数年越しの再会は


初恋は小学5年生のとき。
相手は、隣の家に住む双子の姉妹の、妹。
当時恋愛に関しては奥手だった俺は、思いを伝えることが出来なかった。
そりゃあ付き合えたらいいなとは思っていたけど、ハレルヤは可愛いし明るくてクラスの人気者だったから、俺のことなんてただの友達としか思ってないと思った。






そんな内にあっという間に6年生になって、そして卒業の時期になった。
俺と兄さんは家の方針で卒業後、中学時代を祖父が住んでいるアイルランドで過ごすことが決まっていた。
つまり、留学をするから、3年間はハレルヤに会えなくなってしまう。
その事実が俺の気持ちを逸らせた。
中学の間にハレルヤが誰かと付き合ったりする可能性は高い。じゃあ、その前に告白するしかないんじゃないか。
でも、それで万が一受け入れてもらえたとして、すぐに離れ離れになってしまう。ハレルヤを縛ってしまう。
そんな告白、ただの自己満足じゃないか。自分のためにハレルヤを犠牲にしようとしてるんじゃないか、俺は。
俺は。






結局、告白はしなかった。
兄さんはアレルヤから告白をされたらしい。内気なアレルヤの大胆な行動に驚いた。
出発の日、空港へ向かう前に俺達は隣の家、ハプティズム家のお見送りを受けていた。
兄さんとアレルヤは、それはもう恋人のそれで、羨ましくないと言ったら嘘になるだろう。実際羨望の眼差しで見ていたと後で言われた。
で、ハレルヤはというと、

「ごめんなさいね。あの子朝からずっと部屋に篭ってるの」

ハレルヤのお母さん曰く、自分の部屋で篭城を決め込んでいるらしく、家の前にはいなかった。
最後に挨拶くらいしたかったけど、出てこないんじゃしょうがないよな。






あっという間に出発の時間になり、俺と兄さんは車に乗り込んだ。
発車しても、アレルヤたちはずっと手を振っていてくれた。俺達も後ろを向いて手を振りかえした。
ハレルヤの姿は最後まで見ることができなかった。







それから数年が経ち、俺達は日本に帰ってきた。
季節は暦の上ではもう秋。実際は残暑どころかまだまだ夏真っ盛りなのだが。
なぜこの時期になったかというと、向こうの学校は9月から始まるためにずれこんでしまったのだ。
卒業してすぐこっちの高校の編入試験を受けた俺達は、しっかりと合格して2学期からの編入が決まった。
そして今日が、その日。






少し早めに来た俺達は、教務室を目指して意気揚々と学校の敷地へ入っていった、のだが。

「広っ…なんだここ…広すぎじゃね?」
「もう疲れたんだけど」

マンモス校と聞いてはいたけどまさかここまで広いとは。試験のときは校舎ではなくセミナーハウスという別の建物で行われたから全然知らなかった。
教務室なんて適当に探せば見つかるだろと思っていた自分を殴ってやりたい。

「あーもうやだ。俺達これから毎日ここ通うの?教室すら辿り着けねえよ」
「まあ…しばらくしたら覚えるだろ。ほら行くぞ」

兄さんに急かされる。はあ、と盛大にため息を吐いてまた歩き出そうとすると、

「こんなところで何してんだ?お前ら」

振り返ると、恐らく教師だろう男がいた。

「あー、もしかして例の転校生か。迷ったのか?」
「あ、はい…」

兄さんが少し恥ずかしそうに答える。するとその先生がくつくつと笑って「初めてなんだからしょうがねえよ」と返した。やっぱり広すぎるんだ、ここ。

「教務室はこっちだ。着いてきな」

そう言って歩き出す先生が天使に見えた。男だけど。





結局その先生は俺のクラスの担任だった。だから俺達の顔を見ただけでわかったんだろう。なんとも、運がいいことだ。

「アリー・アル・サーシェスだ。担当は保健体育。まあ、よろしくな」
「よろしくお願いします」

俺は今教務室のサーシェス先生の席で説明を受けている。兄さんも、自分のクラスの担任と話しているようだ。
一通り説明を受けた後、俺は教室へ向かうため先生の後を付いて行っていた。
それにしても広い。だだっ広い1つの校舎があるのではなく、少し大きめの校舎がいくつも並んでいて、結果広い上にわかりにくい構造になっているのだ。
廊下には俺と先生しかいない。HRが始まっているのだろう、喧騒もなかった。

「教室はここな。とりあえず廊下で待ってろ」

そう言うと先生は少しざわついている教室へ入っていった。
ああ、なんか今更緊張してきた。転校生だもんな。受け入れてもらえるだろうか。
とりあえず深呼吸しよう。息吸ってー、吐いてー。よし、もう1回吸っ…

「よし、入れ」

吸おうとしたところでお声がかかった。ああ、まだ半分くらいしかリラックスしてないのに。
でももう入れと言われたものはしょうがない。意を決して目の前のドアを開き、踏みしめるように歩き出した。
教室に入った途端、ざわめきが一気に大きくなった。何だ、俺何か変なことしたか?
殆どが女子の声だったから、ここは女子の方が多いんだろうかとも思ったけど、見てみるとそうでもなかった。普通の学校と同じ、ほぼ半々といったところだ。

「転校生、自己紹介」
「あ、はい」

先生の声にそう返事をして、俺は簡単に自己紹介をした。クラスメイトの、特に女子の視線がなんだか怖かったので少し顔を上げ気味にしてしゃべった。
それから席を教えられた。窓際の1番後ろという席替えでは是非とも引き当てたい席だ。
俺が席に着いてからは、先生が軽く諸連絡を話して終了となった。瞬間、俺の周りは人でいっぱいになった。予想はしてたけど少し慄いた。そして女子しかいない。
もうそれからは質問の嵐。帰国子女って本当なのーとか、どこに住んでるのーとか、もう色々。
それに内心辟易しながら、ああハレルヤもこんな感じになってるのかなあと、数年会っていない幼馴染を想像していると、

「クリス、これ頼まれてたやつ」

と、周りの女子の喧騒の中でそれだけがいやにはっきりと耳に入ってきた。
綺麗な声だ。素直にそう思った。周りの女子で姿は見えない、それがもどかしかった。女子にしてはほんの少し低めのその声の主がたまらなく気になった。
立ち上がって見てみようかと思ったその瞬間、話してる相手であろう女子の口から、俺にとって衝撃の言葉が発せられた。

「あ、ありがとーハレルヤ!」
「え?」

ついというか反射的にというか、気がついたら俺は立ち上がっていて、椅子のガタリという音が大きく響いた。
周りの女子達が「どうしたのー?」などの言葉をかけてくれているが、生憎今の俺には1人しか見えていない。
驚いたような表情でこちらを見ている、記憶の中の姿を美しく成長させた、俺の幼馴染の。

「ハレルヤ…」

意識せずに言葉が口をついて出てくる。それだけ俺は驚いていた。まさか、ここで、こんなところで会えるなんて。
あれから何も連絡をしなかったから、どこの高校にいるかなんて全然知らなかった。偶然って恐ろしい。
ずっとこっちを見ているだけで何も言わなかったハレルヤが、ようやっと口を開く。
出てきた言葉は、

「誰」
「えっ…?」

今度は俺が驚く番だった。










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