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そんなの俺らも知りてぇよ。




始まりは、平助の一言だった。


『千鶴!!今巡察行ってきたんだけどさ、縁日やってんの見つけたんだ!一緒行こうぜ!』


門をくぐるなり叫んだ平助のこの言葉に、反応したのは千鶴だけではなかった。もう夕暮れも近い時間帯。夕餉までの少しならと偶々揃っていた近藤さんを含めた幹部で行くことになり、平助の案内の下、軽い世間話をしながら歩いて行った。
のだが。
屯所を出て間もなく道が分からなくなったと平助が抜かしやがった。


『はァ!?道が分からないってお前巡察してきたんじゃなかったのかよ!?』

『ちょ、そんなに怒らないでよ新ぱっつぁん…俺だってワケ分かんなくて混乱してんだからさ』

『…どういう意味だ、平助』

『確かに俺は縁日をやってた所から屯所までの道のりを逆走してきたつもりだったんだよ。なのに、ないんだ』

『縁日が、か?』

『うん……って、は、一君そんな恐い顔しないでよ…』

『こんな顔になるのも当然だ。第一、縁日がほんの四半刻で跡形もなく片付けられるなどありえん。普通ならその名残は見受けられるだろうし、出店の人間も何人か残っている筈だ。つまりだ、平助。お前は道を間違えている可能性が限りなく高い』


斉藤の正論にぐっと黙り込んだ平助に総司は忍び笑いを漏らしているが、笑い事ではなかった。


『で、どうするんですか?土方さん。僕らも迷っちゃいましたけど』


俺らも今自分達がどこにいるかよく分からなくなってしまったからだ。しかもこれだけ人数がいて誰一人として場所が分からないという始末。焦りながらもひとまず目につくものはないかと見回した。街並みは京…だと思う。何となく違和感を覚えたが、知らない場所に来ればそう感じるものだと自分に納得させた。


『副長……差し出がましいようですが…一つ、宜しいでしょうか』

『…山崎、か?どうした?』


暫く全員で方角だけを頼りに屯所へと向かっていると遠慮がちに声を掛けられた。特に任務のない限り常に俺の声が届く範囲に潜んでいる山崎。そいつがわざわざ存在を現してまで話しかけたことに俺を始め、全員が少し驚いたような顔をしていた。


『藤堂さんの言っていた縁日ですが…俺はこの辺で“見ました”』

『…どういう意味だそりゃ』


平助と同じぐらいの時刻に、薬を仕入れに薬屋に行った帰りだったと言う。屋台の並び順が迷わずにすらすらと口から出る辺り、確かに見たらしい。ただ、普段の縁日とは何処か違和感を覚えたと言っていた。


『さすが山崎君だねぇ…情報が違う』

『ど、どういう意味だよ総司!!』

『落ち着け、平助。山崎はそれが本職のようなものだ。それに総司は決してお前をからかったのではない。事実を言ったまでだ』

『一君!それ全然庇えてないよね!?』


取り敢えず騒ぐ馬鹿はほっといて山崎に指示を出そうとした時だった。


『…な、何でこんな所に…』


不意に風が吹いたと思ったら、薄桃色の花びらと共にふんわりと何処か覚えのある匂いが辺りに漂った。目の前を見れば桜の木。今の季節は初夏。桜などありえない。第一狂い咲の桜ともあれば京ではそれなりに噂になる。耳にしたことがないところを見ると……どう説明をつけていいか分からない。ただ一つ言えることは、何か“危険”だということ。


『副長、お下がりください。俺が』

『待って一君。僕が行くよ。一君は土方さんの側に。左之さん達は近藤さんと千鶴ちゃんをお願いね』

『総司!』

『大丈夫ですよ、土方さん。僕が死んじゃったら次、お願いしますね』


さすがにコイツらも危険を察知したらしい。全員が刀の柄に手をかけて殺気がじわりと滲み出ている。総司も軽口を叩いているが、目は真剣だ。たかが桜の木に刀を構える俺らは滑稽に映ったかもしれない。だが、それ程までに異常な雰囲気だったのだ。まるで桜の木の裏側から誰かが斬りかかってくるような感覚に襲われていた。そして総司が一気に駆け出した時だった。


『え…?』

『…昼、か…?…コレ…』


本当に一瞬、瞬きを一回している間に辺りが一気に明るくなった。火事になったわけでも月灯りが強かったわけでもない。
昼になったのだ。
分けがわからないと言われるかもしれない。若しくは気が狂ったかと一蹴されるかもしれない。だがそれは現実で、同時に九人も証人が出来てしまった。まるで夢を見ている時のように一瞬で場面が切り替わったことに、頭がついて行ける筈もなく全員がただ目を見開いて茫然としていた。自分達が今いるのはどこかの御屋敷の中庭。その目に映るのは中庭を囲むようにある部屋。背中の塀。……そして、俺達の左にある桜の木。


『ひ、土方さん!この桜の木…』

『ああ…そうみてェだな』


結局一番最初に口を開いたのは千鶴だった。怯えたように俺の袂を掴み、震える手で桜を指差す千鶴の頭を落ち着けと言って撫でてやりながら、斉藤の方を見た。


『…どう思う』

『先程まで西の空に沈みかけていた太陽は、南中を僅かに過ぎた所にあり、小路を歩いていた我々は何故か見知らぬ屋敷の庭に。……大変申し訳ないのですが……俺には、分かりかねます』

『…ああ、俺もだ…』


常に沈着冷静なあの斉藤まで動揺していた。いつもは綺麗に纏まる発言内容も歯切れが悪すぎる。
この場にいてはまずい。
全員の様子と直感的に思ったこともあり、盗人のようで気が引けたが塀を乗り越えて屋敷外に出ようと近藤さんに口早に伝えると、直ぐに頷いてくれた。それを、俺らより5歩前にいる総司にも声をかけようとした、その時。


『てめェら……なんだ…?…』


間が悪いというか、運が悪いというか。俺らの真正面にある襖が開き、上下黒の洋装を身に纏った男が出てきた。俺らを見て目を見開いている。
これはまずいな。
咄嗟にそう思うと、斉藤が眉間に皺を寄せながら呟いていた。


『…洋装、か……どう考えても俺らと同じ側とは思えんな…』


それに山崎が同意をするように目を細めると、俺にはっきりと言った。


『副長。沖田さんを退かせて下さい。ここは俺が引き受けます。その間に局長と雪村を連れてお逃げ下さい』

『無茶言うな。お前一人でどうこう出来る奴じゃねェ』


これだけの人数を相手に全く怯む様子もなく庭に降りてきた男。抜かずに鞘へ入ったままの腰の刀を見れば、相当自分の腕に自身があると見れる。監察の山崎では無理だ。そう俺が思って総司に足止めをと指示を飛ばそうと口を開いたのと、男が怒鳴ったのはほぼ同時だった。


『てめェら、どっから入って来やがった!?』




















―そんなの俺らも知りてぇよ―





(左之さん…こんな時に不謹慎だってのは分かってんだけどさ…)
(どうした?平助)
(に、似てない?あの男、土方さんに)
(……確かに)

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