君はいつも悲痛なまでの愛を叫ぶ(切)
お題サイトDOGOD69様より
その駆ける姿はいつも美しい
けれど
どこに駆けるの
「よお、お姫様」
「何度言えばわかる。私は姫などではない、私は」
「戦士、だろ?」
「貴様っ、知っていて言っているだろうっ」
「許してくれよ。君がどんなに言おうと俺には君が華麗なお姫様に見えるんだ」
「ふんっ、付き合い切れん。私は政宗様の元へ行くぞ」
「おい待ってくれよ!俺もついてくぜ」
戦場を駆ける一輪の花。
それが彼女だ。
今日も敵を槍で突き崩し、新たな敵に向かい一直線に駆けている。
彼女の想いの籠もった槍は、敵を次々と薙ぎ払っては、貫いてゆく。
彼女の想いはただひとつ。
主を守り、主に笑ってもらう為。
「政宗様!」
「遅いわ、馬鹿め!」
「申し訳ありません。思いのほか伏兵の数が多く、それにより片倉軍及び鬼庭軍が進軍出来ず。援軍要請をしておりましたので加勢しておりました」
「そうか、戦の状況を申せ」
「はい。さきほども申し上げましたが敵伏兵はほぼ壊滅。おそらく敵軍は伏兵に戦を懸けていたのでしょう、主軍の勢いは既にほぼ無く、伊達軍の勝利も時間の問題かと」
「燐、慢心するでないぞ」
「は、必ずや生きて伊達に勝利を捧げます。では、御前を失礼します」
「生きて帰れ、命令じゃ」
「はいっ」
政宗が笑っていられるなら。
たしかに彼女は言った。
政宗が生き生きと笑っているためなら何でもする、と。
「お姫様」
「なんだ、また貴様か」
「なんだってそりゃねーぜ?さすがの俺も傷ついちゃう」
「ふん、なら一生そのままでいろ。私は前線へと向かう」
「お、おい。待てって」
けれども、俺は知っている。
彼女の忠誠心の裏を。
政宗の背に向かい報告している君がどんな表情をしているかを。
どんな女の表情をしているかを。
それをひた隠しにする、苦しさ、悲しさ、虚しさを。
「はっ、やあっ、はあっ」
彼女が功績を上げれば上げるほど、政宗の天下人への道は近くなる。
政宗は天下人へ向かって真っ直ぐ進んでいける。
それでしか表現出来ない、不器用な君。
「敵将、討ち取った!」
「「「ワアアアァア!」」」
敵大将を討ち取っても喜びは一切出さず、静かに自軍の本陣があるであろう方角を眺める。
おそらく政宗を想いながら。
「撤退だあ!撤退撤退!!」
「伊達の勝利だ!勝ち鬨を上げろー!!」
伊達の勝利。
それでも彼女は喜ばない。
喜びに顔を綻ばせる兵たちを少しだけ見た後、静かに本陣へ戻っていった。
彼女はいつ笑う?
政宗の笑顔を望む彼女は、一体いつになったら笑うんだ?
「政宗様、ただいま戻りました」
「報告は後でよい。今は休むことを先にせよ、下がれ」
「はい」
天下をずっと見据える政宗もまた笑うことはない。
彼女がどんなに戦果を立てようとも、彼女の声を背に聞くだけでずっと天下を見据えているだけ。
悲しい、不器用な愛。
「お姫様」
「貴様か、武働き御苦労」
「そりゃあお姫様と親友の為だ。いくらでも手を貸すぜ」
「そうか、恩にきる」
そして、政宗をずっと見続ける彼女の小さな背を、ずっと見続ける俺。
一方通行の愛。
「今日の戦はお姫様の戦果だな」
「政宗様の采配があっての勝利。私の戦果などではない」
「政宗も褒めてたぜ?お姫様の武勇は政宗の誇りだってな」
「政宗様がだと?」
「ああ、この耳で政宗本人から聞いたんだ。間違いはねえよ」
「・・・そうか」
ああ、この顔だ。
美しい女の顔。
陶器のような肌に少しだけさした赤。
「孫市、ありがとう」
「ん?」
「私は政宗様の元へ生きて帰れた、しかしそれは貴様の助けあって達成できたこと。貴様の後方援護、感謝する」
「伊達の大事なお姫様だ。そう易々と敵にゃやらせねえよ」
「ふ、これからも頼むぞ」
「へいへい」
きっとこれからも彼女が政宗に想いを伝えることはないように、俺が彼女に想いを伝えることはない。
けれども、彼女が少しでも笑ってくれるなら。
彼女が少しでも俺を頼ってくれるなら。
俺は彼女への想いを、
隠して、彼女を守ってみせる。
たとえ、それがどんなに苦しくても。
どんなに、悲しくても。
守ってみせるさ。
end
(それが俺の(彼女の)愛)
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