも非はあったんだろ)
(何となく黙った私にそう言った副長の読みに感心して)
(熟年夫婦の様だなと言ったら)
(殴られた)

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