優しく暖かい手(一護/風邪)
※如月泪様キリリク
ごほ、ごほっ
もう何回聞いた音だろうか
ごほっ、
おそらくいるであろう異物を外に出そうとしている音。
戦っている音。
「水、飲むか」
「ううん、いい」
「にしても珍しいな。お前が風邪ひくなんてよ」
「・・・まあ」
そう。私は現在進行形で風邪をひいている。
本来なら一人ベッドに横になりながら、病原菌がいなくなるのをひたすら待ち続けるのが定番だけれど、今回はどうやら違うようで。
「ごめんね」
「気にすんな。また今度行こうぜ」
「・・・うん」
元気だったら今頃は、なんて考えるとじわりと涙腺が緩んできそう。
ほら、風邪をひくと涙腺が緩くなるって言うし。
「治ったら映画行きたいなー」
「映画な、いいぜ」
「前にテレビでCMしてたやつ」
「ああ、あれか」
「絶対感動すると思うな」
「また号泣するかもな」
「もう、その話はもうダメー」
でも、お出かけはダメになっちゃったけれど、一緒にいられることに変わりはないから結果オーライなのかも?なんて考えも浮かんでくる。
だってさ、確かに普段から優しいけれど、今日は一段と優しいというか何というか。
「一護、それやめないでね」
「それ?」
「手」
「クク、いーぜ」
いつもの一護だったら、頭なんて撫でてくれないもの。
それなのに、今日の一護はベッドに寝転ぶ私の頭を撫で続けてる。
時々、冷えピタ越しに私のおでこに手をかざしたりもしてる。
元々、長男だしお兄ちゃん気質だからか、意外とその姿がサマになっているかもしれない。
「なんだか今日の一護、やさしーね」
「んだよ、いつもはそうじゃねえってか」
「違うよ。特に、ってこと」
「まあな、当たり前だろ」
「そっか、ふふ」
冷えピタを貼ってくれて、ゼリーを買ってきてくれて、ずっと一緒にいてくれて、ずっと頭を撫でてくれる。私のくだらない話にも付き合ってくれる。
もしかしたらこの風邪はラッキーだったのかもしれない。
一護の優しさ、あったかさに嬉しくなってくる。
「・・・眠いのか」
「うん、ちょっと」
「寝とけ、夜になればまた熱上がって寝づらいだろうしよ」
「うん」
けれど、その暖かさがだんだんと意識をふわふわとさせていく。
眠い、寝そう。
「・・・やだ、眠りたくない」
「もうほとんど寝てんじゃねーか」
「まだ、一護と一緒にいたい」
「寝ても帰んねーから、寝ろよ」
「・・・本当?」
「ああ、本当」
「約束だよ」
「ああ、護る」
―――だから、安心して寝ろ。
だんだん一護の声が遠くなる。
意識がぼーっとしてくる。
やだな、眠りたくないな。
そんな気持ちと裏腹に、私の意識は眠りの世界へ堕ちた。
約束だよ、一緒にいてね。
当たり前だろ、そう聞こえた気がした。
end
(起きたら飯食って)
(治ったら映画、行こうな)
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