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ヒトならざるモノの闘い。




『…我らを陥れたのは貴様か』


喜助が電話に出るのを待って2コール目、偶々台所帰りの千鶴と会った。その彼女の両手には大皿が一枚ずつ乗っていて、見るからに運ぶのが大変そうで。一体どうやって乗せて来たんだと苦笑しつつ電話を切ると、千鶴へと声を掛けた。わぁ!名前さん!?なんて驚いたような声を上げた千鶴に再び笑うと、片方のおにぎりが乗っている方を持ってやり、一緒に再び大広間へと向かっていた。
そんな時。
ふと、中庭から見知らぬ霊圧を覚えた。奇しくもその中庭は昨日異世界新選組が降り立った中庭で、なんだか嫌な予感がして立ち止まった。どうしたんですか?千鶴にそう聞かれたが、返事はせずにおにぎりの皿を渡して千鶴に近くの部屋に入るように言って、斬魄刀の柄に手を掛ける。


『…誰だ』


千鶴が大皿と共に部屋へ入ったのを確認した直後、中庭へと降りてて低い声で呼び掛ければ、不意に音もなく男が現れた。正直に言おう。

かなり驚いた。

霊圧も人間に毛の生えたようなものだったし、魂葬待ちのプラスかと思ってたぐらいだから尚更だった。そしてその一瞬の隙を突かれた。男が腰の刀に手を伸ばしたのを見て僅かに遅れて刀に手を伸ばしたのだが、遅かった。抜いたはいいが、男の有り得ない程の力で私の刀は吹っ飛び、同時に右腹下から左鎖骨に掛けてバッサリと斬られた。ちなみに男が刀を抜く前に言ったのが冒頭の台詞だ。


『名前さん!!』

『っ…く、来るな!千鶴!』


最早怪我は避けられないので、取り敢えず出来るだけ軽減させようと、ありったけの速さで後ろへ飛び退き、廊下へと着地した。と、そこは千鶴を入れた部屋の前でもあったので、障子を閉めずに一部始終を見ていた彼女は私の怪我の状況を見て、悲鳴にも似た声を上げた。まぁ、片立ち膝で着地したその場所に直ぐ、血溜まりが出来てしまったので叫ぶのもしょうがないかと思う。


『下がってなさい。私は大丈夫だから』

『そんなこと出来るはずありません!!それにこれの何処が大丈夫なんですか!?』


私の制止も聞かず、すっ飛んで来た千鶴に内心参ったなと呟いた。
怪我自体は大したこともないのでこの子を抱えて攻撃を避けることなど造作もないことだが、相手が悪い。恐らくこの男。戦闘力はうちら死神が始解をした状態と同じと言っても過言ではないのだ。先程カスのようだと思っていた霊圧は、どうやら抑えていただけのようで、席官レベルなど遥かに超えた副隊長に届くか否か。加えて、驚きの速さ。万全ではない状態で、片腕に千鶴を抱えて闘うのには些か不安が大きい。


『…雪村千鶴』


なんて思っていたら不意に聞こえた低く、何処か威圧感のある声。
ついさっき斬られた際に耳に入った声と同じだったので、その男の声だと直ぐに分かったのだが、思わず眉を潜めてしまった。

コイツ、今千鶴の名前呼ばなかったか?

私はさっきから千鶴の名前だけを呼んでいる。名字は一度たりとも口にしていない。なのにフルネームで呼んでいた。なんだエスパーか。そんな下らないことを思っていたのだが、千鶴の口から零れた言葉にそれは払拭された。


『か、風間さん…』


知り合い、か。だがそれにしては随分物騒な知り合いである。眉を潜めたままに風間と呼ばれた男の顔を見ていると、不意に男の目線がこちらに移った。


『俺の攻撃を避けたその技量、大したものだ』

『避けられてはないがな。一応、どうも』

『だがその怪我ではよもや、刀なしには戦えまい。…貴様、死にたくなくば其処を退け』

『随分な物言いだな、と返したいが…お前の言葉の意図が掴めんな。私が退けば其処に残るのは、この子だけだが?』

『だから退け、と言っている。俺は貴様に用はない。あるのは千鶴だけだ』

『…そうか。ならば、退く訳にはいくまい』

『強がりも大概にしろ。貴様のように相当な使い手であっても我等"鬼"に敵う者はこの世にはいまい』


鬼?
耳慣れぬ単語に自分の口がそう動いたのが分かった。確かにこの人間離れした霊圧は天人の類だとしても不思議はない。だが、今奴ー風間の口から出たのは鬼、という単語だけ。族だ、と他の星の住人を指しているのでも、民族だ、と地球上の他民族のことを指しているのでもなかった。ただ、彼は我"等"と言っていたのである程度の集団であることは伺える。


