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羅刹。




信女さんに渡したあの台本は良く出来ていた、と自分でも思う。
そもそも、二言目には斬っていい?の戦闘狂の彼女の性格からして、本気の殺気を伴った攻撃をされたら名前さんの言う事も聞かないだろう。と、いう考えの下、夜一さんと考えた苦肉の策がコレで。ただ口で予定を伝えるよりは、台本として少し面白くした方が彼女の興味を誘え、且つ、乗せ易いだろうと言う読みだったのだが、見事成功した。
まぁ、実際前日に見廻組の屯所で渡した時の信女さんの反応からして、今日の成功は目に見えていたのだが。

だが、本来だったらコレは名前さんと銀時さんだけで行われるモノだった。でも予定は未定であって決定ではない、と言うように彼女が思った以上に怪我のダメージが残りそうで、とてもじゃないが彼ら異世界組の相手を一人で出来るような状態ではなく。代わりにと上がったのが、信女さんだった。つまり、ピンチヒッターのような感じだ。だけど信女さんは僕らの期待通りきちんと役目を果たしてくれた。今度、ポンデリングの詰め合わせでも送ろうかと思っているところだ。


「…じゃあ私、帰っていい?」

「あ、はい。ホント、ありがとうございました」


なんて、思ってたらそのポンデリング受け取り主に声をかけられた。今僕が居るのは、屯所の屋根の上。一応不測の事態に備えて鬼道で姿を隠し、一部始終を眺めていたのだが気付かれたらしい。何時の間に来たのか、名前さんが喋っている中、切り上げて此方に来たと言うところか。台本には平子さんが逆撫で惑わし、刀を取り上げるところ迄しか書いていない。大方、興味が薄れたのだろう。だけど、別段彼女がいなくなったからと言って困る事はない。
それに言い方は悪いがこの先、信女さんは必要ない。寧ろ関わり過ぎて下手に異三郎さんに伝わり、余計な手出しをされては逆に困る。彼女の気まぐれに感謝するところだ。


「…喜助」

「何スか?」

「見廻組はこれ以上関与しない」

「……貴女の考えじゃないっスね。異三郎さんっスか?」

「そう。今朝、異三郎に言われた。…貴方に言うように、と」


まさか、向こうから手を切ってくれるとは。いや、若しくは僕の考えを読まれたか。どちらにせよ良い方に転がった。
だが、気になる事が一つ。


「…理由は」

「……見廻組が必要なの?」


隙あらば真選組を潰そうと考えているあの人がこうも早く手を切るとは少し考え辛い。昨日の屯所での様子は盗撮で知ったらしいが、やはり鬼と名乗る彼らの圧倒的戦力に、関わらぬ方が賢明、と判断を下したのか。はたまた別の考えか。そう思って聞いたのだが、予想以上に険しい表情の信女さんがいた。


