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結び付き始めた事実。
『…興醒めだ』
名前が意識を飛ばした直後、風間とか言う男はそう呟いたかと思うと瞬き程の間に消えてしまった。隣にいた天霧、それに雪村の方にいたらしい不知火とかいう奴も一緒に。瞬歩に近い消え方だったのだが、涼の話だと死神のとは全く雰囲気が違うようだ。まぁ霊感があるヤツならではの感覚らしく俺らには良く分からないが。
そして、騒ぎを聞いて駆けつけた隊士達が血だらけの名前を見て救急車だ病院だと騒ぐのを、うるせぇと総悟が一喝して浦原に電話をすれば三分で塚菱を伴って来た。
『浦原!!』
『十四郎さん!!名前は…』
『傷は浅いが範囲がでけェ。が、そこを夜一ぐらいの蹴りで蹴られた。完全ノーガードだった』
『…分かりました。鉄裁さん、お願いします』
『お任せを。十四郎殿、この子の部屋で構いませんかな?』
『ああ。好きにしてくれ』
あいつにしては珍しく息を切らしてしかも呼び捨てで。俺も相当焦っていたのだが、奴の様子に逆にコッチが面食らってしまった。だがそれ程までに名前はマズイ状況なのか。そう思って再び焦っていたのだが、浦原が急に俺の顔の前で手をパンッと叩いたもんだから思わず飛び上がってしまった。
『な、な何すんだよ!?』
『アハハー驚きました?シリアスモード』
『…は?』
『やだなぁ〜貴方ホントに彼女が危ないと思ってたんスか?全然平気っスよ。まぁ強いて言うなら貧血気味ってトコロっスかねぇ…』
あ、もしかして心配とかしちゃいました?そう言ってニヤリと笑った浦原に殴る蹴るの暴行を加えたのは言うまでもない。名前があんなに真っ青な顔をしてたってのに何でこんなにふざけられんだ。死ね。
『…やーっぱり心配なんじゃないっスかぁ〜…』
『…うるせぇ』
『ぶへっ!…は、鼻が…』
だがやはり奴らの鬼道は凄まじく、治療が終わったと言われて名前の様子を見に行けば、数十分前が嘘のように落ち着いていた。一緒にいた総悟も安堵の表情を浮かべ、涼なんかは泣きながら良かったと言っていた。総悟にうるせぇと殴られてはいたが。
そんな感じで一段落した後、歳三達から風間達について詳しく話を聞き、私の所為だと泣きながら謝り続け終いには私が看病をすると言い出した雪村を後から来た夜一がなんとか宥めて、漸く異世界組を離れに押し込むことが出来た。
それにしても、だ。
「…俺の、所為…だろうな…」
雪村じゃないが、あいつがあそこまで深手を負ったのはほぼ俺の、いや、俺と総悟という人間がいたからだろう。あいつら死神は霊圧を上げることで戦闘力が高くなるが、その霊圧は人間には耐えられない。しかもあいつらの場合、尸魂界にある最強軍隊の隊長副隊長レベルだから下手したら俺らは塵となって死ぬ。
だから、名前は本気では戦えない。
風間が言ってたように俺らは死神レベルの敵が来た時、名前にとっては単なるデカイ足枷にしかならない。なんと情けない現実だろうか。分かり切っていることとは言え、再び向き合って考えると自分の無力さに苛立ちさえ覚える。
「何を今更。貴方が足で纏いなど百も承知。それを前提に私は常に貴方を護り、戦っているのですよ」
「いや、だけどな。俺だって真選組副長として……って、オイ。お前何で普通にいんの?」
そうやって自責の念にかられながら一人自分の部屋で煙草をふかしていると不意に聞こえた声。いつも24時間聞いている所為か普通に受け答えしてしまったが、良く考えりゃおかしい。その声の主は数時間前まで死にそうだった奴だからだ。
「おはようございます、副長」
「おはようじゃねぇだろ、バカ」
「そうですね。今は午前二時ですから、まだこんばんはですかね」
「そう言うことじゃねぇよ。誰が布団から出ていいっつったんだ」
いつ入って来たのか、部屋の隅で正座をして普通に話しかけてきた四楓院。にっこりと笑ってるそいつの様子に思わず溜息を吐いて近づくと、自分の羽織っていた羽織を四楓院の肩にかけた。
「今夜はまだ寒いのですから、お風邪を召されますよ」
「馬鹿か。お前の方がひきそうだよ」
