リズムに逢わせて(甘)
お題サイトDOGOD69様より
※現パロ
「ねえねえ、お願いよお」
「いや、無理だから」
とある夕暮れのカフェ。
そこには学校が終わったのであろう女子高生や、夕食は何だと話し合っている主婦たちなど、女性で溢れかえっている。
最近できたこのカフェは、ケーキが美味しいと評判で女性に大人気だそうだ。
友人にその美味しいケーキの情報で釣られ入店したのが十分ほど前。
さっそく出された季節のフルーツタルトに舌鼓を打ったのが、数分前。
そして、やっとネタばらしというか、私を釣った理由がわかったのが今だ。
「人数が合わなくって困ってるのよお、ホントいるだけでいいの!」
「いるだけって言ったって自己紹介とかしなきゃ、でしょ」
「自己紹介はしょうがないとして、ちょちょっと世間話したらあとはフェードアウトしていいから、ね!?」
「えー、世間話とか無理」
「おねがーいっ、燐様ーっ!私、この合コンにかけてんのよおっ」
そう、彼女が必死にお願いしているのはいわゆる合コンの人数合わせである。
女の子が1人ドタキャンしたらしく、その埋め合わせを私にしてほしいらしい。
けれど、急いで恋人がほしいわけでもないし、そもそも合コンという場があまり好きではない。むしろ苦手だ。
というか、1人ドタキャンしたならその旨を伝えてごめーんでいいじゃないか。
「ねえねえ、一生のお願いよおっ」
「それ前も聞いた」
「何でもお願い聞くからー」
「・・・ふーん、何でもね」
「T●Lの年間フリーパスでも良いよ何でもOKだから!」
「乗った」
私、簡単か。
・・・だって、あのネズミさんに会いたいしね。
・・・年間フリーパスとかかなりデカいしね。
・・・この子、今回にかけてるって言うしね。
「・・・はあ」
やっぱり来なければよかった。
フォローするから、とか言っていた友人はすっかりロックオンしているであろう男性に夢中で、私なんか蚊帳の外だ。
他の女の子たちもそれぞれ気になる男の子に話しかけたり、盛り上がっている。
彼女に恥をかかせないようにと、一応それなりの格好をしてみたものの、自己紹介をしてフェードアウトするつもりが余計に捕まってしまった。
これならいっそのこといつもの格好で来れば、捕まることもむしろ空気扱いされフェードアウトできたのではないかと思う。
まあ、会話が盛り上がらないと判断したのか、男の子たちはもう私に話しかけたりはしないから実質私はもう空気になれたのだけれど。
「(・・・帰ろうかな)」
トイレに行くふりをして、しれっと帰ってしまえばいいのではないだろうか。
代金は先に彼女に渡してあるし、帰る準備はばっちりだ。
・・・よし、そうと決まれば帰ろう。
「ごめん、ちょっとトイレ」
「うん、わかったー」
メロメロになって私に視線すら向けることもなくなった彼女に一応断りを告げ、しれっとフェードアウトをすることにした。
他の人たちも気が付いていないようで、私が席を立っても視線を向ける人はいなかった。
よしよし、成功だ。
「ふー、終わった」
トイレで化粧直しをしたら、終わったからか何だかすっきりした気持ちになった。
今回に懸けている友人の成果を見ることは出来ないが、後日良い報告を聞ければいいなと思う。
ま、その前に年間パスポートをいただきますけれどね。
一気に足どりが軽くなったのか、現金な私のヒール音は軽快だ。
よーし、このまま帰るぞ!
「あれ、君も帰るんだ」
「・・・あ」
勢いよくお店のドアを開けたら、ドアの外にあった喫煙所で煙草を吸っていた男の人に話しかけられた。
ふと見ると、何となく見たことのある人だった。
「ああ、もしかして忘れているのか。さっき一緒にいたんだけれどな」
「あ、ああ!立花、さん」
そういえば、いた。
一緒に座っていた女の子たちがカッコイイカッコイイ言っていた男の人だ。けれど、あまりに成果が現れなかったのか、高嶺の華と諦めたのか、少し経ったら女の子たちは別の人をターゲットにしていたような気がする。
にしても、なんでここにいるのだろうか。
「そういえば、君もずいぶんつまらなさそうにしていたね」
「君も、ということは立花さんもですか」
「ああ、人数合わせで頼まれて来たんだが、あいにくああいうのはあまり好まないのでね」
「あ、私もです」
いつの間にか吸っていた煙草を消して、帰り道送るよなんてスマートに薦めてくる。
そのあまりに自然すぎるそれに流されたのか、私たちは当たり前のように帰路を歩いていた。
「あの子が君の友人だったのか」
「はい」
「そうか。根はいい男だからうまくいくといいな」
あれほど合コンでは無言を徹していたのに、立花さんとの会話は途切れることはなかった。
仕事の話とか、さっきの合コンの話とか、通りかかったお店のメニューの話とか。
偶然にも方向が同じで親近感をおぼえたのか、彼の性格なのかはわからないけれど、歩いているときも、電車の中でも話したまま。
穏やかな気持ちになるのと同時に、この時間が途切れなければいいのになんて思っている自分がいた。
信じられない、
でも、この気持ちを私は知っている。
「あ、ここです」
「そうか。今日はお疲れ」
「送ってくれてありがとう」
「いや、かわまない」
さっきまでの私は何だったのか、どんどん速くなる鼓動に思わず苦笑せずにはいられない。
そんな初恋したての少女なんて歳でも柄でもない。
それなのに、この気持ちは何だろう。
「立花さん」
「どうした?」
「あの、良かったら連絡先を交換しませんか」
「ああ、もちろん」
ああもう、鼓動が聞こえてしまいそう。
手の震えも馬鹿みたい。
「連絡しますね」
「待ってる」
「お気をつけて」
「ありがとう」
一目惚れなんて、信じたくない
けれど、
これは、恋慕だ。
「ああ、そうだ」
「?」
「今日の服、似合ってる」
ああもう。
鼓動が止まりそうだ。
「・・・・・・っもう」
立ち去る大きな背中に、
小さな抵抗。
end
(高鳴るリズム)
(今日から不定期に最大音量で)
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