prologue-02
広間に通された私は玉座の前で跪き、深く頭を下げた。
何度も訪れても、この部屋の空気に圧倒されそうだ。
「只今参上いたしました…お待たせして申し訳ありません、陛下」
「構わぬ、面を上げよレン」
そっと顔を上げて、姿勢を正す。
そのとき陛下の背後に控える、顔を布で覆った黒服の男が目に入った。
最近城内で頻繁に見かける気がする…
「交易国のバルバッドのアブマド王が煌帝国の皇女と婚約するとの知らせが届いた。お前には私の代理としてバルバッドへ行って貰いたい」
バルバッド王国…今は亡き母上の故郷。
最後に訪れたのはいつだったかしら…
私は黒服の男から意識を反らし、記憶を探る。
ラシッド陛下が崩御なさったときが最後だったかもしれない。
「では速急に祝品を仕立て、バルバッドに向かいま―」
「か、カイル様お待ちを!広間では陛下とレン王女が―」
「うるさいなあ、大丈夫だって!あ、伯父上!アブマドが婚約って話本当!?しかも煌帝国って!!」
私の言葉を遮るように、不意に騒がしくなった廊下。
怪訝そうな陛下の視線を追うと、見知った人影。
カザーフ家出身の第四王子、カイル・カザーフ=アルハリームだ。
幼い頃から仲の良い、私の幼なじみ。
「…カイルよ、もう少し場を弁えろ」
「別に身内だけなんだからいいじゃん!ね、レン!」
「え、えっと…」
いきなり話を振られても…
そんな私の反応にふて腐れたように、カイルは口を尖らせた。
「つれないなぁ、ユーリィだったらのってくれるのに!」
「カイル、お前は何をしに来たのだ?」
呆れた様子の陛下に、カイルはへらっと笑う。
そして私の手を掴んだ。
「話は終わったんでしょ?ちょっとレン借りるね!お説教なら後で受けるからさ!」
「おい!カイル!」
私は陛下のカイルを制止する声を聞きながら、引きずられるように広間を出た。
広間から飛び出してきた私たちに驚く近衛士の間をすり抜けるように進む。
と、扉の側で待機していたルシアが困惑したように私たちを見た。
「レン様?」
「ちょうどいいや、ルシア!お前も来い!」
カイルは私の手を掴んでいる逆の手でルシアの腕を掴み、楽しそうに笑った。