「いえ。ただ、興味本意で」

「興味、本意…?」

「ハイ。あの異三郎さんが風間達をどう、見ているのか」

「………異三郎はあんなのに負けない」

「イヤだなァ〜そんなコトを言ってるんじゃないっスよ、僕は。何故手を引くと決めたのか。異三郎さんの判断の所を聞きたいんス」

「そんなの知らない。私はただ、異三郎からそう言うようにと、指示を受けただけ」

「…ポンデリングいくつで?」

「三つ」


少し不機嫌そうだがきちんと答えるあたり、やはりポンデリングが大好きなのだなと苦笑してしまう。だけど、


「僕が聞きたいのはそういう事じゃない」

「…どういう意味?」

「僕はさっき、判断の"所"と言いました」

「…だから」

「異三郎さんが判断した、その本人の考えを聞いているのではなく、"材料"を聞いてるんスよ」


真選組の頭脳は局長ではなく副長の土方さんだ。局長は精神的支柱の役割を果たしている。そして、一番隊長の沖田さんが戦闘に於いて筆頭を切る。ちなみに名前さんは土方さんと沖田さんの両方を持っている。しかし、見廻組は違う。頭脳は局長にあって戦闘は隊士全員でという形だ。その中で飛び抜けているのが信女さんで、副長という役職についている。まぁ異三郎さんも飛び抜けてはいるが。要するに、小難しい話に関しては信女さんとするのは利口ではない。そう思っていたのだが、今回は違った。あまりにも彼女の聞き分けが良過ぎたのだ。これは異三郎さんが信女さんにきっちりと説明したのだろうと踏んだのだが、向けられた刀の切っ先でそれが正解と分かった。


「貴方には関係ない」

「貴方にも関係ない筈だ。なのに、異三郎さんは知っていた。信女さんにしっかりと説明出来る程に」


僕も死にたくないので、霊圧が漏れないように紅姫を抜いてそれを止めているのだが、平子さんが右手を逆撫の柄に置いているのがチラリと見えた。ちなみに彼は異世界新選組から刀を取り上げた時点で刀を収めている。きっと僕の僅かに漏れた霊圧に反応したのだろうが、彼には名前さんの方を気にかけて欲しいので余計な手間を掛けさせたくはない。なので、僕が刀から力を抜いたのだが、意外と信女さんもそれに従ってくれた。


「…異三郎と、…名前に貴方と戦うのは良くないって言われてるから」

「そうっスか」


有難いことだ。僕も信女さんとの戦闘は避けたかった。そう思って内心安堵していると、名前さんの方をチラリと見ながら信女さんがポツリと呟いた。


「…貴方の考えてることで正しい」

「……一体いつ、"会った"んスか?」

「会ってない。昨日の朝、メールが来た」

「……え。あの人、メールとか」

「違う。送ったのは万斎」

「まぁ、そうっスよねぇ…」


見廻組局長が高杉と繋がっているのは随分前から知っていたし、向こうも僕が知っていると分かっていた。だけど、それが真選組にとって害になると思わなかった僕らは名前さんに話してはいない。害になるどころか恐らく幕府の闇を突こうとしている彼らはむしろ真選組にとっては利益だろう。現に名前さんは過去に一度天導衆に喧嘩を売っている。要するに、敵の敵は味方、というヤツだ。
そして、今回僕が疑ったのがこの高杉異三郎ラインで。あまりにも正確過ぎる情報の保持に、浪士が関与していることも加えると、高杉が絡んでいるだろうとほぼ確信の推測を立てていた。だけど、先程からの信女さんの態度で"吸血鬼擬き"に関して高杉は僕らよりかなり正確な情報を持っていることが分かった。はっきりと異三郎さんが件の介入を拒否していることからも明白だ。


「…異三郎さんは、何を知っているんスか?」

「貴方が知り得ていないこと」

「それは…交換条件、ととって間違いないんスよね?」

「……えぇ」

「…僕を試してたんスか」

「異三郎にそう言われたから。これぐらい分かっていなければ話す必要はないって」

「相変わらずっスねぇ、あの人は」


最初に介入を断ったのは、ある意味フェイク。断った後に僕があっさりと引いたら情報は渡さないが、食い下がれば渡す。そう決められて、試されていたようだ。相も変わらずの性格に思わず苦笑を漏らせば、信女さんもふと笑った。


「……でもね、喜助。コレは知ってしまったら目を瞑ることは出来ない。それでもいいの?」

「勿論っス。この不安定な状況じゃあ下手に手だしが出来ない。それに比べれば対策が取れる分だけいい」

「…そう。じゃあ、最初に遠慮なく言わせてもらうけど」


そう言ってから目を瞑って少し間を空けると、彼女の小さい口が動いた。




「今騒ぎになってるあの天パ擬き…それは異世界新選組の幹部による人体実験の成れの果て。そしてその名を、」



















ー羅刹ー

(そう言い切って再び開かれた信女さんの目は)
(いつも以上に無表情な色が写っていた)

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