×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
title<!--←ここはお気に入り登録される時などの名前になります-->
死神?




「では、新しい仲間と本日の大量検挙を祝って!」


その日の夜。真選組屯所内の大広間は百人近い隊士達の賑やかな声で溢れていた。宴会の口実は冒頭の近藤のセリフからも分かるように、異世界組の歓迎会だ。加えて、昼間に浪士一派のグループを一つ検挙出来たこともあって、やるべきだと言う結論に至ったらしい。まぁ、誰のとは言わないが。


「………」

「どうしたんで?そっちの土方さん」


そして当然、今回の主役でもある異世界新選組もいるワケで。当初の案としては今朝の定例会のように上座に揃って並べてしまおうかと言っていたのだがこの宴会はそもそも真選組との親睦を深めるもの。それでは他の隊士達が話し辛いと言うことで、それぞれの隊にバラけさせたのだ。案の定それは成功らしく、異世界組が入っていない隊の隊士たちも上手く打ち解けられているようだ。
そんな中。
俺ァいい、とカッコつけた歳三は上座に一番近い位置に座る総悟の隣に座り、手に持つグラスの中身を凝視していた。それを見て総悟が話しかけたのが上の会話だ。ちなみに名前は上座に座る十四郎の近くで襖に背を預けて座り、ウィスキーの入ったグラスを静かに傾けている。同時に何やら難しい表情で資料の束を見つめていたのだが、総悟の声でふと顔を上げ、そちらに目をやった。


「…総悟」

「なんですか?」

「なんだ、これは?」


そう言って前に突き出されたのは、先程から歳三に凝視されていたガラスのコップ。それを見て一瞬訳が分からないと言う顔をした総悟だったが、直ぐに納得したらしくこれはと言って話し始めた。


「ビールでさァ。そっちにはなかったんですか?」

「なかった。酒と言えば無色透明の、まぁ見た目が水と同じものだけだ。びいる?みてえな琥珀色の酒は見たことがねェ」

「へぇ…ていうか、その透明の酒ならありやすよ。日本酒と言う名ですがね」

「…本当か?」

「えぇ、何なら持ってこさせやしょう。…オーイ、島崎。ちょっと来い」


誰だソイツは。無言のツッコミを入れた名前に対し、答えてくれたのはその島崎だった。


「山崎だァァアア!」

「オ、いたか長崎。悪ィが女中に言って日本酒用意して来てくれィ」

「あ、はい。分かりました…って、長崎って誰?!」

「お前のことでィ。山崎が二人いてややこしいだろ。だからだ」


どんな理屈だ。何年経っても変わらない総悟の無茶苦茶な思考回路に思わず吹き出す名前。それに十四郎が同意をするように顔を顰めた。


「哀れだな」

「何を仰いますか。貴方の普段の退の扱いと差して変わりはありませんよ」

「いや。俺は名前を故意に変えたりはしねぇ」

「殴る蹴るなどの暴行に比べたら総悟の弄りは戯れ程度にしか見えませんが」

「…なんだ。今日はやたら厳しいじゃねェか。浦原と喧嘩でもしたか」


そう言ってニヤリと悪戯っぽく笑った十四郎に今度は名前が顰めっ面をした。


「…なんで浦原隊長が出てくるんですか」

「ホラ。お前が野郎のことをそう呼ぶ時は大抵喧嘩って相場は張ってんだよ」

「………」

「図星で逃げるたァ相当だな。部屋戻んのか?」


十四郎の問いに無視を決め込み立ち上がった名前。本当に図星かは分からないが、不機嫌そうな顔を見れば多少は当たっているのかもしれない。


「違います。電話です」

「平子に愚痴か?」

「喜助に、です。それと、勘違いなさってるようですからはっきりと言っておきますが、私は喜助と喧嘩などしておりません。ただの意見の相違です」


ぴしゃり、という音が聞こえて来そうな程きっぱりと言い切った名前は、呉々も飲み過ぎないようにと言葉を残して広間を出て行った。


「…それを喧嘩って言うんだよ。バカか、アイツは。…って、どうかしたか?歳三」


その場に残された十四郎が呆れたようにそう呟いて視線を広間の方へと戻すと、何故か歳三がジッと此方を見ていて、自然と十四郎の眉根が寄った。それを誤魔化すかのように振ったのが最後の一言だ。幸い歳三も何か考えていたようで、何に触れることもなく十四郎の目を真っ直ぐ見た。


