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それよりも。




「……え?…それ刺すの?僕に?」

「刺すだけじゃありません。採血…簡単に言えば血を抜くんです。万一輸血が必要となった時の為に、血液型を調べなくちゃいけませんし」

「なんだか言ってること良く分からないけど、君がふざけてるのは良く分かるよ名前ちゃん。僕がそんなもの黙って刺されると思ってる?しかも血を抜くって……斬るよ?」

「どうぞ?私はそれを止めながら採血出来る余裕はありますから。それより後四半刻もしないうちに緒方先生が来ちゃうんです。いい加減黙って刺されて下さい」


と、そのままお互いにっこりと黙ること約5秒。直後、ほぼ同時に刀の柄へと手が伸びた二人に、私闘は切腹だ!!と同時に怒鳴りつけたのは十四郎と歳三の土方両名だった。

“労咳は治る”。

その事実に歓喜したのも束の間。再び咳き込み始めた総司に、取り敢えず横になって下さいと名前が南野に敷かせた布団へ押し込むと、ちょうど十四郎が医療班を連れて到着した。その場で医療班の軽い診察と今まで総司の看病をしてきたという烝の話を聞いた後、即治療の必要があると判断。真選組の掛り付け医―緒方に採血だけでもしとけと電話で言われた名前が、医療班から渡された注射器を持って総司に迫った所で冒頭部分へと戻る。タブル土方に怒鳴られた総司は冗談に決まってるじゃないですか〜と薄く笑っている。


「ったく、たかが針の抜き差し一つにごたごた抜かしやがって」

「じゃあ試しに土方さんやって下さいよ。そしたら僕ちゃんとさいけつってやつ大人しく受けますから」

「なに言ってんだ。俺はやる必要がねェんだよ」


不満そうに口を尖らせる総司に対して歳三は腕を組みながらばっさりと言い切る。だがそんな歳三に名前は馬鹿言わないで下さいと呆れたような目線を送った。


「此処で隊士として働くのならば血液型は必要ですので、“全員”採血してもらいますよ」


その瞬間、皆一様に固まる異世界新選組。あれだけ総司へ強気に出ていた歳三は、瞬きもせずに名前の手にある注射器を凝視している。その反応がよっぽど面白かったのか、名前は忍び笑いを漏らしていた。


「ひ、じゃなかった…と、歳三さん」

「………なんだ」


そしてひとしきり笑った後に…というか十四郎にいい加減にしろと頭を小突かれた所で名前が話を振ると、歳三の不機嫌そうな声が返ってきた。だがしかし、そんな声とは裏腹に彼の耳は赤い。


「総司さんが大人しく採血をして下さるのには“大人である”貴方がお手本を見せる必要がありそうですね」

「………なんでそうなるんだ。手本なら手慣れてるテメェらの誰かがやればいいだろ」

「正論、ですね」

「だったら、」

「そう確かに正論です。が、残念ながら私達は今朝方採血を終えてましてね。これ以上採ると夜勤にも響きますし、下手すれば命にも関わりかねません」


ですから、貴方に見本をやって頂くしかないのですよ。そう言ってにっこりと笑った名前に、歳三の背中から冷や汗がどっと出たのは言うまでもない。
















「…痛っ!」

「はーい。終わりー」


そうして紆余曲折あったものの最後の平助の呻き声と共に何とか千鶴を除いた全員の採血を終えた。


「…さてと、田原さん。全員分終わったので、検査の方を頼めますか?」

「沖田総司さんのを優先に?」

「はい。そうして下さると助かります。緒方先生も、それを望んでるでしょうから」


名前がサンプルの入った試験管に藤堂平助と書いてあるシールを貼り、それを医療班の班長である田原が受け取りながらそんな会話がなされている。そんな会話も、人生初の採血に怖かったような面白かったような感情が飛び交う異世界組のざわめきによって消えつつあった。が、そんな中、一つ控えめに高い声が上がった。


「ま、待って下さい!!」


千鶴である。彼女の目には何故自分だけ採血をしなくて良いのかという疑問と、焦燥が映っていた。その焦燥を見逃さなかった名前の目が一瞬細くなる。


「どうしたの?千鶴」

「わ、私は…その採血を…」

「しなくていいんだよ、貴女は」


え?と彼女の口が動いたのと同時に歳三の眉が潜められた。名前は歳三に背を向けていたので見ていなかったが、十四郎は彼の顔が見える位置にいたのでそれを見て内心首を捻っていた。
一体何を焦っているんだ、と。見れば千鶴もやや焦燥を顔に浮かべている。そんなに血液検査をして欲しいのか。しかし、恐らく自分の補佐官も同じこと、いやそれ以上のことを考察しているだろうとそれは一旦頭の片隅に追いやり、とんでもないことを考えてそうな千鶴に十四郎は呆れた目線を向けた。


「お前、隊士になるつもりなのか?」

「ぇえ!?ち、違うんですか!?」

「精々護身術止まりのお前に隊士なんて無理に決まってんだろ」

「え?じゃあ…私は…」

「女中」

「女中?」

「そ。千鶴は隊士じゃなくて女中だよ。だから採血の必要はないの。よもや女中の仕事で緊急に輸血を要する怪我はしないだろうし。それに女中なら可愛い着物が着れるよ」


そう言って名前がにっこりと笑えば、千鶴も大きい目を更に大きくしてから嬉しそうに顔を綻ばせた。やっぱり女の子なんだなと思いながら微笑む名前だったが、無理にも程がある男装を強いられるとは、向こうの新選組はどれほど治安が悪いんだと内心眉を潜めていた。




































…それよりも。


(十四郎さん、もう七時近いですよ)
(…げ。マジかよ。夕飯近いじゃねェか)
(各隊長には私から話しますので、副長は彼らに風呂の使い方を教えて差し上げて下さいますか?)
(ああ、分かった……てか雪村はどうすんだよ)
(…………午後六時五十二分、公然猥褻未遂及び強姦未遂で現行犯逮捕)
(なんでだァァァアア!?)

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