06



最悪だ。ああ、最悪だ。
恥ずかしいご都合妄想話を聞かれてしまい、私のハートはボロボロだ。あんなのダメだって。反則じゃん。音もなく現れ、しかも自然に会話に入ってくるなんて。こんちくしょうが。


「モナ、さっきからため息ばっかでつまんね〜」
「つまんなくて悪かったね。そもそも私に面白さを求めること自体間違っているよ。金魚くんのところにでも行けば?」


あーあ、とため息をついたって、どれほど後悔したって、時が戻るわけじゃあるまいし。
わかっている。わかっているけど、それ以外口から漏らす言葉が見つからない。


「そんなに昨日のことがショックなの?」
「当たり前でしょ。絶対聞かれたし、ドン引かれた。最悪」
「別にいいじゃん。いつも言っていることをジェイドに聞かれたらただけなんだしさ」
「いや、アイツに聞かれたことが問題なんだって」
「いずれは言うことなんでしょ。ならさ、この際さっさと言っちゃいなよ」


「その方がスッキリするよ〜」とあくびを噛み殺しながら。

この子、サラッと恐ろしいこと言ってやがる。
まあ、確かにそれも一理あるかもしれないが、アイツに恥ずかしい妄想話を聞かれたことが何よりの地獄なんだ。それに、好きだっていう気持ちも。


「それだとまるで私がアイツに負けたみたいで嫌。それにロマンがない。いいかい?少年。よく聞きたまえ。恋っていうのは駆け引きなのだよ。押してダメなら引いてみろって言葉聞いたことない?」
「あー、なんか言うね。そういうのよくわかんないけど」
「恋愛っていうのは、つまり勝負なわけ。告った方が負け。告られた方が勝ち。だから、私は絶対にアイツに告らせたいの。惚れさせたいの!勝ちたいの!」


飲み干した缶ジュースを数メートル先のゴミ箱に狙いを定めて、投げる。ナイスシュート!見事命中!とはいかず、カコンと間の抜けた音を立て、外れてしまった。


「ダッセ。ウケる」
「ええい、お黙り」


そりゃあバスケ部のアンタとはコントロール能力は鈍いでしょうけど!

ケタケタと笑うフロイドをジトッと睨んだのち、缶ジュースを拾い上げると、今度は行儀よく、ポイっと捨ててやった。


「いいんじゃねーの?頑張りなよ」
「応援してくれるの?」
「モナがジェイドに告られようと必死になっている姿が見れんならおもしろそーだなって」
「そういうところアンタたちそっくりよね。人を観察するの」
「で?何か作戦とかはあんの?」
「んー、それと言った作戦はないけれど……。ていうか、なくても大丈夫かなって。だってほら、この学校、私らが入学した年から共学になったじゃない?その割には女子生徒が私以外いないじゃん。こう言うことを言うのはちょっとあれだけど、恋盛りの男子からしたら、重宝する存在なわけだから、自然と無意識に好きになるんじゃないかなあと僅かな期待を……」

と、言ってやれば、終始興味津々に話を聞いていたフロイドは眉を顰めて、「正気?」と一言。
おいおいそんな顔すんなよ。せっかくの整った顔が台無しじゃない。


「まさかそういう思考を持っていると思わなかった。なんつーか、モナも女子なんだねぇ」
「どういうこと、それ。どこをどう切り取っても私は元から女子でしょうが。頭のてっぺんから足の爪先まで生粋の女の子だってば。どういう目で今まで見てたのよ」


答えろ、どういうことだと問い詰める。
だが、彼は眠たそうに欠伸をし、頭を掻く。そして、普段サボっているはずのバスケ部に集まりに行くと言って、手をヒラヒラと振りながら、去っていってしまった。



prev top next