月明かりだけと言えば響きが良いが外灯も大して無い夜の公園。
きちんと管理されている大きな公園で、本来この時間は入ることは出来ない。
「忍び込んでみたくね?」
何時ものように悪戯な笑みを浮かべて提案してきたブン太は、案外簡単に入れちまうモンだなーなんて言いながら少し前を歩いている。
「ねぇ、こんな時間にこんな所で何するの?」
常駐の管理人がいないとはいえ流石に大声を出すのも憚れ控えめにしたつもりが思ったより声が響いてしまった。
しかしそんな私の心境など知らずブン太は平気で声を潜めることもせずに答えてくる。
「んーイヤ、入ってみたかっただけ。あ。そういや名前、ここの桜みたいっつってたじゃん。ほら、樹齢何百年だか何十年だかの…。」
「垂れ桜。」
「そうそれ。」
あっちの方じゃねー?なんて言いながら暗い中あっちへこっちへと適当に歩いていると見つけた。
つい数日前まで満開に咲いていた桜はもう散り始めていたが、まだ7割ほどは花が残っていた。
立派に枝を伸ばし厳かにもあるいは一種の不気味さにも感じられるその姿は暗闇の中でもその存在感を露にしている。
「うっわ、すっげぇな。」
「そうだね。」
桜なんて興味無さそうなブン太ですらその姿に見惚れてしまっていた。
何か、神様みたい。
ポツリと思わず呟きを漏らしてしまった。もしも神様というものが本当に居たとして具現化することがあったなら人のような姿よりもこの桜の方がよほどお似合いだし納得がいくと思った。
どのくらいそうしていただろうか、無言で桜を見ていると急に腕を引っ張られた。
ちょっと、何…と言い終わらない内に唇を塞がれる。
荒々しくまさに貪りつくようにキスを繰り返し気付けば息が上がっていた。
「はぁっ…もうっ、いきなり何、」
「なぁ、名前、良いだろ?」
ブン太がこうやって聞いてくるときはセックスする前のお決まり文句。
「ちょっと何馬鹿なこと言って…ここ外だよ、公園。それに…」
桜の木を見上げればそれは静かに枝を揺らしていた。
「良いだろ、神様にだって見せつけてやれば。」
そんな極上の笑みを作りながら言われても。
この笑顔に勝てた試しがないと諦め半分、それも良いかもしれないなんて思ってしまった私はどうにでもなれとされるがまま身を任せる事にした。
「罰、当たっても知らないんだから。」
「…上等。」
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