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勝手にしろ。




案外、ウチの隊長達の受け入れは早かった。事前に退から軽く説明を受けていたこともあってだろうが、やはり天人のワケ分からない技術によるものと割り切れる部分が大きいのだろう。寧ろ、酷似した名前のいる隊長達など早く会いたいと興味津々の様子で、変に興奮していて修学旅行にやたらテンション上がる面倒な中学生男子と化していた。
そうだ。
面倒と言えばもう一つ。新選組の食事だ。別段彼らの好き嫌いとか、食文化だとかそういうのを指している訳ではない。そりゃあ確かに食文化は違った。洋食など知らないし、ハンバーグをあんな嫌そうな目で見ている人達を初めて見た。きっとハンバーグだってそんな人達に巡り合ったのは初めてだったろうに。話がそれた。その面倒ごとについてだが、彼らの“食べ物争奪戦”に辟易したのだ。自分の分は充分あるはずなのに何故か隣の皿に手が伸びる。流石に隊士全員へ紹介もしていないのに一緒に食堂はマズいだろうということで離れで食べて貰ったのだが、正解だったようだ。あの一さんまで参加していることには驚いたが、歳三さんの一喝で争奪戦は幕を閉じた。
その騒がしい夕食の後。
部屋割は明日決めるからと取り敢えず私専用離れを寝床として提供した。離れ一つを貸したと言えば聞こえはいいが、纏めて一つにした方が見張り易いからという理由が大きい。そして、きっと歳三さん辺りはそれに気付いている。私は未だに信用しきっていないということと共に。まぁそんな感じでお互い腹に一物を抱えたまま、新選組におやすみなさいと挨拶をして漸く私は自室へと戻って来た。ちなみに総司さんは結核の本格的な治療へと入る為、医療班班長の監視の下、第二医務室に隔離された。緒方先生によると、三日間ぐらいで快方に向かうらしい。医療技術の進歩とは凄いものだ。


「……四楓院。いるか?」


と、数時間前を振り返りながら書類に目を通していると不意に、隣の部屋から声をかけられた。四楓院という名字は馴染み辛いのか、私は大抵名前で呼ばれる。見廻り組の局長さんや信女でさえ私を名前で呼ぶぐらいだから相当なものだと思う。はい、と返事をしながら副長の部屋と繋がる襖を開くと黒い着流しが目に入った。


「…仕事、してたのか?」

「いえ。やっていないも同然ですよ」


考え事してましたから。そう言って微笑むと、副長の目がすっと細くなった。軽い音を立てて襖を閉めると、正座をしている私の前に胡座をかいて座る副長。その片手には銚子が一本と御猪口が二つ乗っている小さいお盆があって、思わず彼の目を見つめてしまった。


「…なんだよ」

「夜、部屋に男を招いてお酒を呑んでたら…お叱りになった方はどなたでしたっけ?」

「うるせェな。一本だけだ。ちょっと付き合え」


ムスっとしながら銚子に伸びた副長の手をやんわりと遮る。代わりに持ち上げてお注ぎ致しますよと言うと、彼は軽く微笑んで御猪口を手に取った。


「…で。どうなんだ?」


お互い一口飲み、部屋にあった小さな金平糖を摘んでいると何の前触れもなく向けられた言葉。金平糖に向けていた視線を目の前の人間に戻すと、その鋭い目が私の目を捉えていた。


「…どちらからお聞きになりたいですか?」

「より確証を得られた方」

「七割ぐらいですが」

「…構わねェ」

「なら結論から申しましょう。あの子は、雪村千鶴は、」


人間ではない。
その言葉と同時に一気に眉を潜める副長。人間ではないと言った時点で考えられるのは天人か。或いは死神か。私と会った時よりも若干広がった選択肢に考えを巡らせる副長に、素直に考えて貰って結構ですよと言えば、天人かと確信めいた言葉が返ってきた。


「そうですね。本来ならばそれに“はい”とお返事を差し上げたいのですが…」

「奴らは異世界の人間、ってか?」

「しかも。開国が天人によるものではなかった世界の、です」

「……天人が奴らの世界へ行って再び戻って来るっていう線は?」

「考えにくいですね。文明が此処より劣る世界に敢えて行く理由が見当たらない。ただ、彼女は人間ではないのは確か。残り三割の不確か部分は、“人間以外の何なのか”という話です」