青い顔しやがって。そう言えば、いつもなら軽口の一つや二つが返って来るのだが今日はただ微笑みが返ってきただけ。それだけ本調子ではないことを示しているのだが、態々こんな中、こいつが俺の前に現れたのは理由が必ずあるからだろう。そう思って四楓院の隣に座れば、副長、と短く呼ばれた。
「なんだ」
「雪村千鶴は鬼、ですね」
「…根拠は」
「風間千景と同じ霊圧です」
「天霧、不知火は」
「同じですが…霊圧の純度、と言いますか。それが風間千景、雪村千鶴よりも低いです」
俺には全く分からないがこいつが言うんだから間違いはない。それで雪村を風間が拉致ろうとした理由は分かったが、逆になんで新選組に雪村がいるのかが分からなくなった。それに雪村が鬼だと言うのを何故、新選組は知らないのだろうか。なんか。歳三達にどんどん不信感が募るのは気のせいだろうだろうか。
「副長。貴方が今何をお考えになっているのかは察しがつきますが、私が貴方に言いたかったのはそれではないのです」
だったら何でその話をした。と出掛かった言葉を直前で飲み込んだ。こいつの話で無駄だったモノは過去に一度としてない。些細なことに思えて実は必ず繋がりがあるのだ。そして今も、これから話す内容を分かり易くするために話したのだろう。
「歳三さん達の来訪で大分混乱しておりますが、そもそも私達が追っている今の事件がありますよね?」
「ああ、万事屋擬きのヤツだろ」
「はい。その一件で私は現場に残された霊圧を毎回調べていたのですが、見たこともないモノでしたので正直困り果てておりました」
そう言われれば、遺体の近くに座り込んで首を傾げている様子を見たことがある。そん時は犯人の目的が分からないとでも思ってんだろと勝手な解釈をつけていたがそうではなかったようだ。
「元々この世界の生物とは少し異質だと思っていたのですが、喜助が掴んでいた噂話からある仮説は立てていたんです」
「噂話?」
「はい。浪士達の偶然の産物によって異世界を渡れる程の膨大なエネルギー製造装置が作られてしまった、と言うモノです」
「…異世界を、渡れる…だと?」
と呟いて見たものの、昨日四楓院が言ってたことを思い出して動きが止まった。
『…それは何らかの莫大な力が働いて歪められた世界の境界に、足を踏み入れてしまった結果なんでしょうね』
何らかの莫大な力。あの時はなんの違和感もなく聞いていたが、今思えば異世界を渡るにはそれが必要だと言うのを前提にしている言葉だった。
「…上手く、交わしやがったな」
「ええ、その節は。あの時は兎に角彼らが異世界から来たと言うのをあなたに納得させるのが第一でしたからね。万一突っ込まれたらと思って内心冷や冷やしておりました」
そうだ。あの時は、平行世界とやらの存在が衝撃的過ぎて他の細かい話まで頭を使うことが出来なかった。まんまと乗せられたことに舌打ちをすれば、過ぎたことでしょうと四楓院は笑った。
「で。お話を戻しましょうか」
「仮説のか?」
「はい。異世界を渡れるこの現状、異質な生物、四百年以上発見されていない霊圧。この三点を踏まえると、ある一つのことが浮かんで来る。
……副長。貴方ならもうお分かりなのではないですか」
「…万事屋擬きは異世界の、ってか?」
「ご名答。…そして、今夜。私はある一つの霊圧に会い、それが雪村千鶴と一致し、尚且つ純度が異なる場合があるとも分かった」
思った通り、ここで漸く話が最初の話題と繋がった。が、コレは下手をすればとんでもない事実なのではないか。
「…鬼、か?」
「でしょうね。ですが純度は驚く程低い。もしかしたら元は異なるのかもしれない。けれども、酷く類似しているのは間違いないでしょう」
数週間前からかぶき町界隈を徘徊し、多大な被害をもたらしていたのは俺らの世界の生き物ではなかった。
そう。異世界の、しかも死神と同等の戦闘力を持つ、更に歳三達と同じ世界から来た鬼擬きだったのだ。
ー結び付き始めた事実ー
(ていうかもう寝ろ)
(はーい)
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