後から付け足された言葉が貴方の本音(微糖)






お題サイトDOGO69様より





「元就公、あなたは総大将です。本陣でおとなしくなさってください!」


戦場に大きな声が響いた。


腰に手をあてて総大将である元就に叱る武将が一人。

彼女は燐。
元就の家臣で、彼女の先祖もまた毛利家に仕えていた。

幼き頃はお互いを好敵手として、よき武士となるよう高めあったり、また子どもらしく遊んだりもした。


「はは、すまない。しかし今動かせそうなのは私くらいしかいなかったんだよ」


幼き頃は松寿丸、と呼んでいた彼女も、時が経つにつれ元就公、と呼ぶようになった。

もう幼なじみではない、主と臣なのだというように。


「元就公、私が参ります。あなたは本陣にお戻り下さい。この辺りは片がつきましたゆえ」

「おや、すまないがそう言っている間に、違う軍が攻めてきたようだね」

「もう少し焦ってみてはいかがです」

「それは君もだろう?」

「行きますよ。さっさと片付けて、次に行かないと」

「はいはい」


互いの背を護り、次々と敵をなぎ倒す二人の姿。

背は元就が、燐が守るから目の前の敵に果敢に挑む。

その姿は恐れたり逃げるそぶりを見せず、むしろ楽しそうにも見えた。



「元就公、宴の準備ができてますよ」




合戦は大勝。

知の元就、武は燐。
互いの力が上手く鼓舞し合った合戦であった。

合戦の後、いつもの部屋に元就が書物を読んでいると、行かないんですか、と燐が現れた。


「おや、燐こそまだ行ってなかったのかい」

「元就公、あなたを迎えに来たのですよ。主役でしょう」

「燐、戦は終わったんだ。君ももう普段通りにしてくれないか」

「ふふ、聞き慣れませんか」

「うーん、大分慣れたつもりなんだけれどね」


戦のときの重苦しい防具は当然ながら身につけておらず、女物の着物に身を包む燐。

その姿は、どこにでもいる、一人の可憐な女であった。


「元就様?」

「・・・あ、ああすまない。今行くよ」


その姿があまりにか弱くて。

いつか自分の届かないところへ消えてしまいそうに思えて。

目の前の一人の女。

元就様、と呼ぶ燐。


戦場を駆ける女。

元就公、と呼ぶ燐。



「元就様、戦はまだありますよ。きっと」

「きっと続くだろうね」

「でも、今は笑っていましょうよ。せっかく輝元様が宴を準備してくださったのですから」

「うーん、年寄りはお酒は控えないとねえ」

「謙信公にもお聞かせしたいくらいですね、それ」


この何気ない会話もいつまで続くのだろうか。

いつか、いつか、盛者必衰という言葉があるように。

きっと壊れる日がくるのだろうか。


元就は燐の姿を見ながら、考え続けた。



「元就公、いかがなされましたか」


それからひとつき。

戦は止むことを知らず、毛利家は再び戦火に巻き込まれた。

先陣は、燐。

彼女が駆けていくと軍の士気が一気に上がる。

戦の功績を喜ぶ反面、心配にも悲しくもなった。


「燐」

「あ、元就公。これより出陣致します。今回はくれぐれも出陣なさらずにおとなしくしていてくださいね」

「はは、善処するよ」

「私は武を存分に奮いますゆえ、ご心配なく」

「いつも君の働きには感謝しているよ」

「もったいなきお言葉。光栄です」


ふと消えてしまいそうで。

気が付くと燐の腕を引き、抱きしめていた。

抱きしめる腕の震えに元就は苦笑いしながら、胸の中に収まる小さな鼓動を感じていた。


「・・・先陣は私なのでしょう?」


突然のことに驚きが隠せない燐。

耳に当たる元就のくせ毛をくすぐったく思いつつも、元就の腕の中に収まっていた。


「ああ、そうだね」

「なら早く行かないと」

「ああ、そうだね」


「輝元様がお困りに「燐」」

「・・・なんでしょう」

「この戦絶対に勝つよ」

「いつになくやる気ですね、珍しい」

「そしたらまた団子を食べながら、花見がしたいな」

「また作りますよ、元就様」

「約束だよ」

「大丈夫。死なずに戻ってきますよ」



おねがいだよ。




「行っておいで」







end

(本当は怪我だってしてほしくないんだ)
(善処はしますよ)

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