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敵か味方か。




『明日、あちらの副長さんを連れ出せますか?』

十四郎が名前の部屋を訪れる少し前、彼女の携帯を鳴らした喜助の口から出たのはそんな一言だった。名前の耳には真選組用とは違う少し特殊な無線がぶら下がっている。見た目はピアスにしか見えないが、霊圧を込めることによって相手へと繋がる無線だ。勿論喜助の手作りである。尸魂界から逃れて来た事情が事情なだけに、万が一何か問題が生じた際、即座に指示を仰げるようにするためだ。しかし、この無線。実際この目的で使われることは殆どない。というより、寧ろ目的が変わって来ていると言った方が正しいだろう。


『時刻零三二四、接続開始。音量を最大に。拾える音は全部拾って下さい』

{了解っス。指示は?}

『気になったらその都度。真子達にも意見聞いて』

{分かりました。お気を付けて}


と、総司を軽く蹴り飛ばした直後の銀時と十四郎のくだらない口喧嘩の間に行われていたこの会話のように、基本は真選組の厄介事を知らせる為に使うのが殆どだ。
そして、その無線と彼女の見解から出された彼の予想を一種の提案のようにして名前に伝え、後は自分で動くというやり方が暗黙の了解になっていた。だが、今回は少々勝手が異なっていた。


『出来ないことはないけど…』

『けど…なんスか?』

『銀時と会わせるつもりなの?』

『"確信を持った疑問は確認にしかならない"んでしょう?』

『…銀時に話したのか』

『ハイ。だってある意味渦中の人物でしょうに』

『そうだけど、銀時は…』

『名前さん』

『……分かりました』


喜助が些か強引、いや、かなり強引だったのだ。それだけ今回の異次元移動が大事なのだと察することは難しくないが、感覚的にしっくり来ない。しかしそんなふうに内心首を捻りながら来た名前だったが、万事屋の玄関での一騒動後、居間で喜助の予想を聞き、彼女の蟠りは見事解消された。


「…吸血鬼もどきが異世界からの…だって?」

「はい。しかも、」

「馬鹿な浪士共の偶然の産物、で?」

「あ、小太郎さんもおんなじコト言ってました」


そう言って扇子を広げてアハハと笑った喜助に名前は湯呑を投げ付けた。そもそも名前は吸血鬼騒ぎに違和感を感じていない訳ではなかった。と言ってもその違和感は殺され方があまりにも残酷すぎるからとか今迄類を見ない事件だからとかではない。翌朝発見された遺体の残留霊圧を見て、だ。人間だとは言っても魂魄を持っているのであれば多少の霊圧はある。普段彼女は、殺人からひったくりまで現場に残されたソレを頼りに捜査をしているので、今回も当然遺体と現場のを調べていた。しかしその霊圧が極めて奇妙で。人間でも虚でも死神でもない、一度も感じたことのない霊圧だったのだ。その上、微かに人間の霊圧も残っているものだから更に混乱を極めた。だがそこで今の喜助の推測だ。異世界からと言うのなら十分納得ができるし、謎の霊圧の説明もつく。後は吸血鬼もどきをどう対処するか、だけだ。まぁ言い換えれば真選組に、名前にかかっていると言って良いだろう。でも、万一対処仕切れなかった時にはその異世界に訪問しなければならなくなるかもしれない。


「……行ったとして帰って来れるのか?」

「なんスかいきなり」


そうやって一通り考えを巡らせていた名前。後々起こり得るであろう可能性に頭を抱えると喜助が怪訝そうな顔でそう尋ねる。それに何でもないと手を振ると、彼女は隣に座る歳三へと顔を向けた。ちなみに万事屋の居間にいるのは銀時喜助歳三名前の四人。居間のテーブルを挟んで喜助銀時、向かいに歳三名前の位置だ。


「今の話、歳三さんはどう思われますか?」

「………」

「…歳三さん?」

「あ、あぁ…なんだ?」


すぐ近くからの声にやたら反応の遅かった歳三。しかも内容も聞いてなかったようで、我に返っても聞き返す始末だ。そんな彼に名前は少し驚いたような顔をしながらも同じことを尋ねると、歳三は一度詫びを入れてから答えた。


「なんとも言えねェな。俺らが既に異世界からの訪問者ってやつなのに、またその白髪の奴らが別の世界からとか言われても判断しかねる」

「…ですよねェ」


名前がそう呟いて何か考える仕草をしたのも束の間、突然部屋に機械音が鳴り響いた。


「どうかなさいましたか、副長。…って違いますよ、歳三さんじゃありません」


携帯の着信音だったのだが、歳三にとっては人生初の音であり、飛び上がらんばかりに驚く様子に名前は苦笑しながら電話を取った。しかし、その顔も次第に険しくなり話の内容が良いことではないことは明白で。最後に、直ぐに向かいますと口早に言って電話を切った時には既に斬魄刀を掴んで立ち上がっていた。