異世界新選組と数時間一緒にいて覚えた二つの違和感。気付かれないように考えていたつもりだったのだが、副長も伊達に私と七年近く一緒にいる訳ではないようだ。ふとした瞬間にバレたらしい。しかも、いくつ考えていたかも。まぁ、バレても問題はないので千鶴≠人間の方は話したが…もう一つの方は正直微妙だ。どちらがいいかと聞いてしまった手前話さざるを得ないと分かってはいるが、確信が五割を超えないことを話すのはあまり気が進まない。そんなことを考えながら、自分の御猪口を置いて銚子を副長の御猪口に傾けようとすると、不意にそれを止められた。


「…雪村千鶴の採血をしなかった理由をお聞きになりたいのですか?」

「血管の通りが人間と同じかどうか分からなかったから、とか言いたいんじゃねェのか?」

「あら、流石です。神楽も微妙に違いますからね…あれだけ人間に近いのに」

「流石とか思ってねェだろ、お前。…ていうか違ェよ。俺が言いたいのは、もう一つは話さなくていいってことだ」

「…え…?」


これは、驚いた。確信が殆ど持てなくても可能性がゼロではないなら話せ、と彼は常に私に言っていた。それだけに虚を突かれたような状況になってしまい、思わず副長の目を見つめたまま固まってしまった。そんな私を呆れたような目で見て副長は言う。


「なに予想外って顔してんだよ」

「いや、まさか貴方がそんなことを仰るとは思ってなかったので」

「仕事じゃねェんだ。んな無理にとは言わねェよ」

「へぇ…意外。十四郎のクセに。熱でもある?それとも頭おかしくなった?」

「なんで急にタメと呼び捨てだ」


冷静にツッコむ副長が何だかおかしくて、笑いが零れる。そんな私を見て若干拗ねたような顔をしながら無言で御猪口を差し出してきたので銚子を傾けると、ちょうど空になった。


「……なにしてんだ」

「一本だけ、というお約束でしたから」

「だからって呑み切る前に部屋から追い出そうってどういう…って、ちょ、マジやめろ!零れる!!」

「零したら拭けよ、自分で」

「理不尽ンンンン!?」


部屋の境界の襖に向かって背中をぐいぐい押せば、ふざけんなと言いながらも御猪口から目を離すことはない。どうやら本当に拭かされると思っているらしい彼にふっと笑うと、腕の押す力を緩めた。


「…副長」

「なんだよ。零してねェよ」

「明日、歳三さんと外に出てきてもよろしいでしょうか?」

「…デート、じゃねェな…理由は」

「それは御自分でお考えになって下さい」


後ろの私へしかめっ面で睨んできたが、にっこりと笑ってそれに返す。以前、これをやったら喜助にそっくりで不愉快だからやめろと言われた。失礼な。だが、こうなったら私に話す気は全くないと彼は分かっているはずだ。分かっているからこそ更に苛ついたようで。私から目を逸らしつつ、諦めたように舌打ちをしていた。
































―勝手にしろ―


(あら。では、見せかけて…歳三さんとデートに行ってきますね)
(いーや。絶対に認めません。あんなヤツ良いのは見た目だけなんです。付き合うならもっと真面目な男にしなさい)
(だって…勝手にしろって言ったのお母さんじゃん)
(またお母さんの揚げ足ばっかとって……そ、総悟お父さん。なんか言ってやって)
(土方二号を選ぶぐらいなら俺にしとけ、名前。つーかこっちは眠い中わざわざ見廻りの報告してきてやったってのに何やってんですかィ?アンタら)
((……ひ、昼ドラの再現))
(ふーん。ま、なんでもいいですが…取り敢えず土方、お前明日屯所の裏な)
(なんでだァア!?)
(名前が肌襦袢しか着てねェのに土方さんを部屋に呼ぶ訳ねェでしょう。…つまり…考え、考え抜くと………………土方さんを殺すしかねェ、と…)
(ソレ結局いつものてめェの思考回路ォォオ!!)

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