月夜に照らされて
その色男は女のあたしより綺麗で自信に満ちていた。

「本日旦那様のお相手をさせていただきます丼と申します」
深々と頭を下げて名を名乗りゆっくりと深呼吸をして顔を上げ今夜自分を買ってくれた相手の顔をみた。
とても綺麗な髪色でそれに見合った顔立ちの男だった。男はこちらを見やるとポカンと呆けた顔になりぱちぱちと瞬きをした。
「こりゃあ柵越しに見るより別嬪さんだアタリ引いたな」
「ふふ、ありがとうございます」
お酒をおつぎしながら彼の言葉に返す
猪口に入れられたお酒をコクリと飲みくだす姿さえも絵になる。
「旦那様本日はどの様な遊びをされに?わっち教養はございません、出来るのはお酌をおつぎすること、お話を聞くことしか…あ、三味線が一番得意でござんす」
「おいおい、何でそこまで卑屈になる」
「わっち、太鼓新造でありんすから…」
「太鼓新造…本当に言ってるのか?」
遊女でありながら客を全く取れない遊女、だが芸はたつのでよく宴会には呼ばれるそれがあたし。
「わっち、年の割には顔が幼子の様だからとあまり表に顔を出させてもえまへんの」
「だからか…」
男はこの店の忘八…店主に選んだあととても驚かれたのを零した。
「…宇髄」
「はぃ?」
「俺の名前だ宇髄と呼んでくれ」
ニッカリと笑う彼に頬が火照るのを感じたがそれをかき消す様に手の甲をつねりこちらも微笑む
「はい、宇髄様」

その後彼の話を聞いた。
彼の話はとても面白く笑いが絶えることはなかった。
そのあと手を握り合ったり寄り添ったりその一線を越えようとはせず少しの戯れをして彼は帰って行きその次の日にも買われた。
何日かそれが続き店主はやっと丼に買い手が現れたと満足して居たとある日彼は来ず姉さんの席に芸を店に行った時のことである。
程々に酔いが回って来た客と姉さんがまぐわい始めたので静かに席を立ち後のことは禿(かむろ)の子達に任せそのまま部屋へと向かった。
襖を開けると窓が開けられていて中に誰かが居た。月明かりを背に受けていてその顔はハッキリとは見えなかった。思わず後ずさるがそれよりも早く腕を掴まれてしまった。
「ひ、だ、誰!?」
「落ち着け丼俺だ、」
「宇髄、様…?」
着物姿の彼とは違い洋装を纏い顔には派手な化粧、髪は布が巻かれていて別人だと思わされる。
彼の落ち着く声と見慣れた細める目を見て彼だと確信しやっと安堵する。
「なあ丼、ここから出たいと思うか?」
「ここ、から?」
「今ならお前を逃がしてやれる。ここに居たら死ぬかもしれない」
「えっと、それは、どういう…ひょわ!?」
「いや、答え聞かなくてもここから出す!いいな!」
「え!?あっ!?」
抱えられたかと思えばすごい速さで屋根を駆け抜けていく。馬に乗ったことはないがこんな感じなのだろうかと呑気なことを考えてしまう。
「で、でもでも!門番さんは!?」
「んなもん眠らせたわ!」
屋根伝いが終わりまるで体の重さなんてないかの様に軽やかに門の前に着地した宇髄様はそっとあたしを下ろした。
「この鴉を追っていけ、そうすればお前を助けてくれる人のもとに行ける」
「宇髄さまは?」
「俺はこれから仕事だ」
「あとこの書状と香り袋を持っていけ、いいな?」
「宇髄様!」
「なんだ?」
「なんで、あたしなんかに、ここまで、」
「好いた女だからだよ」

「先行って待ってろ、必ず迎えに行く」

そう言うだけ行ってしまった彼がボロボロになってまた迎えに来る話までは少しさきになる。


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bkm
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