愛していたと言えればよかった(悲)
お題サイトDOGOD69様より
糸は紡ぎ
糸は絡み合い
糸は解れ
糸は―――
「三成っ!」
「馬鹿!何故ここにいるのだよ」
戦火は苛烈なまでに国々を飲み込んだ。私もあの人も戦場に出ては戦果をあげて、の繰りかえし。
けれども、どんなに戦果をあげても、どんなに奮闘しても、私たちはそれらに飲み込まれる側となってしまったのである。
「三成が、戦場から離れたと左近から聞いた」
「・・・チッ、あのお喋りが」
「左近を責めないでよ、私が無理矢理聞いたんだから」
「左近は」
「・・・まだ、おそらく退却地の最後尾でみんなを逃がすために戦ってる」
「そうか」
先に退却した三成を追い、追いついたときにはもう既に私も彼もぼろぼろだった。
あちこちに刀傷があって、髪もぼさぼさ、顔だって泥まみれ。
私は腹、彼は腿に受けた傷はきっと今後の生死を分けるかもしれない。
けれどもそんなことはお互いにわかっていることだろうから、言いはしない。
「三成」
「なんだ」
「これからどうするの」
「ひとまず身を隠す。おそらく捕まれば処刑は免れないだろうからな」
「そう」
「お前は」
「そうだなあ、もうこれ以上の戦は出来ないだろうから浪人にでもなろうかな」
「ふらつくつもりか、怠慢者め」
「ふふ、私らしいでしょ」
「ああ。政務を投げ出し、こそこそと鷹狩りや甘味屋に行くお前らしい」
「いやそれはちょっと・・・政務が滞ったから一時休憩というか」
「ほう、休憩というのは四刻も五刻も使うものなのか。初めて耳にしたぞ」
「いつになく辛辣ね、三成」
「ふん」
まるで戦がおきる前の私と三成のようだ。
戦なんてない、ひとときの安寧の世のときのよう。
傷なんて忘れてしまうくらい、穏やかでいつもどおりの私と三成。
捕縛されるか死するかの二つの道しか残されていないのに。
「燐」
「なに?」
「すまない」
「え?」
「先に謝る、すまない」
何に対して謝るのか。
そう不思議に思っていたら急に私の腕は三成に引かれ、気が付けば私の身体は三成に包まれていた。
「愛している」
「お前だけをずっと愛している」
「ずっと前から、愛している」
つらつらと私に向けられる愛の言葉たち。
普段からは想像もつかないくらい饒舌な三成から告げられる愛の数々。
ああ、苦しい。
なんてひどい人。
「俺は、きっと徳川に捕縛され、処刑される。俺はお前と共に歩むことは出来ぬが、お前は生きてこの世の先を視てほしい」
「私に生き続けて、死した貴方をずっと愛してほしいと言うの」
「先に言っただろう、すまないと」
「・・・馬鹿」
「そうだな、俺はどうしようもない馬鹿だ」
三成の想いを知らぬまま死した方が幸せだったのか。
それとも、知って生き続けた方が幸せだったのか。
三成をどうして助けられなかったのか。
「燐殿」
「幸村」
「此度の戦、共に戦えて光栄です」
「いいえ、私こそ。私をこの戦に参戦させてくれてありがとう」
「武運を祈ります」
「幸村も」
三成は生きろと言った。
そして、愛していると。
愛していると言ってすまないとも言った。
過去の想いであったと出来たらどれだけ幸せか。
三成、それでも私は戦います。
それが生きることだと思うから。
貴方を愛すということだと思うから。
end
(・・・馬鹿が)
(それは貴方もよ、お馬鹿さん)
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