04

天海くんと分かれた私はいい匂いに釣られて食堂に戻ってきた。
「んあー、空腹で腹と背中がくっつきそうじゃー」
「東条さんが昼食を作ってくれていますのでもうしばらくの辛抱です!」
「アンジーも斬美の料理楽しみだよー」

どうやら東条さんがみんなの分の昼食を作っているらしい。

「名字さんもお昼にしませんか? 転子の横の席空いてますよ!」
茶柱さんに声をかけられたちょうどその時、最原くんや赤松さんも食堂に入ってきた。
最原くんが「あっ……」と声を漏らしたが、特に気に留めることもなく茶柱さんの横の席へ向かう。


「はい、じゃあ遠慮なく……っ!?」
座ろうと椅子を引くと、机の下から王馬くんが飛び出してきた。
「きゃあ!」
「にしし。オレもお昼食べよーっと」
危うく倒れそうになった私を他所に、王馬くんは何事もなかったかのように右隣の椅子に座る。

「幼稚な男死め! 名字さんに危害を加えるなんて許しませんよ!」
左隣では茶柱さんが唸って王馬くんに威嚇している。私を挟んで喧嘩をしないでほしい……。

私はまだドキドキしている胸を抑える。
「それにしても……ずっと机の下にいたんですか?」
「失礼だなー、そんな暇人じゃないよ!最原ちゃんと赤松ちゃんと一緒に入って来たんだよ?」
最原くんと赤松さんを見ると、彼らはうんと頷いた。

「僕達が扉を開けた瞬間に、さっと横を通るのが見えたんだけど一瞬で机の下に潜っちゃって……」

本当にいたずらっ子だな……。ジョークでは済まされないようなこともするが、純粋な子どものようにこの状況を楽しんでいるようにも思える。

「名前と小吉は仲良しこよしだねー!」
「別にそういうわけじゃ……」
「そうなんだよねー! もうオレ達意気投合しちゃってすっごい仲良しの大親友なんだー!」
たはー!と笑う王馬くんと、もの凄い剣幕で怒る茶柱さんに板挟み状態の私は成すすべもなく真ん中で縮こまっているしかない。
最原くんと赤松さんの同情的な視線が向けられている。



「さあ、出来たわよ」
そうこうしているうちに東条さんはテキパキと料理を運んできてくれた。何か手伝わなきゃ……と思っている内にすべての料理が揃う。

「やはり和食はいいですね! 健康的でバランス良く栄養を摂取できます! 身体が資本! ネオ合気道をするにも食事は大事です!」
茶柱さんの話を半分聞き流しながら、私は目の前の料理に釘付けになっていた。
東条さんが出してくれた料理はシンプルな和食なのだが、全てがキラキラと輝いて見える。食欲をそそる匂いもあって一刻も早く食べたいとお箸を手に取った。


「いただきます」

慎重におかずを口の中に運び、じっくりと味わう。
美味しい……。
私は頬を抑えた。絶品すぎてほっぺたが蕩けてしまうかと思った。
特に焼き魚に舌鼓をうつ。魚の身がふっくらしていて味付けも丁度良く、高級日本料理店で出てきそうな品だ。



他の人たちが食べ終わり、食器を片付けている中、私は少量残したまま座っていた。
「名字さん、量が多かったかしら? それともお口に合わなかったのかしら?」
東条さんが申し訳なさそうに声をかけてくれる。
「いえ! お料理本当に美味しかったです。ありがとうございます。なので、ルーちゃんにも少し分けてあげようと思ったんです」
「ルーちゃん?」

そういえばまだ一部の人にしかルーちゃんのことを話してなかった。私はウエストポーチからルーちゃんを取り出す。
「この子がルーちゃんです。動物が苦手な方もいるかと思い、皆さんが食堂を出てからにしようと思って待ってたんです」
ルーちゃんを見た東条さんはわずかに微笑んだ。
「そのウエストポーチにラットがいるなんて思わなかったわ。かわいいわね」
「う、嬉しいです……! ネズミってだけで嫌がる人が多いのに……! よかったね〜ルーちゃん!」
私は満面の笑みでルーちゃんを撫でる。

「名字ちゃんは本当に動物バカだねー!」
「バカで結構ですよー。私はこの子…動物たちを愛してますから! むしろ光栄です!」
「うんうん。それでこそ名字ちゃんだよね!」
これって馬鹿にされてるよね……。


動物たちのためなら自分を犠牲にできる。
本気でそう思っているけれど、これって動物バカなのかな?



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