『…鬼を知らぬのか?』

『知らないな。出来ればお教え願いたいのだが』

『…そんなもの、俺に聞かずとも知っている者がいる』

『…誰だ?』

『貴様の後ろにいるだろう。まさかその腕で、俺と千鶴の気配が同じであることに気付いていない、とでも言うのか?』


私の浴衣の左腕辺りに添えられていた千鶴の左手がぎゅっと結ばれた。この時、彼女が何を思っていたのか。見なくとも、結ばれた手から伝わる彼女の震えで容易に分かった。それを見て風間が薄く笑っていた。千鶴に聞きたいことは確かにあった。だが、今聞かねばならないということはない。風間を捕らえてからでいい。私は震える千鶴の手に上から自分の手を添えると、取り敢えず落ち着かせる為に彼女へ話しかけようと口を開いた。いや、開こうとした。


『…何だ、貴様ら』


予想外に早めに聞こえた焦ったような二つの足音と良く知る薄い霊圧二つ。
副長と総悟だ。
それに気付いて私の口が思わず止まったのとほぼ同時に、風間がそう言った直後。

彼の姿が消えていた。




…「、っ…まだ私との話が終わってないだろ」

「…ほう。これに追い付くか」


消えた風間の行き先は明白だった。千鶴を一人にしておく訳にもいかなかったので、彼女を抱えると、風間と二人の間に瞬歩で滑り込んだ。飛ばされた斬魄刀をとってくる暇はなかったので、千鶴の小太刀を拝借し、着いたと同時に後ろの総悟へ千鶴を放ると、恐らく二人の首を落とすが為に抜かれた風間の刀を防いだ。
と、いうところで今に至る。
つまり、風間との鍔迫り合いの最中に私の回想シーンを入れた訳だが、決して余裕があるからではないということを分かって欲しい。
むしろ余裕なんかない。私は両手、風間は片手。一体どこぞの隠密機動のトップか、と思う程に馬鹿に力が強い。


「…仕方ない、か」

「何?」


得体の知れない奴に自分を曝け出すような攻撃はしたくなかったのだが、後ろに三人も背負っているとなると話は別だ。斬魄刀に頼れない今、攻撃は白打と鬼道のみ。その後者に頼ることにした私は、刀に添えられていた右の人差し指を風間に向けると、一気にそこへ霊圧を集めた。


「…何を」

「【破道の四 白雷】」


流石とも言えるのか。心臓を狙った白雷は、直前に危機を感じとって思い切り後ろへ下がった風間には当たらなかった。彼の顔を見れば今の攻撃が理解出来ないと言った様子で、眉を潜めてこちらを睨んでいる。が、急に風間の体が傾いた。


「…し、四楓院!」

「っと、すいません」


あいつって、案外軟弱な奴なのか?なんて思ったのだが実は逆で。傾いたのは私の体だったらしい。風間の速さに呆然とし、暫し動きの止まっていた副長だったが、なんとか我に返り私の体を慌てて支えてくれたようで中庭への転落は避けられた。深くはなくとも広範囲で斬られているし、思えば結構出血も多い。貧血は当然か。


「お前、やっぱその怪我じゃ…」

「副長。奴の狙いは雪村千鶴です」

「そんなこと言ってる場合じゃ…って、それどういう、」

「意味か、は少し考えればお分かりになってるでしょう。兎に角、千鶴を死守でお願いします。

…総悟」

「分かってらァ」


流石に長い付き合いだけある。
私の意図したことが分かったようで、未だに私の肩を掴んでいる副長に千鶴を押し付けると刀を抜いた。


「攻撃、防御などは全て総悟に任せて副長は千鶴から手を離さないで下さい。それと、ご自分の目だけを頼りになさらないように」

「気配で追えってか?」

「そうです。とても貴方がたの目じゃ追い切れません。総悟も」

「んー。てか俺は土方のついでか」


そんなんじゃないよ。そう言って後ろ手に総悟の頭をくしゃっとすると、やや不満気な声を上げた。その彼に小さく笑いながらその場から消え、風間の前に降り立つ。あれだけの間があったのに一つの攻撃も仕掛けて来なかった。それだけの余裕がある、と言われているようで少しばかり腹が立つが、今はこの余裕に感謝しなきゃならない。副長達への注意もそうだったが、"私も"時間が必要だったから。そう思いながら千鶴の小太刀を左手に握り直していると、風間の口が動いた。


「…貴様に一つ聞きたいことがある」

「どうぞ?うちらの作戦会議を黙って見ててくれたんだ。なんでも答えましょ」

「貴様…人間ではないな」


最早確認としか取れない風間の断定的な口調に不思議と口角が上がった。


「ご名答」

「人間でもなく、鬼でもない。ならば何か…と、気になることではあるが少しお喋りが過ぎたな」

「そうだな」

「……手加減はせぬぞ。その顔に傷がつくのを避けたくば、まだ聞いてやらぬこともない。

…どうする、"女"」

「今更女扱いか?生憎お前に傷つけられる程、鈍間になった覚えはない。…舐めるな」


そうして黙ること約五秒。

雲に隠れていた満月がお互いの顔を照らした時には既に、その場から二人の姿は消えていた。












ーヒトならざモノの戦い。ー

(人間の目で追うのは不可能)
(軽い結界を張って来て良かった)

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