震える指先は孤独(甘)
お題サイトDOGOD69様より
※現パロ
あれは、オリオン座。
みっつ並んだ星が目印。
あれはベルトで、
あっちが右腕で剣を持っているんだよ。
じゃあ、左は?
メドゥーサの首?
違う違う、それはペルセウス。
アンドロメダを助けたヒーローだよ。
じゃあ、先生は助けてくれるの?
私、ひとりぼっちだよ。
「さむっ」
天体観測に欠かせないのは、雲一つない夜空と澄み切った空気、それから光の少ない場所。
いつだか教わったそれは今でもしっかり覚えていて、何を思ったのかそれを実行しようと私は今ベランダから夜空を見上げている。
「結構ビール飲んだから酔いでぽかぽかのはずなんだけれどなー」
これもまたいつぞや教わったオリオン座は冬にしか見られない星座で、ベランダに突っ立ってた私の体はもちろんだが冷えてくる。
こんなんだったらきちんと着こめばよかったなー、なんて思うけれど部屋に戻って着直すのはなんだか面倒くさくって。
ほんの数メートル先なのにね。
「寒いぞー私のヒーロー」
早くペルセウスみたいに冷え切った私を助けに来てよ、ペガサスになんて乗らなくっていいからさー。
夜にベランダに女が一人いたらぼっちなの?って見られるじゃんかー。
おそらくバスルームでうたた寝しているであろう私のヒーローに念を送ってみる。
きっと届きはしないけれど。せっかくだ、くしゃみの1回くらいはしてほしい。
「くしゅんってね。くしゃみしちゃえばいいんだ」
そしたら自分のくしゃみにびっくりして起きて、ちょっとだけお湯に溺れかけちゃって。
なーんて。
「ふふ。くしゅんってね」
「なにそれ?くしゃみの練習?」
「うわっ、いたの?」
はい、ってちょっとでっかいパーカを私にかけたのはさっきまでヒーローなんて言ってた人物で。
っていうかそれ、さっきまで着てたやつでしょ。
「天体観測かい?」
「うん」
「まったくそんな薄着していたら風邪をひいてしまうよ」
「だってお風呂上りにビール飲んだら暑くって」
「お馬鹿さん、もうすっかり冷えてしまっているじゃないか」
「えへへ、ごめん」
ちょっとだけあったかいパーカに袖を通すと、ちょっとだけ手が出た。
うーん、やっぱり大きい。
「ねえ、久しぶりに天体教えてよ。毛利センセ」
「ん、その響きなんだか懐かしいな」
「でしょう?」
「じゃあ復習しようね九条さん」
「はい、先生」
あれは、オリオン座。
みっつ並んだ星が目印。
あれはベルトで、
あっちが右腕で剣を持っているんだよ。
じゃあ、左は?
メドゥーサの首?
違う違う、それはペルセウス。
アンドロメダを助けたヒーローだよ。
「ふふふ、懐かしい」
「ね。もう何年前のことかなー」
「元就さんは全然変わらないね」
「君は変わったね」
「なあに?老けたってことー?それ」
「違う違う。なんだか変わったんだ」
「そう?」
そりゃあそうですよ。
アンドロメダにはペルセウスがいて、
私にはあなたがいるんだから。
「いい笑顔」
あのときも私は、あなたに救われていたんだよ。
今思えば、みんな抱えるようなありきたりの悩みだったけれど、あのときの私にはすごく辛かった。
その辛さから救ってくれたヒーロー。
「さ、冷え込んできたから戻ろう」
「うん。あ、元就さん」
「なんだい?」
「今日、抱っこして眠ってほしいなー、なんて」
豆鉄砲を食らった鳩みたいな、びっくりした顔。
そのあとちょっと照れくさそうに頭を?いて。
そのあとまたあの大好きな笑顔を浮かべて。
「そうだなー。その前にちょっとお付き合いしてね」
「え」
「君がいきなり先生だなんて言い出すからだよ」
あれ、ちょっと意地悪そうな顔。
「いやあ、懐かしいなあ。君が先生だなんて」
「いや元就さん。穏やかな笑みの割にはめちゃくちゃ力強いんですけれどね?」
「ああごめんよ。抱っこだっけ」
ひょいっと私をいとも簡単にお姫様だっこして、さっきみたいな意地悪そうな笑みを浮かべる。
どうやら私のヒーローはちょっと意地悪みたい。
「優しくしてね?」
「善処するよ」
私を助けてくれたヒーローは、ペルセウスよりも優しくって。
ペルセウスよりも素敵で。
ペルセウスよりも意地悪みたいです。
でも私をひとりぼっちにしない、素敵なヒーロー。
end
(私だけのヒーロー)
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