「…一つ、聞きてェことがあるんだが」

「……なんだ?」

「お前の補佐官についてだ」


様子から真面目な話でありそうなことは何となく予想していた十四郎。歳三の言葉を聞いて少し経ってから手元のお猪口に向けていた視線を異世界の土方に向けると、困惑とも面倒とも取れる溜息を吐いた。


「質問が漠然とし過ぎちゃいねぇか?」

「…ということは、俺が何を言いたいのか分かってるんだな?」

「まぁ、アイツは未だに謎だからな。気持ちは分からねぇ訳じゃねぇ。大方あのスピードについてだろ?」

「…すぴ、井戸?」

「悪い。速さ、だ。アイツの移動速さが異常だってんだろ?」

「異常、で済むモンでもねぇだろ」


昼間、携帯で名前を呼び出した時、彼女は歳三といた。まぁ、十四郎自身が許可を下ろしたのだし、取り立てて責める所はない。
だが、其処から現場への"行き方"が良くなかった。歳三の言葉からも分かるように、瞬歩で来たのだ。


『お、おま…なんで、』

『説明は後。わざわざ携帯使て呼び出したんは、時間がないからでしょう?』

『そう、だが…だとしても問題がありまくりだろ』

『まぁ、…』

『まぁ?』

『この物取りで忘れて下さることを期待するしかあらへんなぁ』


んな都合のいいことがあるかァア!!と言う十四郎の盛大なるツッコミは虚しくも名前の突入という声に掻き消されてしまったが、兎に角歳三は忘れてくれなかったらしい。当然と言えばそうなのだが、厄介なことには変わりない。大体説明をするとして、彼女の何から説明すればいいのか。…十四郎が溜息を吐いたのも納得できる。


「十四郎」

「なんだ」

「俺ァ、周りくどいのは好きじゃねェ。だからはっきり言わせて貰うが、」

「…名前は人間か、か?」


彼の言葉を引き継ぐように十四郎がそう言えば、広間の喧騒が水を打ったかのように、一気に静かになった。ある者は箸を、またある者は徳利を。それぞれ持ちながら緊迫感漂う二人を凝視している。そして、嫌に長く感じたほんの数秒の後。十四郎はゆっくりと口を開いた。

が。


「名前さん!!」

「来るな!千鶴!!」


突然響き渡った千鶴の声とそれに続く名前の声。それに、その先は遮られて十四郎の言葉は止まった。ちなみに千鶴は厨房で女中のおばさん達の手伝いをしてる為、今この場にはいない。大方、その千鶴が追加の酒か何かを運びに行く途中に名前とあったのだろう。と、これで二人が近くにいる理由は分かる。だが。加えて今さっき聞こえて来たのは、余程のことがない限り滅多に焦らない副長護衛の焦った声だった。ということは。

彼女は相当まずい状況にある。

突然のことに動きが止まったのも束の間。一秒ともかからずその考えに辿り着いた十四郎と総悟が、刀をひっ掴んで広間を飛び出し、声の方へと足を走らせた。

そして、漸く千鶴達のいる廊下に着いて二人は愕然とする。

中庭を睨むように、だが片膝を着いたその足元に小さな血溜まりをつくっている名前。息の乱れがないのは流石と言えるが、袈裟懸けに斬られた傷からは軽症とは言えない程の出血が見られる。
千鶴は名前の制止を聞かなかったのだろう。その後ろに心配そうに寄り沿っている。

だが、そこにいたのは二人だけではなかった。


「…なんだ貴様ら」


名前の視線の先にいた男。
十四郎がそいつに気付き、また、そいつが十四郎達に気付いてそう言った時には既に、男の顔が彼ら二人の目の前に迫っていた。






















ー…死神、?ー

(常識外れなその瞬間移動に)
(俺らの頭を過ったのは)
(そんな呑気な考えだった)

prev | next


▼list
▽main
▼Top