奥底で響くような叫びを(現パロ甘)
※現パロ
ただいまー
いつもなら元気なその声も、今日はどこか雲がかっている。
きっと、いやなことがあったんだね。
ほら、おいで。
私でよければ受け止めてあげるよ。
「・・・」
「・・・」
私の背後から彼女が抱き付いてきてから、もう30分くらい過ぎた。
ぎゅう、と腰に腕を回して、背中に顔を埋めてから燐は動く素振りをまったく見せない。
もちろん、それがイヤなわけじゃなくて(むしろ役得というか何というか)ちょっと心配というか。
けれど、ヘタに聞き出すのもなんだかよくないだろうし。
「・・・元就さん」
「ん?何だい?燐」
「・・・元就さん」
「燐ちゃん」
上の空といった顔のまま、私の名前をぽつりぽつりとこぼす燐はたぶん意味もないけれど呼んでいるだけなんだろう。
しかし、本当は叫びたいんだろう。
吐き出したいんだろう。
弱音を吐くかわりに私の名を呼んで、私を求めてくれるんだろう。
なんて、愛おしいんだろう。
「なーりーさん」
「ふふ」
「お腹がすきました」
「じゃあご飯にしようね」
夕ご飯は何にしようかな。
この調子じゃ燐に作らせるのは可哀想だし、今日は私が料理担当だね。
オムライスがいいかな。
でも最近、燐はダイエットダイエットって言っているから(これ以上痩せなくたって良いのに)もしかしたらオムライスは高カロリーすぎるかもしれないなあ。
豆腐ハンバーグにしようかな。
あまりカロリーは高くないけれど、お腹いっぱいになれるよね。ふわふわのハンバーグを彼女みたいに作れるかなあ。
時間がかかっちゃいそうだなあ。
「ねえ、燐は何が食べたい?」
「んー・・・」
「お腹減ってるならあまり時間がかからない方がいいよね?」
「んー・・・」
背中にべったりくっついて、ぎゅうぎゅう私を抱きしめたままの燐はそりゃあ可愛くて可愛くて。
ご飯食べるより、むしろ先に食べたいくらい・・・っていけないいけない。
私の邪な気持ちに気付いていないのか、燐は私が夕ご飯を作っている間私から離れることはなくずっとくっついたままだった。
ふわふわいい香りがしてくるし、ふわふわ柔らかい感触が背中から伝わってくるし、もうどうしようもないよね。
ご飯を食べて、ごちそう様して、洗い物をして。
「燐、もっと?」
「うーん・・・抱っこ」
ベッドの上で二人でじゃれてみたけれど、やっぱり燐は気分が晴れないまま。
もっとぎゅうってしてほしい、ってねだってくれるのはすごく可愛いんだけれどね。
そんな状態の燐をいただくのはちょっと燐が可哀想。
そこまで私も我慢できないほど若いわけじゃないし。
「元就さん、ごめんなさい」
「どうして謝るんだい?」
「今日、私ご飯作りもお風呂の準備も何もやってないんだもん」
「いつもおいしいご飯作ってくれるお礼だよ」
「私が作ったご飯おいしい?」
「うん。毎日おいしい」
「毎日食べたい?」
「うん。もちろん」
「・・・へへ」
あ、ちょっと笑顔が戻ったみたい。
頬に赤みが差した顔はやっぱり可愛い。
「元就さん、明日からまた頑張るからね」
「お腹の準備しておくよ」
「ふふ、なーに?それ」
「お腹いっぱい食べたいからね」
「えー」
いつもより元気はないけれど、ちょっとだけ笑顔が戻ってくれたみたい。
ちょっとだけ安心したよ。
憂いを帯びた表情もいいけれど、やっぱり笑顔の燐は一番だからね。
「元就さん、今日はぎゅーってして眠ろうね」
「うん、いいね」
「私、元就さんのことが大好きよ」
「私も燐が大好きだよ」
ぎゅう、と強く抱きしめると燐も抱きしめ返してくれる。
その温もりに安堵をおぼえた。
しばらく抱きしめ合っていると、途端に燐が顔を上げて私を見つめてきた。
ちょっと心配そうな不安そうなそんな顔で見つめてくる。
大丈夫だよ、燐。
私は君の味方なんだから。
「燐?」
「・・・いやなことがあっても悲しいことがあってもここに帰ってくるから、そのときは抱きしめてね」
「うん、約束するよ」
「うん。約束」
小さな小指に私の小指を絡めて、約束。
「ありがとう、私のヒーローさん」
「どういたしまして、私のヒロインさん」
end
(君の叫びも全部受け止めてみせるよ)
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