prologue-01
近づいてくる。
酷く暗い闇が。
怨み、憎しみ、そんな沢山の感情が混じり合った途轍もなく大きな闇が…
沢山の、沢山の人を巻き込んでゆく。
ここはどこ?
この場所はどこなの?
「ふざけるな!自分の国民をそんな風にぬかすお前にっ!!王の資格なんてない!!!」
声がする。
ふと見えたのは、光に包まれ、果敢に闇に立ち向かう少年の姿。
あの子は…誰?
何処かであったことのあるような…
そしてその少年を追うようにして現れた男。
あれはシンドリア王国のシンドバッド王…
でもこの景色はシンドリアではない。
ならばここはいったい…?
「――様?姫様?」
「あ、あれ…?」
「大丈夫ですか?顔色が優れませんが…」
まだ明け切っていない窓の外。
心配そうな様子の侍女にそっと深く息を吐く。
ああ、またやってしまった。
未来予知、そう例えるのが妥当だろう。
今は亡き母が授けてくれた、先見の能力。
幼い頃は夢で見るだけだったが、最近は起きていても見えてしまう。
何か悪いことの前触れなのだろうか。
トントン―
不意に扉がノックされた。
慌てて対応に出る侍女の姿をぼんやりと見つめながら考える。
先程"見た"景が頭を離れない…
この能力は私に何を伝えようとしていたの…?
暫くすると侍女が戻ってきた。
何故か少し浮かない顔をしている。
「あの、国王陛下が広間に来るように、と…」
「陛下が?何かしら?」
取りあえず身なりを整え部屋を出ると、見知った白金色を見つける。
「ルシア!戻っていたのね!お帰りなさい!」
「おはようございます、レン様。先程戻りました。お供しましょうか?」
ルシア―私の護衛衛士であり眷属でもある、大切な友人。
アクティア王国へ嫁いだ第二王女のもとへ国王の命で出向いていたため、こうして顔を合わせるのが久し振りな気がする。
「アクティアまで行ってきて、疲れてるんじゃない?」
「大丈夫です」
「そう?じゃあ、お願いするわね」
そういってルシアが後ろから付いて来るのを感じながら、広間へと向かう。
「おい、見ろ…第三王女様だ…」
「本当か!?…チッ、番犬も一緒か。スラム出身のくせにでかい顔して城中を歩くとはな…」
「迷惑な話だ…」
「おい、聞こえるぞ…」
途中聞こえてきた話に思わず足を止めた。
視線を巡らせると、二人組の貴族が端で囁き合っているのが目に入る。
私のことならまだしもルシアのことを…!
そう思い、貴族の方へ行きかけた私をルシアが止める。
「!…ルシア?」
「レン様、先を急ぎましょう」
「っでも!」
「私は大丈夫ですので…好きなように言わせておけばいいのです」
「…わ、分かってるわ!」
私が子供過ぎるのだろうか…
ルシアだって、あんなことを言われて嫌だったはずなのに。
彼は何を言われても涼しい顔をして、真っ直ぐ前を見据えている。
私は少し落ち込みながら、長い広間への道を進み、ようやくお目当ての部屋の前に立った。
扉の前に控えていた近衛兵が私たちの姿を確認し、恭しく頭を下げた。
「私はここで待機しています、何かあればお呼び下さい」
ルシアを広間の入り口に待機させたのを確認して、近衛兵が声を上げた。
「第三王女、レン・スラーメリー=アルハリーム様のお見えです!」