「何かあったんスか?」

「三番街の呉服屋が完全なるクロ。一番隊に出動要請が掛かった」

「一番隊、っスか?」

「前々から目を付けてた過激派の一派だからね。一般人を巻き込んだテロで三人も犠牲になってるし」


話の続きはまた今度ね。そう言って未だ少し驚いた表情をしている歳三の腕を掴むと、瞬き程の間に二人の姿は消えた。


「…オイ」

「なんスか?」


あっと言う間に名前達が消えた後、静まり返った万事屋内。その空気の流れを止めるかのように口を開いたのは銀時だ。喜助が話し始めてから一言も言葉を発していなかったので、約二十分ぶりの発言となる。だがその口調は酷く重い。


「いいのか?」

「いいんじゃないっスか?一時的とは言え、一緒に仕事をする上では死神だと話さざるを得ないでしょうし。瞬歩の一つや二つどうってこと、」

「違ェよ。俺が言いてェのは、"本当のこと"を言わなくて良かったのか、だ」


はぐらかすんじゃねぇ。銀時が左上の糖分と書かれた額縁を睨み付けながらそう言えば、喜助はバレちゃいましたかと笑った。


「笑い事じゃねェだろ。ていうかバレちゃわないわけねェだろ。昨日あんだけ説明されて今の話の違和感に気付かないと思ってんのか?ふざけんじゃねぇよ」

「そんな怒らないで下さいよ〜悪気があってやったわけじゃないんですし」


広げた扇子の後ろに顔を埋めながらボソボソと呟く喜助の顔面に銀時の裏拳が炸裂した。


「じゃあ何の為だよ」

「は、鼻が…」

「あ?」

「か、確認のためっスよ」


不意打ちにも等しい銀時の攻撃に涙目で痛みを訴えようとした喜助だったが、彼の態度を見て慌てて答えた。もう一度やられたら顔から鼻がなくなりそうだなどと思ったのかもしれない。


「確認?」

「ハイ。吸血鬼もどきが彼の世界でどういう存在であるか、のね」


そう言う喜助の言葉に先程の巫山戯た様子は一切ない。銀時の顔を思わずたじろぐような目線で見ている。


「…図ったのか」

「馬鹿正直に話しても本当のことを言ってくれる保証はなかったっスからねェ」


二人の言う本当のこと、とは歳三達と吸血鬼もどきが同じ世界から来たと言う喜助と夜一の推測だ。
昨日銀時と新八にはあっさりと話したのに今日は敢えて歳三には話さなかった。確認の為、とさらっと言うが歳三は既に喜助の手の中も同然だ。しかも本人には知られていない。改めて喜助の恐ろしさを目の当たりにした銀時は、やっぱり敵には回したくないなと密かに思う。


「だったら裏拳はヨシて下さいよ〜」

「オイコラ。なに人の考えまで読めてんだ。そんな設定ないだろ」

「だって声に出てましたもん」

「神様喜助様、御茶のお代わりは?」


相変わらずの銀時の変わり身の早さに喜助はそのネタ引っ張りますねぇと笑った。


「で?分かったのか?どのような存在かってのは」

「そうっスねぇ…銀時さんはどう思われましたか?」

「俺?」

「はい。昨日の話を踏まえて、先程の歳三さんの反応とそうしなければならない理由を」


質問を質問で返されると思っていなかったのか、いきなり話を振られて少し驚いた表情をした銀時。
だが彼にも思うところがあったらしく直ぐにやる気のない目に戻って話始めた。


「俺らに、というより真選組に知られるとマズイから、だろ?あんなのが向こうの新選組と関わりがあったなんて知られた暁にゃ、下手したら牢獄行きにもなりかねねェ。偶然コッチの世界に来たのもイマイチ信憑性に欠けるからな。そうなると自分達の世界に帰るのも遅くなる」

「まぁそんなトコでしょうね。で、それを頭に置いといて最初の質問に戻りますよ?」


最初の質問とは、吸血鬼もどきの世界に於いての位置付けだ。
話が知らぬ間に喜助のペースになっていることは最早日常茶飯事なので、文句を言うこともなく銀時は頷く。


「一般人には知られていないレベル、か?」

「いえ。もっと上を行くかと」

「…新選組内部も限られた奴らしか知らない、…となると一般人には知られては"ならない"レベル」

「そうっス。そして、万一知られてしまった場合には最悪ー、」


喜助はそこで一旦言葉を切ると、帽子の鍔から目の前の襖を睨むように見て続けた。


「抹殺されるレベルか、と」















ー敵か味方かー

(ていうか名前には話さなくて良いのかよ。アイツが一番危ねェんじゃ…)
(その心配は無用っスよ。彼女の耳には無線がありますから。今さっきのアタシらの話は筒抜けっス)
(あぁ、プライバシー侵害無線な)
(銀時さん)
(なんだよ)
(今回、ある意味アナタは切り札になります。が、呉々も気を付けて下さい)
(んだよ。気持ち悪ィな。お前が心配する…)
(マヌケを晒さないように)
(………)
(………)
(きっすけくんンンンン!?君最近俺にキツくねェエ!?俺なんかした!?なんかしたっけェェエ!?)

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