雨の日の出会い

雨の日の出会い

雨だ。今朝天気予報を見て傘持っていかないとなって思ったのに、結局忘れてしまった。通学中に何か忘れていると思ったのは傘のことだったのか。帰りどうしよう。もうすぐ授業が終わるけど、雨は降り止みそうにない。今度からはちゃんと持って行こう、と思うことには思うのだけど、やはり忘れてしまう。

こんな風に雨と私の物忘れについて一人心の中でつぶやいていたら、いつの間にか授業も終わっていた。心の中でおしゃべりしていたので先生の言ったことも覚えているはずがない。むしろなんの授業だったかもおぼろげだ。なんだったかな。

授業が終われば掃除に帰りの会だ。帰りの会では先生が雨が降っているから気をつけなさい、とか、傘でチャンバラごっこしないように、とか注意事項を言っている。今時の高校生がチャンバラごっこなんて、って思ったけど、そういえばしてるところをこの前見た。元気で何より。私も参加したかった。

帰りの会も終わり、よし、下校だ。と思ったら傘を忘れていたことを思い出した。ついさっきまで先生が雨の話してたのに、傘も出てきてたのに。
どうしようと言いつつも、どうしもうもならないのでそのまま帰ることにした。生憎、傘を貸してくれる友人も一緒の傘に入れてくれる友人も恋人もいない。持つべきものは友達とはよく言ったものだ。確かにその通り。
ふと顔を上げ、横を見ると灯りのついた少し古い質屋さんが目に入った。いつもなら歩きながら商品を見る程度だが、今日立ち止まったのは店先に折り畳み傘が置かれていたから、だと思う。青色系統の傘がカゴに丁寧に入っていた。気がつけば商品を手に取り、値段を確認していた。もちろん財布の中身も確認。すると中から店主と見られる男の人が出てきた。

「いらっしゃい」

男の人は、無愛想な顔で、とっても低い声で、心もこもっていない、まさに"必要最低限の"社交辞令なあいさつをくれた。

「これ、ください」

男の人が少し怖かったので、急いで水色の傘を取り男の人に渡す。
男の人が無言で受け取り、会計している間に少し観察してみる。髪の毛は肩くらいまである。触らなくともべたついているのはよくわかる。背は高い。180センチくらいはありそう。土気色の肌に、眉間には誰かに切られたのかと思うほど深いシワがある。あと、一番の特徴は

「まいどあり」

高い鈎鼻だ。
私は傘を受け取りながら、鼻をチラ見した。やはり、高い。素敵だと思った。男の人はもう奥に行ってしまったが、私はまだとどまる。なぜなら彼の横顔が見えるからだ。彼は気づいていない。気づかれる前に帰らないと、と思うが、足が動かない。
すると、まだ帰らない私を不審に思ったのか男の人がこちらを向いた。

「まだ、何か?」

早く帰れと言わんばかりの言い方だ。すごく嫌そうな顔をしている。よくそれで質屋さんをやっていられるな、と思った。

「いえ」
「ならさっさと帰りたまえ。親が心配する」

意外といい人だ。でもやっぱり本心は"早く帰れ"なのだろう。

「はい、ありがとうございます」
「……」

男の人はじっと私を見た後、またお店の奥に引っ込んだ。
私は買った傘をさして家路を急いだ。


自室のベッドで男の人のことを思い出す。何度思い返しても素敵でかっこいいということしか浮かばない。あぁ、明日また覗いてみようかな。なんてことを考えながら私は眠りについた。

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