バルバッド編-07
「おや、これは何の騒ぎですか?アブマド王よ?」
入ってきたのは、黒服の男だった。
白い布で顔を覆った黒服の男。
この男を何処かで見たような気がする。
にしても、このどうしようにもないような強い不安は何?
「おお、戻ったのか"銀行屋"!」
「おや、先客ですか?」
「そちらは、来訪中のシンドリア国王殿とフリーア国の第三王女殿だ、挨拶せい銀行屋」
「待てよ!今は俺がっ―」
話が中断されたことに少年が声を荒げるが、シンドバッド王に抑制されて押し黙った。
黒服の男が私とシンドバッド王に向かってお辞儀をする。
「初めまして!シンドリア国王様にフリーア国第三王女様!私、"銀行屋"のマルッキオと申します!バルバッドの財政顧問を請け負っております」
そう言いながら男は、顔を覆っていた布を捲りあげた。
現れたその顔に、思わず息を呑む。
思い出した、この男は確か、私が国王に勅命を請ける際に控えていた男とそっくりなんだ。
「―――、第三王女様?」
「っ、初めまして。フリーア国第三王女レン・スラーメリー=アルハリームです。…よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
「どこかでお会いしたことは?」
「いいえ、あなたとは初対面ですよ」
「…そうですか」
"あなたとは"
それは私とは対面していないが、フリーアには訪れたことがある、ということなのだろうか。
考えていると、突然後方―広間の入口の方が騒がしくなった。
「どけっての。何だよ、このうぜぇ人ごみはよぉ」
入ってきたのは、黒髪の少年。
何というか、ぞっとする雰囲気を纏っている。
平然を装ってはいるが、私の側に控えていたルシアとロゼが警戒しているのが分かった。
「おっ、バカ殿じゃん!何でいんだよ?お前いっつも俺の邪魔しに現れんだよなぁ」
「ジュダル、お前こそ何故…?」
「俺、今煌帝国で神官やってんの」
どうやらこの黒髪の少年は、シンドバッド王の知り合いらしい。
仲はあまりよろしくないようだが。
「ん?おまえのルフ…」
黒髪の少年と目があった途端、少年が私を見て固まった。
礼儀がなっていない、と密かに心の中で思ったのは秘密だ。
「あ、紹介するでし、レン王女。 こちらは、煌帝国の神官であるジュダル殿でし」
「初めまして、ジュダル殿…フリーア王国第三王女、レン・スラーメリー=アルハリームです」
「ああ!フリーアの王族か!それなら納得だぜ!」
よろしくなレン、そう言って少年―ジュダルは笑った。
何というか、人懐こそうな少年だ。
しかし、ルシアとロゼが警戒を解かないということは、何か危険だということだろう。
「そろそろ本当に、おじさんたちには帰って貰いたいのでしが」
「待てアブマド、まだ話は終わっていないぞ」
「なんのことでしか、シンドバッドおじさん?ああ…シンドリアとの貿易再開の約束のことでしか?悪いけど実は、その約束は守れないんでし」
「どういうことだ?」
何か、とても嫌な予感がする。
いや、元から嫌な予感はしていたのだけれどそれが強まった、と言う方が正しいのかもしれない。
そしてその予感は、アブマドの発した言葉で的中した。
「何故なら、バルバッドの貿易の権限はすべて…煌帝国に渡すことにしたからでし!」