02



「大昔から思っていたんだけど、アンタって本当、超がつくほどの完璧人げ……いや、人魚だよね」
「となりますと、前世のそのまた前世あたりから僕たちは知り合いということで。ああ、なんてロマンチックなんでしょう」 
「やめて。そのうち、シャンパン片手に“君の瞳に乾杯”とか言い出しそうで怖いわ。今時、映画でも無いセリフだよ。もうちょっと、普通の男子高校生みたいなことができないわけ?年相応の振る舞いというかモノの言い方というか」
「何をおっしゃいます。どこからどう見てもごく普通の男子高校生ではないですか」
「いや、どこが。あんたが普通の高校生ならば、私は一体何になるのよ。あー、ストップ。待って待って。当ててあげる」


と大袈裟に手のひらを見せ、止まれのポーズをとる。
対する目の前のヤツは相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべている。よくそんなに笑っていられるな。


「うーん……そうね脳味噌無しのクラゲ?それともちゃっちいミジンコか?それとも、岩場に打ち上げられた干からびたフナムシか?」


よし。口を開く前にこいつが言うであろう、ある程度の候補は言ってやった。
何故こんなことをするのか。それにはちゃんとした策略がある。あらかじめ、こちらから言っておくことによって、相手の言葉の鉄砲に詰めらた弾丸を無くす。
完全に無くす事はできなかったとしても、ある程度は減らす事は可能だろう。
たとえ、発砲してきたとしても、たかが一発や二発ばかりのなけなしの残弾では私のハートをそう簡単に打ち砕くことはできない。


「ふむ。なるほど……」
 

顎に手を当て、いかにも考えていますと言わんばかりのポーズをとる。

さあ、どうだ?苦しいか?残り弾が少なくて不安か?

くくくとほくそ笑んでいると、強いていうなら、これですかねと言って、制服の内ポケットから、スマホを取り出した。




「―――チョウチンアンコウかと」

「これまた、随分と斬新なチョイスを……って。うわ、ブッス……!って、それ私の寝顔じゃん。何勝手に撮ってるの」


そこには前髪を一つに結び、気持ちよさそうに眠る自分の姿が写っていた。


「まあ、確かに髪型はそれっぽいかもしれないけどさ、なんでよりによってチョウチンアンコウ?まだフロイドの方が可愛いチョイスしてくれるって」
「可愛い?何を仰っているのか、わかりませんね。可愛いらしい見た目では危険な海の中では生きていけません。この写真のアンコウのように悍しく、周囲から恐怖されるような見た目ではないと」
「水ひとつない砂漠に置き去りにしてやろうか」


震える拳をそっと抑え、机に手を置き、彼を思いっきり睨みこむ。身長的な問題があり、睨みこむというよりかは、睨みあげたと言った方が正しいかもしれない。

目の前の左右で色彩が異なる瞳は少しも揺れることなく、私が彼を見つめるように彼もまた見つめ返してくる。

くすみ一つもない端正な肌にキュッと結ばれた口。知的で凛とした印象を与える切れ長の瞳。


ああ、どうしてこんなにも顔が良いのだろうか。

ほんと、少しでもいいから。
1パーセントでもいいから遺伝子を分けて欲しい気分だ。



「おやおや、よく見たら、白目を剥いているではないですか」
「早く消して!今すぐに消せ、ジェイド・リーチ」


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