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「落ち着いたかい?」



あの後クラウスとK.Kと合流した
2人もなし子の様子にかなりの心配をしていたが
とりあえず落ち着いて話そうということでライブラの事務所に戻ってきた
K.Kは息子の迎えがあるということで別れた

「うん・・・大分ね、みっともないところ見せた、ごめん」
ギルベルトに出された紅茶を一口すすり一息つく
「別に大したことじゃないさ、で、本題に入ろう」
スッとスティーブンは目を細めた

「何があった?」

「・・・・堕落王が居た」

ピクリと二人の眉が動いたのに気付いたが話をつづけた


「んでもって後つけてとっ捕まえて帰り方を聞いた」


「聞けたのかい?あいつから?」

「・・・聞けたっつーか、うーん」

途端になし子の表情が曇る
これがさっきの取り乱したきっかけかとスティーブンは感づいた

「それで?奴はなんだって?」

「・・・・」

「答えられそうにないのならば焦る必要はない、ゆっくりでいい」
口籠ってしまったなし子にクラウスが優しく問いかけた

「クラウスさんありがとうございます。でも大丈夫です、」
いつかのようにヘラリとクラウスに笑いかけるなし子


「簡単に言うと開いてるそうだ」


「・・・すまないなし子、簡単に言い過ぎだ」
なし子の言葉に一瞬固まり呆れた顔をするスティーブン

「多分この世界と向うの世界、定期的に繋がってるそうだよ」

「「!?」」

「あいつ曰く"あの不安定な世界が一回開いて終わりなわけないだろう馬鹿だなあ"だそうだよ」

クラウス、スティーブンの2人は驚きが隠せなかった

「向うの世界はあたしの事を呼んでたみたいだけど、
あたし自身が心の奥底で拒否してたらしく気づかなかったんだって、ようわからないが」

「それで・・・・」

先ほどなし子が泣きながら叫んでいた言葉を思い出す


「まあ、これで世界が繋がってるのは分かったし、後はどうやって帰るかだけ!
 ひとつ課題が減ってラッキーだね!」

ケタケタとどう見ても無理して笑う彼女にいたたまれなかった。


「なし子、」
クラウスがそんな彼女の名前を呼んだ

「はい?」
彼女はケタケタ笑っていたのをやめ、クラウスを見つめ返す
すると彼の大きな手が伸びそれは彼女の頭上に置かれた
その手はゆっくりと左右に動かされなし子の頭を撫でる

「お、おお?」

「無理をしないでくれたまえ、我々は仲間なのだから」

「あっはっはっは!無理だなんて」

「君は自分自身で帰ることに注視しすぎてしまい、
 我々を頼ろうとしてくれない、そんなに我々は…私は頼りないだろうか?」

「頼ってるつもりだったんですけどね…」

「今よりもっと頼ってくれてかまわない、ここにいる以上キミは我々の仲間だ」

仲間。その言葉がジワリジワリと胸のあたりに広がっていく

「じゃあ今一個愚痴っていいですか」

「構わない」


「…あたし、あっちに帰ってやらなきゃならないことあるんですよ」

「あぁ、」

「自分の力じゃおこがましいかも知れないけど少しでもやれることはあると思うんですよ」

「あぁ、」

「なのに、そんなこと言ってるそばから」



「あっちに帰るのが今すげぇ怖いんですよ」



その言葉を言った後にボロボロと涙がこぼれ出た。

スティーブンはハンカチを差し出し、
クラウスは一瞬たじろいだが撫でる手は止めず言葉を続けた

「無理もない、君は一人で戦ってきたんだ、しかも女性だ。
 君の勇気ある行動は到底誰にも真似はできない胸を張りたまへ」

「ずびっまぜんっ・・・・ごえんなざいっっ」

顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになる
お世辞でも綺麗とはいいがたいが自分の世界を背負うことを選び戦ってきた
彼女の流す涙、誰が愚弄できるであろうか
少なくともこの場にいる2人の男はそんな彼女を嘲笑うこともなく
正面から受け止めた


「君は決して歩みを止めたわけではない、キミがあちらに帰れるように我々は全力を尽くす」

「・・・はい゛」

「一人で戦うことはない。共に戦おう」

「置いて・・・行かないでくださいっ」

「あぁ、君と肩を並べ共に歩もう」




「キミばっかり良い顔して狡いなあ」

あの言葉を最後になし子は泣き疲れ、寝てしまった。
なし子をいつも使わせている仮眠室へと運び布団をかけてやる

「そうだろうか?やはりスティーブン、君の方が信頼されていて羨ましく思うよ」

クラウスはなし子の手に握りしめられている濃紺のハンカチを見つめた。

「あんな約束、君は果たせるのかい?結局元の世界に帰れば彼女一人だ」

「それを善処するようにできる限りの対処をするつもりだ」

「・・・・はぁ、君、彼女のこと言えないだろ」

この男も又、自身で背負うものが多いし背負う1つ1つが重い

「だからだろうか、彼女をほっとけないんだろうな」

月明かりに照らされたなし子の寝顔はとても儚く感じた


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bkm
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