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情けないね、銀時。




「……何、やってるの?」

「いやーそれね。もしかしなくとも私の台詞かもしれへんな」

「ふざけないで」

「いや、だからね?それ私のセリ…」

「斬っていい?」

「ごめんなさい」


副長と夜中に話してから数時間後、鉄裁の鬼道によって大分回復した私は何事もなかったかのように朝から自分の業務に勤しんでいた。本来ならば昨日届く筈だった新選組用の隊服が南野の都合で一日ズレて今日になってしまったので、急いで玄関から自分の部屋まで運んで来た。何故かって、一枚一枚彼ら全員分がきちんとあるかを確認する為だ。そんな時である。


『おはよう』

『…へ?』


重い段ボールを台車に乗せてガラガラと押し、辿り着いた自分の部屋の襖を開ければ、何故かいたのは一人の女。あたかもいるのが当然だと言わんばかりにそう挨拶をして来た彼女は白い隊服を身に纏い、長い刀を自分の左側に置いてポンデリングをモグモグと頬張りながら此方を見つめている。どっからどう見ても見廻り組副長の今井信女であった。


『…信女?』

『他に誰に見えるの?目、腐った?』

『いや、そういうことじゃなくって。私が聞きたいのは…』

『そんなことより。貴女、

……何、やってるの?』


そして、冒頭に戻る。
人の話を聞くという行為を固より持ち合わせていない信女に一方的に責められている私は、台車に手を添えたまま素直にごめんなさいと謝っている。おかしい。絶対におかしいと思う。なんて、呑気に考えていたら不意に顔の前に何かが迫って来た。


「っ!?……ちょ、いきなり…」


その何の予告もなく迫って来たモノは、刀だった。
瞬間右側にそれを避け、追うように突き出された二度目の攻撃を後ろに倒れることで回避し、更に突き出された刀は首を少し傾けることによって凌いだ。つまり、仰向けになった私の上に信女が跨り、私の顔の横へ刀を突き刺している情けない状態になったのだが、いきなり切っ先を突き付けられて反応出来る人も少ないだろう。その中で私は中々の反応を示したと思う。のだが、彼女はお気に召さなかったらしい。表情の少ない信女の眉間に皺が寄っている。


「………だから言ったのよ。何をやってるの、って」


そんな体調で。
そう言ってじっと見てくる信女にはどうやらバレてるらしい。夜一から聞いたのかメール馬鹿の情報網が凄いのか。どちらにせよ私の怪我を彼女は知っている。現に普段なら楽に避けられる攻撃に手こずったばかりか、息が上がっている。自分で思っている以上に本調子じゃないようだ。そしてそれを台車を押しているだけで見抜いた信女は流石としか言いようがない。


「…でもさ、こういう事務的なことは…」

「知ってる。昨日のことは異三郎から聞いた」

「既に会話不成立の素晴らしさ」

「あの状況で本気でやらなかった名前は単なる馬鹿」

「そこまで言うか」

「土方十四郎、沖田総悟なんて死んだって構わない」

「はいはい。ていうか予想通りとは言え気になるよね。何故佐々木局長は知ってるワケ?ストーカー?」

「貴女の所の局長と一緒にしないで。異三郎のは盗撮」

「むしろそれコッチのセリフだわ」


警察を盗撮する警察って最早警察じゃないよね?信女さん。なんて思ってるんだけど、そろそろコッチも時間的にまずいんじゃないかと思う。元々副長と一緒に隊服を取りに行ったのだが、彼は異世界組を呼びに途中で私と別れたのだ。呼びに行くだけならそんなに時間も掛かるまい。なので戻って来てもおかしくない時間なのだが、信女は一向に私の上から退いてくれる気配がない。


「どこ?」

「…風間のこと?」

「他の二人も。…それに、もう一人」

「……雪村千鶴は非戦闘員。除いて」

「…そう。…で?」

「リサと拳西が追った。連絡はあったけどあまり勧めない」

「…なめてる」

「アホ、誰があんたの実力を疑うか。専門の問題だ。餅は餅屋って言うでしょ」


そう言えば信女がピクリと動き、その拍子に彼女の髪がさらりと零れ落ちて私の顔に掛かった。


「何か面白い言葉でもあった?」

「違う」

「じゃあ、どないした?」

「来た」


え、何が?
そう返そうとした時にはガタンと言う音が聞こえて来て、彼女が私に顔を顰める意味が分かった。こんな近くに来ても人間の気配が分からないのだ。そりゃあ重症である。


「……ていうかなんで銀時?」

「最近出てなかったから」

「あーそっか。ドンマイ、銀」

「待て待て待てェェエ!!え、何この状況!?なんでお前いんの!?なんでお前名前の上に乗ってんの!?羨まし……ゥオア!?」

「黙って。刺すわよ」

「もう刺してますけどォオ!?」


信女は銀時に懐いている。あまり執着しない彼女がここまで反応するのは珍しい、と佐々木さんが言っていた。現に、今もとっくに私の上から退いて嬉しそうに銀時を刺そうとしている。


「嬉しそうに刺そうとしている、じゃねぇよ名前!!俺死にそうなんだけど!?」

「…エスパー?」

「全部声に出てましたァ!!」

「そっか。頑張って」

「アレ?なんか涙出てきた…」


そう言いながらも必死で避けている銀時がいい加減可哀想になって来たので、信女を止めてあげようと腰を上げた。…そんな時。


「待て!!総司!!斎藤!!」


廊下の少し奥から歳三さんのそんな怒鳴り超えが聞こえた。でも、朝から元気だな歳三さんとか総司さん治ったんだとかそんな悠長なことを考えてる間もなくて。


「…遅い」

「いや、遅くてええんやろ。速かったら死んどるで、銀時」


歳三さんの声から僅か二秒、足音も殆どしないうちに銀時に刀が二本迫っていた。その向かう先は見まごうことなく彼の心臓。銀時も木刀を抜いていたが、それを私が左手で抑え彼が驚いて私の顔を見たのと同時に響いた鈍く重すぎる二つの金属音。余程の力を込めたと分かったが、コレは異常だ。ちなみに一さんのは信女が、総司さんのは突如現れた真子が止めている。二人とも実力には申し分ないだけに、その彼らの表情が如何に今の攻撃が本気だったかを物語っている。だが、それは総司さんと一さんにも言えることらしく。止められたことに目を見開いて驚いていたが、不意に総司さんがニヤリと笑って口を開いた。


「…へぇ……君、誰?なんでそいつを庇おうとするワケ?おかっぱ」

「人に名前を聞く時は自分から、て母ちゃんに教わらんかったのか?ガキ」


あ、この二人絶対仲良く出来ないだろうな。
緊迫漂う空気の中、お互いニヤリと笑う二人を見て何故かそんな呑気な考えが私の頭を過った。












ー情けないね、銀時ー

(オイコラ、待て。なんで最後俺に振った?)
(だって事実じゃん。実際、信女に庇われてるし)
(あれ?お前、俺の木刀を掴んだよね?お前、なんか待てみたいな目ェしてたよね?)
(してない。何故か木刀が勝手に手に吸い込まれて…)
(んなわけあるかァァア!!)
(…ちょっとあんたら黙っといてくれへん?一応シリアス場面なんやけど)

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