09

プールを開放させた私と最原くんは一つ残ったアイテムを持って中庭を歩く。
しばらくすると前方から百田くんが近づいてきた。どうやらこのアイテムが使えそうな場所があるらしい。彼に案内してもらい辿り着いたのは中庭の奥まった場所だった。

「終一が持ってるそれ、ここに使えそうじゃねーか?」
「試してみるよ」
最原くんが六角クランクを操作するとその先には怪しげな雰囲気のエリアが広がっていた。

「なんでしょう、ここ……」
「怪しいね」
「奥に行ってみようぜ」

二人が歩き出してしまったので慌てて追いかける。その敷地の中には派手なピンク色の建物とカジノ。曲がりなりにも高校生が集う学園の中にある施設とは思えない。


「おおー! カジノじゃん! オレ、カジノで負けたことないんだよねー!」
弾んだ声が聞こえた方へ振り向くと、楽しそうに目を輝かせる王馬くんがいた。
この人はどこからともなく現れるな……。そんなことを思いながら一応ツッコミを入れる。
「カジノは年齢制限があるのでまだ入れないですよね?」
「あぁ、オレは悪の総統だからどんな所にでも入れるんだよ」
「え? 嘘、ですよね……?」
「うん! 嘘だよ!」
そう言って王馬くんは楽しそうに施設内を見て回る。

「名字、あいつの言うことに振り回されんな」
「は、はい……」
呆れたように私を見る百田くんの言葉に一応頷く。
これでも王馬くんの言動に振り回されなくなってきていると思っていたのだけど。


カジノを見て回り、再び一階に戻ると入間さんが景品を見ていた。何やら真剣な顔をしている。
「何か気になるものでもありましたか?」
「あ? なんだまな板根暗女かよ」
入間さんは私を見るなり大きなため息をついた。なんか…私ですみません。話しかけない方がよかったのかな。
入間さんとはあまり話したことがない。人見知りなのもあるけれど、その……いろいろと発言があれなので。

立ち去るべきか会話を続けるべきか迷っていると、気配もなく後ろからひょっこり現れた王馬くんが景品の一つを指して声をかけてきた。
「名字ちゃん! これどこに使うんだと思う?」
私は心臓が止まりそうなほど驚きながらも、王馬くんの指で示されているものに目を向けた。
「え、っと……鍵、ですか……? どこに使うんでしょう。そもそも鍵本来の目的として使うのか、ただのアクセサリーなのか、それすらもわからないですね」
「使ってみたい?」
「そうですね……気にならないと言えば嘘になります」
「ふーん、そっか。名字ちゃんも意外とやるね! オレと使ってみよっか!」
「どこで使うか知っているんですか?」

「名字さん、王馬くんの言っていることは無視していいから」
やけに楽しそうに笑っている王馬くんに首を傾げていると、いつのまにか最原くんが側に来ていた。
最原くんが呆れたように私に注意を促すと、王馬くんは心外だとばかりに眉を釣り上げる。
「えー、最原ちゃん酷くない? オレは無知な名字ちゃんに手取り足取り教えてあげようとしてるのにさあ!」
「手だけじゃなくて足も使うのぉ!? ああん! そんな高等テク、オ、オレ様はもちろん何べんもヤッたことあるけど!?」

……い、入間さんは何の話をしているのだ!?
王馬くんと入間さんのよく分からない会話にたじろぎながら私はその場を後にした。



すべてのアイテムを使い終って、私達は一旦解散した。
私はその足ですぐに研究教室へ向かう。


私に与えられた楽園!聖地!極楽浄土!
勢いよく教室の扉を開けた私の目に飛び込んできたのは、意外な人物の姿だった。

「あれ、星くん?」
「名字か、邪魔してるぜ」
「いえ、研究教室は誰でも自由に出入りできますからね。この教室に来てくれてうれしいです。星くんも一緒に動物を愛でましょう! そして元気や癒やしを共有しましょう!」
「あんたもそんな風に元気に喋れるんだな」
つい興奮して勢い良く喋ってしまったことを指摘された。恥ずかしい。

「あ……変……ですよね。すみません。でも星くんと癒やしを共有したいのは本当です」
俯きがちに言葉を紡ぐと、星くんは少し呆れたようだが普段よりもほんの少し明るい声音で話す。
「フン……あんたもお人好しだな。お人好しは損をするぜ」
「お人好しなんかじゃないですよ。ただ動物が好きなだけです。動物のためなら自分を犠牲にだってできますから。そして、その動物の良さを他の人にも伝えたい……それだけですよ。星くんにも動物に癒やされてほしいなーなんて……」
星くんはウサギを触りながら私の言葉を聞いていた。

星くんは自分の命を軽く見ている節がある。動物と触れ合ったらそんな気持ちも吹き飛ぶのではないかと思った。
いらぬお節介かもしれないけど。

「それをお人好しと言うんじゃないか? 俺を元気づけてくれてるんだろ?」
星くんはチラリと私の方を見るとまた視線を戻した。私の考えなんて星くんにはお見通しのようだ。

「だがな……俺とあんたじゃ犠牲の覚悟が違う。俺のこんなゴミみたいな命は捨てた方がいいんだからな」
星くんがここまで自分の命を軽く見る発言をしているのには私では到底考えられないような理由があるのだろう。

それでも、動物にはそんな鬱屈した感情をも吹き飛ばす力があると信じている私は、星くんの力になれるだろうか。
「星くんは好きな動物はいますか?」
突然の私の質問に、星くんは動きを止めた。暫くの後、ぽつりと言葉をこぼす。
「動物……か。昔猫を飼っていたな」
「猫ですか! あのプニプニな肉球と触り心地のいい毛並みが最高ですよね! 基本的に自由気ままなんですけどたまにすっごく甘えん坊な子もいてかわいいんですよ〜」
「その気持ちはわかるぜ。あいつらを触ってる時は辛い事を忘れられる……」
「ですよね! 今すぐ触りたいくらいです。残念ながらここには猫はいないんですけど…そうだ、ここを出たら皆で猫と戯れましょう! 癒やされること間違いなしです」
「そうだな」

気がついたら星くんは目を細めて柔かい表情をしていた。それは微妙な変化だったけれど、少しでも彼の心を開けたのかもしれない。

その後も私たちは動物と戯れた。

どうも私は動物の前では気が緩んでしまうらしい。
動物好きという星くんの意外な一面を見れて顔がニヤけていたことを静かに指摘された。また恥ずかしい思いをしたけど星くんとの距離が縮まったように感じたので気にしないことにする。




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