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何なんだ、この女。




大声を出されたってことは屋敷の人間が誰か来る可能性が高いということなのだが、非常にまずくなったこの状況にどうするかと考える間もなく、総司が刀を抜いてその男に斬りかかって行った。


『待て総司!』


戦闘狂と斉藤が皮肉っていたのが頭を過ぎる中、声を張り上げたがアイツに止める気がある筈もない。軽く舌打ちをして、男には悪いが死んで貰うしかないなと自らも刀に手を伸ばした。が。
そこで信じられないことが起こった。
少し離れた所にドサッという音がした瞬間に響いた金属音。当然、男と総司の刀が触れ合った音だと思ったし、本人達もそう思っていた。だが違った。二人の間に入った“何か”が総司の刃を止めた音だったのだ。


『四楓院、か』

『流石です』

『そりゃあ、こんだけ長けりゃな。私服だって後ろ姿でも分かる』

『ご冗談を。私が間に入るのを分かって手を緩めたでしょう』

『……なんだ今週は褒めるキャラでいくのか』

『で、実践練習かなにかですか?』

『んなわけあるか』

『なら刀をお牽き下さい。こんな敵対心剥き出しの刀に片腕じゃ辛いかな』


女だった。やたらと裾の短い紺色の着物を着た。雪村よりは背が高そうだったが小柄な分類に入る。そいつが総司の剣を止めた。しかも片腕で。しかも会話をする程余裕で。信じられなかった。そうやって全員が目を見開いて茫然としていた中、動きを取り戻したのは洋装の男。奴らの会話を聞く限り、どうやら上司と部下というのに近い関係らしい。だが、女が刀を持ち、男を庇い、その男が戦闘を女に任せて下がる、ということも含めて全てが異質すぎて、とてもではないが受け入れられなかった。そんな俺を現実に引き戻してくれたのは意外にも斉藤だった。


『……副長。あの女、相当出来ると思います』

『…根拠は?』

『身のこなし。あの距離を瞬き程の時間で移動する速さ。…最早、女を超えています』

『女と考えない方がいいってことか?』

『はい』

『そうか…

平助、千鶴の側にいてやれ。新八と左之は近藤さんを頼む。斉藤と山崎は俺の後ろだ。何かあればすぐに動けるようにしとけ。取り敢えずは総司に任せてみる。全員指示があるまで動くんじゃねェぞ』


と、言って全員が頷いた時。
耳に届いた何かが壁にぶつかる音とその発信源を見て、俺の目は落ちるんじゃねェかって程開いた。


『そ、総司!?』


慌てて駆け寄り、一緒にいた千鶴が泣きそうな面で大丈夫ですか!?と聞くと、意外なことに総司は苦笑いしながら千鶴の頭を軽く撫でた。


『大丈夫だよ、千鶴ちゃん』

『で、でも!あんなに飛ばされて壁に背中を…』

『うん。でも全然痛くない』

『やせ我慢してんじゃねぇぞ、総司』

『やだな、土方さん。やせ我慢じゃないですよ』


千鶴の頭から手を離し、両手を上に上げると首をすくめる総司。確かに背中が痛いだとか腰が痛いだとか訴える顔はしていなかった。…だが、何故だ?加減したというのか?あの女は。


『土方さん。あの子、僕らを殺す気全くないですよ』

『……どういう意味だ』

『確かにあの黒い男に刃を向けた時には殺気を感じたんですが、今は全く。それどころか、こうやってお仲間の下に返してくれた』

『加減した蹴りで、ってか?だとして目的はなんなんだ』

『んー…多分話を聞きたいんじゃないですかね。勘ですけど……って、あれ?土方さん疑ってるんですか?だったら刀向けてみたらどうです?』

『……は?』

『きっと刀では受け止めないですよ、あの子。鞘とか筆とか…下手したら指とか』


んなわけあるか。
そう言って鼻で笑ってみたが、総司の言ってることも気になる。何か幕府側の情報を話してくれるのかもしれないと微かな期待を寄せながら、刀を抜いて殺気を滲ませると地面を蹴った。


『…っと、何やねん。ホンマに』

『お前こそ何者だ。総司は、組内でも一二を争う剣の使い手だ。それを片手で止めただけでなく、一振りで弾き飛ばし、今も俺の剣を簪一本で止める程の力を持つなど…到底女とは思えん』

『うわ、失礼やなアンタ。お聞きになりましたか多串さん。貴方より失礼な人がここにいましたよ』

『本当のことじゃねぇか』

『マヨネーズ、煙草…明日から気ィ付けやァ』

『ごめんなさい』


地面を蹴った時には既に髪から引き抜いていたのが見えた。後ろを向きながらも正確に太刀筋を読み切り、くるりと正面を向いて、いとも簡単に細い棒で受け止めたのを見て冷や汗が流れた。こちらは本気ではなかったとは言え、気を抜けば重傷は免れない一振りだった筈だ。総司が苦笑いしていた理由が分かったような気がした。
とんでもなく“デキる”な、この女。
だが、女に俺らを殺す気がないというのは本当らしい。俺を知らないと言った時はかなり驚いたが、それから軽く洋装の男と口論をし、まるで斉藤のような正論っぷりで女が男を抑え込み、話合いをするという許可を取り付けていたからだ。

そして、今に至る。
散々三人の会話を聞いたが結局分かったのは女の姓名と洋装男の名前だけ。多串という単語が出て来たがどうやら洋装男の名字ではないらしい。何気ない会話にも一切身分を明かさない徹底ぶりに、やはり殺すべきなのかと一瞬よぎったのも束の間。


「さてと、“副長”さん。案内しますので、後ろの方々に声を掛けて頂けますか?」


そう言って浮かべていた笑みの中に、話し合える許可が下りたことへの心からの安堵が見えて、完全に毒気を抜かれてしまった。
















―何なんだ、この女―





(千鶴ちゃんの逆、とか)
(ええ!?私の逆って……お、男の方が…?)
(そ。男なのに女の格好してる、つまり女装だね)
(いや、それはねぇな)
(なんで分かるのさ、左之さん)
(そりゃ平助お前、伊達に花街通ってねぇよ。見りゃ本物か偽物か見分けはつくぞ)
(…千鶴。これから左之さんの側には寄らない方がいいぞ)
(わ、私は本物の女ですよ!!)
(うん、千鶴ちゃん何に対しての本物か偽物か分かってないみたいだね)

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